2019年03月23日

点字入力ソフトに、漢点字・六点漢字入力機能を追加しました

先日、数年ぶりのbrlinputの更新をしましたが、続けてまた更新です。今回は漢点字および六点漢字の機能の追加です。日本漢点字協会から許諾をいただいたので、晴れて漢字直接入力機能追加したものを公開です。ついでにいろいろ用語の見直しや、設定ウィンドウの内容を見直しをしました。バージョンは1.5です。

ダウンロード>>>> brlinput1.5.zip

主な更新内容

・基本機能に漢点字・六点漢字の漢字直接入力を追加

README.md の作成

・点字タイプ入力ソフトという表現を点字入力ソフトに変更

・設定メニューの項目、及び設定ウィンドウの内容の見直し

・Unicode八点点字直接入力を漢点字用(01234567)と一般用(12345678)に分けた

・両手入力で点字入力中を示すキー「A」を追加して同時押ししにくいキーボードに対応(片手入力のスキップキーの応用)

・点字コマンド「56の点+スペース」で漢字変換切り替えを手元でできるようにした

・Ctrl+Shift+Alt+B を起動ショートカットとした

・Ctrl+Alt+Bを標準の設定メニュー呼び出しキーとした

・Ctrl+Alt+変換 のトグルキーによるモードの切り替えを廃止

漢点字、六点漢字の追加が主要な更新です。モードの切り替えなしに、基本機能として漢字の機能を入れています。というか日本語出力から外せません。かな入力しか使わない多くの人は特殊音などで余計にスペースを叩かないといけないので面倒に思われるかもしれません。

どちらも第1水準・第2水準の漢字を搭載しています。なお漢点字は公開者によって新字・旧字の文字コードに多少の揺れがありますが、これはKTOSの出力の方に合わせています。六点漢字には「凜」、「熙」が存在しません。

六点漢字のデータは、Taisuke FukunoさんのGithubサイトhttps://github.com/code4sabae/tenjiのデータを、六点漢字協会 発行監修・コアライフ六点漢字の会 発行編集の「よく解る六点漢字の本」で修正し加工して使用しています。

最後に、プログラムの種別名を点字入力ソフトに変えてみました。キーボードの操作に関しては点字入力で間違いはないのですが、点字しか出力できないみたいで、名称としては避けていました。でも、やはりこちらが分かりやすいかなと。



拍手する
posted by takayan at 22:12 | Comment(0) | 点字入力 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年03月14日

点字タイプ入力ソフトに、テンキー点字入力機能を追加しました

以前作った点字タイピングで文字を打てる Windows用のソフトbrlinputを更新しました。関心のある人はダウンロードして使ってみてください。動作確認はWindows10のみで行っています。今回はインストーラー無しです。

->>>> ダウンロード

### 主な更新内容

* テンキー点字入力  
* 片仮名、平仮名の切り替えを、23の点のみに変更。
* さらに仮名切り替えの選択肢にローマ字出力を追加(Windows の検索ボックスなど、仮名だと漢字変換できないときに使用する)
* 英字数字の全角・半角の切り替えを追加し、操作は45の点とスペースで切り替え   
* アップデート機能
* Ctrl+Alt+変換での入力方式の切り替えを変更。1回だけだと無効と有効の切り替え。違う入力方式には2回以上。
* AOKメニューへの登録(管理者権限で実行)

今回の、大きな更新は、テンキー点字入力機能です。テンキーで点字の点の番号を指定して仮名や点字を出力できるようにしました。

漢点字と六点漢字は今後対応したいと考えていますが、実験的に数文字だけ登録しています。


### 更新の動機

PC-Talker付属のKTOSがWindows10の更新1809で使えなくなっていて、困っている人がいることを今年になって知りました。僕のソフトが少しは役に立つのではと、以前の問題点をいろいろ改良してみました。

少し手こずっている間、KTOSは二月末にベータ版が出たようです。近いうちに正式版も出でるしょう。僕のソフトの更新の意義もちょっと弱まってしまいました…


### テンキー点字

今回、テンキーの数字と記号を使って、点字を出力する機能を追加しました。

・点字のマスを数字01234567の集まりで表します。
・六点点字⠿は左側上から123、右側上から456で表します。
・八点点字⣿は、漢点字を考慮して、六点点字の上に0と7の点を追加するものとします。
・数字は原則一つずつ入力します。しかし同時押し気味でも問題なく認識します。
・一つの点字の終りには小数点「.」を打ちます。
     例. 「あ」は1. 「き」は126. 漢点字「木」は01267. 漢点字「目」は01234567.
・複数のマスから成る点字はプラス「+」かマイナス「-」でつなぎ、最後にピリオド「.」を打ちます。
     例. 「が」は5+16. 漢点字「相」は0126+1234567. 六点漢字「乙」は26+24+3. 「うぉ」は26+24.
・モードの切り替えなども可能です。これらの動作はいままでのキーボードで使うものと同じです。
     例. 「23.」で仮名を切り替えたり、「4567.」でメニューを出したりできます。
・テンキーのない機種でもナムロックを有効にすればJKLなどのキーで使えます。
・この記法の問題点の一つはスペースを後置しなければならない文字を意識できないことです。

これで、キーを同時に押さえられない機種でも、この点字入力ソフトを使うことができるようになりました。



拍手する
posted by takayan at 02:44 | Comment(0) | 点字入力 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年11月13日

OpenJTalkの共有ライブラリを作ってみました。

お久しぶりです。

ずっと書いてませんでした。その間、もうだいぶ経ちますが、熊本地震で家が半壊になったりしてました。

最近、また文章を書きたくなったので、投稿を再開します。

ご挨拶は、これくらいにして、さて本題です。

OpenJTalkの音声をいろんなプログラミング言語から便利に使える、共有ライブラリを作ってみました。名前はとりあえず、jtalkDLLです。Windows、Ubuntu、macOS で動作します。 以前からlinuxのスクリーンリーダー用に非同期発声対応の日本語音声合成APIを作りたかったというのが切っ掛けでした。そちらはまだ完成してないのですが、途中から各言語のFFIに対応させるのが面白くて、そちらに偏ってきてしまったという感じです。

githubに公開しています。

https://github.com/rosmarinus/jtalkdll

README.md に詳しい説明を書いているので、それを読めばインストールできるでしょう。でも、ちょっと細かく書きすぎて読む方はうんざりするかもしれません。

Windows 版だけ、Releaseページにビルド済みファイルを置いてあります。ビルドも環境を構築すれば、build.batのダブルクリックでうまくいくはずです。

他のプラットフォームでは必要なコマンドをそろえたあとで、次のコマンドでインストールしてください。

git clone https://github.com/rosmarinus/jtalkdll.git
cd jtalkdll
bash build

ffiフォルダにあるサンプルコードやそれから実行ファイルを作るビルドスクリプトを参考にすれば、いろいろ書けると思います。

https://github.com/rosmarinus/jtalkdll/tree/master/ffi

まだいくつか不具合もあります。その点もREADME.mdに書いてあります。



拍手する
posted by takayan at 07:56 | Comment(2) | 音声合成 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年05月27日

点字タイプ入力ソフト「brlinput」のバージョンアップ

久しぶりの投稿になります。去年作ったbrlinputというソフトを更新しました。点字タイピングで文字入力ができるソフトです。興味のある方は使ってみてください。特徴としては片手入力ができることです。対象はWindowsVISTA以降です。お約束ですが、自己責任でご利用ください。

次のリンクからダウンロードできます。

インストーラ版: [BrlinputSetup1.17.msi](https://app.box.com/s/g8hnoar683555bswv8c5y7gmx9b9dna7)
(md5:2c7dc75dba9bdc322cd0172b09f45c4f)

ZIPファイル版: [brlinput1.17.zip](https://app.box.com/s/2bbfb5z2et7cxxoz5pwwv60um0cirmkh)
(md5:59957d780c2a41e22df4ffd779f69bd9)

不具合の指摘をコメント欄でいただいてから開発を再開したのですが、次々に別の不具合に気づいたり、新しいアイデアが浮かんだり、なかなか公開できませんでした。

件の「最初に入力した文字がそのまま出てくる」不具合は、キー入力になってはじめて必要になるアセンブリ(dll)をロードする処理の重さが原因のようでした。もしかすると他にも理由があるかもしれませんが、とりあえず自宅の処理の遅い仮想マシーンのWindowsではこの問題は起きなくなりました。

基本的な使い方は以前書いたので端折ります。「点字タイプソフト作ってみました。(2014/04/15)」をご覧ください。これには古い情報がいくつもありますが、以下の情報で読み替えてください。

主な変更点は次の通りです。

* インストーラ作りました。
* NVDAのAPIに対応し、入力文字の読み上げやガイドをNVDAで行えるようにしました(nvdaControllerClient32.dll同梱)。
* PC-TalkerのAPIにも対応しました(ただしVISTAでの仮名の読み上げには対応していません。漢字変換を利用してください)。
* かな入力モードおよび六点入力モードで、4-5-6-7の点を入力すると、このソフトのメニューが開くようにしました。従来の方法、タスクトレイのアイコンでアプリケーションキー、もしくは「点字(状態)バー」で右クリック、でも開きます。
* 設定画面を作りました。メニューの中の「設定」で開きます。設定された内容はレジストリを使わず、config.jsonに書き出されます。インストーラを使ってこのソフトを導入した場合は、ユーザーフォルダのAppData\Roaming\brlinput内に作られます。ZIP版を使って導入した場合は、brlinput.exeと同じ場所に作られます。
* SAPI5やMicrosoft Speech Platformの音声を選べるようにしました。もちろんあらかじめパソコンに日本語音声合成が入っている必要があります。
* 情報処理用点字に切り替えられるようにしました。切り替えの方法や入力は点字表記の情報処理用点字と同じです。
* 入力モード切り替えのショートカットキー(標準はALT+CTRL+変換キー)を設定画面で変更できるようにしました。
* カタカナを直接入力できるようにしました。「2-3の点」もしくは「2-3-5の点」でカタカナ開始、「2-3の点」でカタカナ終了です。
* カタカナ切り替えに利用したため、「ゐ」と「ゑ」は本来の点字入力ができなくなりました。かわりに、4-6の点を前置符号として、それぞれその後に「い(1-2の点)」、「え(1-2-4の点)」で入力します。これは漢点字の方式からの借用です。
* ユニコード点字は点字そのものをテキストとして表示するものですが、それを行う六点直接入力、八点直接入力で、点字を読み上げる機能を加えました。設定画面で指定できます。なおユニコード点字そのものを入力するには、フォントSegoe UI Symbolなどが入っている必要があります。
* 点字確認キーを追加しました。これは点字入力を学習する人向けの機能です。Hキーでクリップボードの1文字の点字を表示し、読み上げます。Gキーではクリップボードの読み上げる位置を移動させながら、確認できます。
* 点字入力の状態を表示する「点字状態バー」を入力位置に追従できるようにしました。点字学習者やロービジョンの方の確認用です。
* デスクトップやスタートメニューへのショートカットを作成・削除できるようにしました。メニュー内の「ショートカット作成」から行います。ここではウィンドウズ起動時の自動起動の設定も行えます。
* 点字状態バーに表示される点字を画像として描くようにしたので、ユニコード点字フォントがないパソコンでも表示されるようになりました。この点字は文字色と同じ色で描かれます。ハイコントラスト(左shift+左alt+PrintScreenで切り替え)の時も同様です。また六点漢字(現在未対応)の対応を見越して4マス表示できるようにしています。

bar

次はメニューです。仮名入力の時、4-5-6の点とスペースを押して、手を離すと開きます。このソフトの仕様ですが、7の点としてのスペースや点字と組み合わせたコマンドのスペースの押下のタイミングは単独のスペースと区別するために、点字のキーを押さえた後に押します。

この方法でメニューが出ないときは、タスクトレイのアイコンから開いてください(Windows+Bのあと、矢印キーでアイコンに移動後、アプリケーションキーです)。

menu

次は設定ウィンドウです。上記メニューの設定項目を選んでエンター(クリック)で開きます。特に説明はいらないと思いますが、フォネティック読みは「朝日のア、いろはのイ、上野のウ....」といった例の読み方で、音声合成が聞き取りにくいときに使います。

settei

最後に、このソフトは入力情報の記録をとることはありません。また外部に情報を送信する機能はありません。



拍手する
posted by takayan at 02:37 | Comment(8) | TrackBack(0) | 点字入力 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年02月05日

《春》 描写に関係する文章

この絵を見て分かることから、この絵と関係のありそうな古典を探してみます。

 

画面に向かって左側の一番端には、一人の上を見上げた男性が描かれています。布か皮の茶色の、踵のあたりから翼の生えた二重の折り返しのある靴を履いています。形はサンダルではなくしっかりと足の甲や足首を包んでいますが、つま先の方はサンダルのように親指と人差し指の間にひもが通っていて、足の指がすべて出て、地面に指が着いているようです。左足が正面の鑑賞者の方を向き、左足の先は斜めに開いています。

左手は腰に当て、右手は頭上へと伸ばしています。その右手で二匹の竜のようなものが巻き付いている杖をまっすぐ上へと差し伸ばし、霞のようなものを触れています。頭には金属製の二重のつばのある兜をかぶっています。つばや装飾は金色をしていますが、丸い部分は紺色のように見えます。

その兜の下には、くるくると巻いた茶色がかった豊かな髪があふれ出しています。顔は右横を向き、目は杖の先を見上げています。口は、口笛を吹いているのかしゃべっているのか分かりませんが、薄く開いています。服装ですが、大きな赤い一枚の布の中程を右肩にかけています。帯をしているわけではなく、左腰にある左手で押さえて止めているように見えます。

左手の下に何か留め具があるのかもしれませんが、左手を腰から外したら、そのまま左半身がはだけてしまいそうです。体にかけている布の淵には、ぎっしりと小豆色の丸い装飾が埋め込まれています。この布の全面には、クラゲの足のような四五本の曲がった金色の線の小さな塊がいくつも描かれています。

この布の上から彼は剣をぶら下げています。刀は鞘に入って、左の太もも上を通って斜め外へと描かれています。黒い鞘には、右肩から伸びる黒い輪が留められています。刀の束は黒みがかって植物的な装飾がされています。鞘の先は柄と似た材質でできていているようで、湾曲し鋭くなりながら伸びています。鞘をぶら下げている紐は黒く、等間隔に丸い立体的な装飾が取り付けられています。

 

この像はおそらくメルクリウス(マーキュリー)でしょう。翼の生えた靴を履いていること、これは竜ですが二匹の蛇が巻き付いた杖を持っていること、そして本来は帽子ですがかぶり物をしていることで、彼がメルクリウスだと判断していいでしょう。ただメルクリウスが刀を持っているという記述は知りませんし、蛇であるはずのものが竜である意味も、帽子ではなく兜である理由も、本来の描写と違います。それでも彼はメルクリウスと言えるでしょう。

そこで、メルクリウスが記述された有名な古典を探すと、古典ギリシャ語で書かれた『ホメロス風讃歌』の『ヘルメス讃歌』が見つかります。これには長いものと、要約した短いものがあります。この両方に興味深い表現があります。ヘルメスの母マイアの特徴として「巻き毛の」、「洞窟に隠れ住む」という修飾がされています。

また長い方には「美しい靴をはいた」という記述があります。これは真ん中にいる一般的にはウェヌス(ヴィーナス)とされている女神の特徴に重なります。彼女はベールをかけているので、あまりよく見えませんが巻き毛のようです。ただ他の女性も巻き毛のように見えるのでこれだけでは断定できません。

しかし女神の後ろにある木々でできた丸いアーチは、確かに「洞窟」を連想させます。そして、彼女の履いている金色の細かな細工がされたサンダルは、はっきりと「美しい靴」といえるでしょう。この絵の中には他に靴を履いている女神はいないので、間違いようがありません。これはただの思い過ごしかもしれませんが、この符合は興味深いものです。

このギリシャ語の文章は詳しく解釈する価値があるでしょう。「美しい靴」の記述は長い方にしかないので、そちらを解釈すべきなのでしょうが、全部で580行もあり、そう簡単にはできません。そうやって以前解釈したのが12行の短い方です。これをも一度解釈し直してみましょう。そのあと長い方の重要そうなところを調べていくことにしましょう。

Ἑρμῆν ἀείδω Κυλλήνιον, Ἀργειφόντην,
Κυλλήνης μεδέοντα καὶ Ἀρκαδίης πολυμήλου,
ἄγγελον ἀθανάτων ἐριούνιον, ὃν τέκε Μαῖα,
Ατλαντος θυγάτηρ, Διὸς ἐν φιλότητι μιγεῖσα,
αἰδοίη: μακάρων δὲ θεῶν ἀλέεινεν ὅμιλον,
ἄντρῳ ναιετάουσα παλισκίῳ: ἔνθα Κρονίων
νύμφῃ ἐυπλοκάμῳ μισγέσκετο νυκτὸς ἀμολγῷ,
εὖτε κατὰ γλυκὺς ὕπνος ἔχοι λευκώλενον Ἥρην:
λάνθανε δ᾽ ἀθανάτους τε θεοὺς θνητούς τ᾽ ἀνθρώπους.
καὶ σὺ μὲν οὕτω χαῖρε, Διὸς καὶ Μαιάδος υἱέ:
σεῦ δ᾽ ἐγὼ ἀρξάμενος μεταβήσομαι ἄλλον ἐς ὕμνον.
χαῖρ᾽. Ἑρμῆ χαριδῶτα, διάκτορε, δῶτορ ἐάων.

 

この次に調べるのは右側です。右端にいるのは、薄く青い肌をした翼の生えた男性です。彼は絵の右端から飛んできて、周囲に生えている木々の間から抜けてきたようです。彼の髪と翼、体をまとう布も肌よりも少し濃い青をしています。彼は左下にいる女性を抱えています。右手で彼女の右肩を、左手で彼女の左脇を捕まえて、軽く持ち上げているように見えます。辛うじて彼女の右足の先は地面に着いているようです。

彼女が着ているのは薄い衣で、透けて中の肌まで見えています。その衣は意外に長く、地面について広がっています。この衣は透明な無地ですが、股から下の部分には黒い草の模様が見えます。これは衣の向こう側が透けて見えているようにも見えますが、所々衣に描かれた模様のようでもあります。下の裾にだけ金色の縁取りがついています。

翼の男と彼に手をそえられている女は見つめ合っています。女の体は前を向いているので左の方に振り返りながら彼を見上げています。彼は頬を膨らまし、彼女の方へと息を吐いています。息の流れが白い筋として描かれています。一方、女の方は男の顔を見上げながら、口から花の咲いた草を次から次へとこぼしています。この草花は男の作った風に飛ばされるようにして、左に流されながら落ちていきます。

草花を口からこぼしている女の左隣には、花柄の服を着た女が描かれています。彼女はもっと後ろの方から歩いてきたかのように、左足を前に右足を後ろに描かれています。顔は進む方向をまっすぐ向いています。彼女の全身は花で満たされています。服だけでなく、髪にはいくつもの花を差し、首には花の首飾りを掛け、胸の下にはいくつもの花の咲いたバラの蔓が巻き付いています。おなかが大きいので妊娠しているのかもしれません。隣の女とは違い、服は透けておらず下の肌は見えません。その白い服には、いくつかの種類の植物が丁寧に一株一株描かれています。腕の部分は、金色の鱗状の模様のある布を結びつけたものが見えています。

おなかの下のあたりで、左手で服をたくし上げ、そこにたくさんの花を載せて抱えています。右手はその花の塊の中に入れていて、花をつかんでそれを撒こうとしているようにも、花がそこから落ちないようにしているようにも見えます。よくみるとこの花の塊の横には草履のような焦げ茶色のものも一緒に抱えています。これがいったい何なのかはよく分かりません。

左肘のあたりから右下の方に、白い帯状のものが流れて花の塊につながっています。この帯状のものは何かよく分かりませんが、葉のような大きな白い装飾が縁にいくつも並んでいます。これは左肘にある装飾と同じ形をしています。左肘から出ているものはすぐに体の後ろに回り込んでいるので、右肘からのもののように長いかどうかは分かりません。

この花柄の女の体の上を、透明な衣を着た女の両手が重ねて描かれています。右手はまっすぐ左下に伸ばされ、花柄の女の左ももの方に届きそうです。左手の肘は直角に曲げられ、右手の上を通って、花柄の女の左肘から二の腕のところに描かれています。両手はともに開いて驚いているような仕草になっています。この花柄の服の上に重ねられた手をよく見ると、服の柄のはずの植物の一部分が手の上にもかかっている奇妙な描写があります。

 

画面の右側には、このように三人像が重なるように描かれています。この重なりにはそれぞれの人物が絵の中の物語でも密接に関わり合っていることを予想させます。頬を膨らまし息を吹いている有翼の男と口から花草を出している女の組み合わせは、オウィディウスの『祭暦』5巻に出てくる花の女神フローラ(クロリス)と西風の神ゼフィロスです。194行は口から春のバラの息を出している女神フローラの記述があります。

dum loquitur, vernas efflat ab ore rosas

この後に書かれているのですが、彼女を誘拐して妻にしたのが、西風ゼフィロスです。風の神は翼とともに描かれるので、絵の中の有翼の青い男がゼフィロスだと分かります。体が青いことがとても奇妙ですが、それがなぜなのか今の段階では分かりません。

この行の後に、フローラ自身が自分は以前ギリシャ語でクロリスと呼ばれていたことを語ります。

Chloris eram quae Flora vocor: corrupta Latino
nominis est nostri littera Graeca sono.

この記述をもってEdgar Windは『Pagan Mysteries in The Renaissance』の中で、透明な服の女神をクロリスが花柄の服の女神フローラに変身したと解釈しました。また高階氏は『ルネッサンスの光と闇』の中で、その変身の解釈を踏襲し、さらにクロリスの指の上に花柄の一部が描かれていることを、この女性も服の向こう側にいるべき存在であることを示すとして、変身を強調する描写と指摘しました。

口から花を出す女神よりも、花柄の服を着た女神をフローラと解釈したい気持ちは分かります。しかし花を口から出しているだけでも、上記にそう記述されているので、彼女自身が既にフローラであることは示されています。また《ヴィーナスの誕生》に描かれている花柄の服の女神はフローラではなくホーラとしか解釈できません。つまり花柄の服を着ているからといって必ずしもフローラではないことを示す一例になります。同じ作者の作品においてこのような例があれば、その可能性も考慮する必要があるでしょう。

この記述を先に進んでいると217行目から次の内容があります。これはフローラの台詞ですから、上の句とちゃんとつながりがあります。

conveniunt pictis incinctae vestibus Horae,
inque leves calathos munera nostra legunt;
protinus accedunt Charites, nectuntque coronas
sertaque caelestes implicitura comas.

ここにあるHoraeは季節女神ホーラたち、Charitesは優雅の女神カリスたち(三美神)のことです。三美神はこの絵の中に確かに描かれています。そして《ヴィーナスの誕生》で花柄の服を着ているのがホーラの可能性があったのですから、この記述によって《春》の花柄の服の女神もホーラであると示せるかもしれません。

このように『祭暦』のフローラが出てくる5月2日の記述がこの絵に関係しているようです。言葉遊びを使って詳しく確かめてみましょう。ただ5月2日の記述は、全部で220行もあります。これを解釈するのは大変です。以前調べたのが、下記の213行から228行までの16行だけでした。これの再検証と、もっと範囲を広げていくのが今回の目的です

saepe ego digestos volui numerare colores,
nec potui: numero copia maior erat.
roscida cum primum foliis excussa pruina est
et variae radiis intepuere comae,
conveniunt pictis incinctae vestibus Horae,
inque leves calathos munera nostra legunt;
protinus accedunt Charites, nectuntque coronas
sertaque caelestes implicitura comas.
prima per immensas sparsi nova semina gentes:
unius tellus ante coloris erat;
prima Therapnaeo feci de sanguine florem,
et manet in folio scripta querella suo.
tu quoque nomen habes cultos, Narcisse, per hortos,
infelix, quod non alter et alter eras.
quid Crocon aut Attin referam Cinyraque creatum,
de quorum per me volnere surgit honor?

 

『祭暦』の記述の中に三美神が出てきたので、きっと三美神の描写は上記の中にあるでしょう。しかしもっと詳しい三美神についての文章を見つけました。それが先日述べたフィチーノの『愛について』の一文です。

Circulus itaque unus et idem a deo in mundum, a mundo in deum, tribus nominibus nuncupatur.
Prout in deo incipit et allicit, pulchritudo;
prout in mundum transiens ipsum rapit, amor;
prout in auctorem remeans ipsi suum opus coniungit, voluptas.
Amor igitur in voluptatem a pulchritudine desinit.

この文章は前述のEdgar Wind の『Pagan Mysteries in The Renaissance』の中で引用されていたものです。ピコ・デラ・ミランドラのメダルに刻まれた三美神の周りにある銘文「PULCHRITUDO AMOR VOLUPTAS」の典拠として示されました。メダルの三美神に対して三つの単語ですから、それぞれがその女神の名前を左から順に表していると考えられます。

しかしWind はそのあとで《春》においては、右から順に、PULCHRITUDO CASTITAS VOLUPTASと断定してしまいました。つまりAMOR(愛) がCASTITAS(貞節) に置き換わっています。これは別の当時作られたジョヴァンナ・トルナブオーニの三美神メダルの銘文「CASTITAS PULCHRITUDO AMOR」と折衷させたものです。Wind のネオ・プラトニズム的解釈では、質素な身なりであることや、右辺のクロリスからフローラへの変身に対応させるために、三美神の真ん中の女神はウブな貞節である必要がありました。

しかし《春》を眺めていると、このピコ・デラ・ミランドラの配列で問題ないように思います。その理由は、三美神の周りにいる神々の存在です。右端の女神は美しい画面中央の女神のそばで彼女に手をかざされ祝福されているのでPULCHRITUDO(美)を表し、真ん中の女神は上空のクピドから首筋を狙われているのでAMOR(愛)を表し、そして左端の女神は男性の体のそばに寄り添っているのでVOLUPTAS(快楽)を表すと解釈できます。

そう考えて、このフィチーノの言葉を見直してみると、この記述がこの絵の中の三美神の描写そのものに見えてきました。この文章の前後も含めて、フィチーノの文章を再び解釈してみます。

 

以上のように、三つの文章がこの絵に関係があると思われます。これらの文章は以前も解釈したのですが、範囲が広げられないか試しながら、解釈を整理してみます。



拍手する
posted by takayan at 12:52 | Comment(0) | TrackBack(0) | プリマヴェーラ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする