2004年11月19日

Companion Cavalry

「BATTLE LINE」というカードゲームを手に入れた。
以前からほしかったのだけれど、ずっと入手困難で、やっと最近手にはいるようになった。

ゲームを手に入れるととりあえずカードに書いてある意味を自分で訳してみる。
今回もそうした。そのとき引っかかったのが、"Companion Cavalry"という単語の意味だった。

日本語マニュアルを見ると、援軍騎兵。
でもこれは違うなと思った。
それで、ネットで数時間探しまわった。
結論は、アレキサンダー大王の精鋭部隊、ヘタイロイ騎兵のことだった。

たった一つの単語が分からないだけだったのに、
オンライン辞書をたよりに日本語英語でかかれた歴史の読み物を読み回った。世界史の勉強をしてしまった。

詳しくは、WikiPediaの Alexander the Great
http://en.wikipedia.org/wiki/Alexander_the_Great
で、Companion Cavalryというキーワードを用いてページ内検索。


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2007年04月04日

ピンキリ再考

以前ここに書いたピンキリの語源の続き。
数ヶ月たって読み返してみると結論ありきの自分でもちょっと偏った論証だなと感じてしまった。新しいヒントも見つけたので、もう一度考え直してみようと思う。

キリの語源にはいくつかの説がある。適当に番号をつけると、
仮説1)十字架といえばキリスト。十をその形からの連想でキリストと呼び。その省略でキリと呼んだのではないか。
仮説2)十字架はポルトガル語でクルス。それが10を示す言葉に転じて、クルスが訛ってキリとなったのではないか。
仮説3)日本語の「切り、限り」という言葉は最後の物という意味。天正カルタでも最後の札をキリと呼ぶが、これはその意味で使われたのではないか。

仮説1を知ったのは前回紹介したテレビで見たのが最初だった。検索すると他の場所でも語られているのがわかった。仮説2は広辞苑などの辞書に載っている。いわば定説的なものである。仮説3の前半と天正カルタにキリという札があるということはこれも広辞苑に書かれていること。

前回は、天正カルタ第十二番目の最終カードを「キリ」と呼んでいたという事実から、仮説1と仮説2におけるキリと10という値との結びつきが弱いのではないかという指摘をした。だから僕はこの三番目の説がもっとも論理的なのではないかと書いた。

しかし最近「株札」というのを知った。これがあるとちょっと事情が違ってくる。

カブは天正カルタがきっかけで日本で行われるようになったゲーム(博打)である。資料「日本カルタ略史」によると、享保年間に盛んになり、後に専用札も作られるようになったとある。そしてその専用札は今でも売られている。(参照:株札-世界遊技博物館株札-ギャラリー 花札
参照先の「株札」の画像を眺めてみると、いくつかの点に気がつく。各札に漢数字で番号が振ってある。そして最後の札には漢数字の十が書かれている。漢字というより図案化されて国旗のような十字架が描かれている。

仮説1と仮説2は、この株札を根拠にしているのではないだろうか。最高位が十のこの株札に対してキリという語が使われていたのならば、十字架とキリの結びつきを知ることができたのではないだろうか。もちろん逆にこの「十字架=キリ」説から、図案化された十字が使われる十札が作られたのではないかと考えることもできる。仮説1や仮説2が唱えられるようになったのはいつ頃だろうか。この株札のことを調べていくと、もっと面白いことがわかるかもしれない。

まったくの憶測なのだが、カルタが大衆化されたのはカブなどの博打によるところが大きいだろうと考えると、言葉を作るのは大衆であるのだから、カブやキンゴなどの10ランクで遊ぶゲーム(博打)の影響はかなり大きかったのではないかと思う。ただこの考えだと、広辞苑の「切り」の項目にも書いてあるように天正カルタの第12位の武将札がキリと呼ばれていたという事実との整合性をどうするかが問題になってくる。

カブの専用札ができる以前は天正カルタの11札と12札を取り除いた10枚で遊んでいたらしい。そのゲームでの最高位のカードが仮説3の考え方により「キリ」と呼ばれたのならば、12札から言葉を借用してカブでの10札をキリと呼んでいたことはないだろうか。カブで遊ぶ人たちにとっては11札と12札を使うことはなく、10札が最高位のカードとなる。そして廃れてしまった天正カルタやうんすんカルタの情報をほとんど知らない後代の人が、現存していた株札を眺めて、後付けで仮説1や仮説2を作ったのではないだろうか。

逆に10ランクが最後となる株札(数を落とした天正カルタの転用でもいい)において、仮説1か仮説2の理由でキリという言葉が使われるようになり、それがあとから「最高位の札」という意味でも使われるようになって、本来の12ランクの天正カルタでも最後の武将の札(REI/KING)に対して転用されていったのかもしれない。

どちらにしても昔にカブもしくはキンゴで10をキリと呼んでいたという資料があれば、仮説1や仮説2も多少の説得力が出てくることになる。残念ながら今回はネット上では探し出せなかった。

カルタのことを調べていると、江戸時代に書かれたいくつかの文献が重要な資料になっていることが分かった。しかし僕はこの資料をまだ手にしていない。ネットで見られる引用の断片だけだ。それを実際に調べることができれば、勝手に考えた自分の憶測の間違いや、また新しい考えを気付くかもしれない。それにしてもたいていの辞書に載っている定説とも言えるクルス説の最初の出典は一体どこなのだろう。


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2007年04月05日

うんすんカルタの用語

ウンスンカルタには聞き慣れない用語がいろいろ出てくる。
その中で由来の分かったものを書いてみる。分かったのは、どれもポルトガル語由来の言葉。

・スートの言葉
オウル ← ouro(gold)
コツ  ← copa(cup)
イス  ← espada(sword)
ハウ  ← pau(wood)

・絵札の言葉
ソウタ ← sota(?)
カバ  ← cavalo(horse)
レイ  ← rei(king)


対応する英語が見つからなかった sota の意味をポルトガル語辞書で調べてみると、「damas nas cartas de jogar」とある。カルタの女性でいいようだ。 copa の英訳が妙なのでポルトガル語辞書で引くとトランプで使われる copa は copo の古形とある。そしてその copo を英訳すると cup となった。

ここまで分かると他の言葉もきっとポルトガル語にあるんだろうと思ってしまうのだけど、そうはうまくいかない。それにしても竜札のロバイはなぞだ。

スペイン語の可能性も否定できないので、日本での名称がポルトガル由来であることを確認するために、スペイン語でのラテンスートの呼び名を調べると oros、copas、espadas、bastos。ウンスンカルタで使われる「ハウ」はポルトガル語でしか見つからないようだ。絵札は sota、caballo、rey。ただしスペイン札では sota は男性の姿をしている。


■利用したページ
Lingua Portuguesa On-Line ... ポルトガル語辞書
AltaVista Babel Fish Translation ... 多言語翻訳


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2007年04月06日

うんすんかるたのロバイ

イスのロバイの画像
丸一日休みだったので、図書館に調べものに行ってきた。昨日分からなかったロバイを調べるために。さっそく、書籍検索をしたら、山口吉郎兵衛著「うんすんかるた」(1961年刊)が書庫にあった。カルタの歴史を調べてみると必ず出てくる重要な研究書だ。現物を手にすることができるとは思っていなかった。

表紙を開くと圧倒される。天正カルタ、うんすんかるた、すんくんかるたなどの全てのカードを版木から刷ったものが折りたたまれて挟み込まれている。復元した色刷りの歌留多もある。たくさんの図版。いろいろな文献に現れるカルタについての記述など。日本におけるカルタの歴史を調べるならば是非とも目を通しておきたい本だ。そう思っていた一冊に、あっけなく出会うことができた。

うんすんかるたのスートや絵札の呼び名は、やはり天正カルタからの継承だった。当然そうだと思っていたが、資料を知らなかったのではっきり書けずにいた。典拠は1688年に書かれた黒川道祐著「雍州府志」にあるとわかった。

この本はタイトルにうんすんかるたとあるが、うんすんかるたを中心に書いてあるというわけでもなかったが、それでもうんすんかるたについてもいろいろと知ることができた。ただ目的のひとつだった竜札の呼び名「ロバイ」の由来については分からなかった。この本では竜とは別に、このカードをロハイや虫と呼ぶということがわかった。

次にポルトガル語辞書を使って調べることにした。オンライン辞書ではさんざん調べたが、紙の辞書だと前後の単語を見ることができるので、もしかするとみつかるかもしれないと淡い期待を抱きつつ。

辞書の棚に行くと、普通の辞書に混じって面白いものを見つけた。「ヴァチカン図書館蔵葡日辞書」。ポルトガル語が書いてあって、そのあとにポルトガル式のローマ字表記で当時の日本語の発音のまま日本語訳を書いてある。また本の後ろには難しいローマ字表記で書かれた日本語の索引があって、それを使うと日本語からもポルトガル語を調べることができる。全編ポルトガル式のアルファベットで、慣れないとどこに日本語が書いてあるのかも分からない。難しそうだが、これは使える。

さてこの辞書でいろいろ調べてみた。そしてさっき見つけた「虫」を調べてみた。虫の表記はこの辞書の方式だと、muxi と表記される。この表記に気付くのに時間がかかった。そしてこの索引から調べ当てたのが、ポルトガル語の lombriga である。

こんな綴りじゃ適当な入力で出てこないはずだ。でも lombriga を どうやれば、ロバイ、ロハイに訛るんだろうか。かといって、全然遠いというわけでもない。これは当たりかな!
lombrigaを普通の葡日辞書で調べてみる。白水社の「現代ポルトガル語辞典」。すると、結果は、
lombriga f.線形動物、回虫、ミミズ

当時と現代では意味が違ってるかもしれない。それでも、回虫?ミミズ?でも、やっぱりこれですね。竜だと教えられずに、この絵を見たら、まさしくミミズのようなにょろっとした虫ですね。それにしてもポルトガル人も本国のドラゴンカードを虫と呼んでいたんだろうか。日本人の模写があまりにもへたくそだったので、虫と揶揄したんだろうか。日本人が勝手に虫と名付けたのならポルトガル語なわけがない。いや、日本人があまりにも虫、虫いうんで虫のポルトガル語を教えてやったんだろうか。なぞはまだ残る。

※画像は私物のうんすんかるたのイスのロバイ。




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2007年04月07日

株札のカブ、あるいはもう一つのカバの話

オウルのカバ
株札を調べていて、そのカブとは何だろうかと思った。株札で遊ぶ「オイチョカブ」というゲームがあり、それは第8札の名前「オイチョ」と第9札の名前「カブ」に由来するらしい。このオイチョはポルトガル語の8(オイトoito)から来ているのはすぐにわかるが、ポルトガル語の9はノブnoveなのでちょっと苦しい。スペイン語でもヌエベなので駄目だろう。

9の札はなぜカブと呼ばれるようになったのか。いろいろ考えてみる。

ポルトガル語でカブに似た語はないかと見回してみると、天正カルタやうんすんカルタでは騎馬武者をウマ、カバと呼ぶ。カバならばカブに変化してもおかしくないだろう。このカバはポルトガル語の馬札を指す cavalo(馬)に由来する言葉。騎馬武者は天正カルタで11の札。第11札はカブゲームでは使用しないので関係ないのではないか?でもこう考えるとどうだろう。天正カルタで第11札のカバは第12札のキリのひとつ前のカードになる。そこで株札でも最終札のひとつ前のカードということで9札をカバと呼んで、それが訛ってカブになったのではないだろうか。そのとき9の意味のノブに音が引きずられたりしたのかもしれない。騎馬武者を示すがカバと、ゲームを示すカバが違う概念となって発音の上でも区別されていったのかもしれない。この考え方はどうだろう。

では、ゲームの名前はどうしてカブと呼ばれるようになったのだろか。第9札の名前がカブだからという理由でもいいのだけれど、昨日紹介した山口吉郎兵衛著「うんすんかるた」の中では、p.39でCAVOというトランプの用語から来たのではないかと指摘している(どんな意味か忘れたけど)。でも、あえてその説はとらないことにする。検証しようにもCAVOについての情報がわからないからだ。

かわりにその本の中で紹介されている山口氏が由来がわからないとしている40枚カードセットの版木に目をとめる。p.34にある「岸本文庫蔵オウル紋40枚カルタ版木」の写真。僕はこのカードがあやしいと思う。このカードでは、スートがオウルつまり硬貨の丸い形だけになって、それが10ランク各4枚ずつとなる。着目すべきなのは10番目のカードにウマ札が使われていること。また天正カルタは日本各地で様々な独自の発展をしていくのだけど、その中に四国地方で使われていた「目札」というのがある(資料:目札-ギャラリー 花札)。このスートもオウル由来らしい丸い形が使われている。構成は10ランク各4枚+鬼札。この第10札は独特の抽象的な絵札になっている。これをよく見ると下の方に赤い線で四本の足らしきものがある。他の地方札と見比べると分かるが(資料:地方札-ギャラリー 花札)、この札は騎馬武者を抽象化して作られていった可能性が高いと思われる。これがいつ頃から使われていたのか。手本としたものは何であったのか。これを調べるのも面白いだろう。

天正カルタでカブをする場合、ロバイが描かれたエースと合わせて数字札は9までしかないので、絵札で10札を代用しなくてはいけない。順位からすると第10札の女性従者札になるのだけれど、ここでは騎馬武者札を使用して目札の元になる天正カルタのセットが作られたのかもしれない。もしかすると時代がたってから成立した目札などのセットだけでなく、天正カルタを使った最初のカブというゲームの成立時にもこういう組み合わせが行われていて、それの名残としてこのオウル紋40枚なのかもしれない。騎馬武者札で10を代用するというこの特徴が本来のカブという名前の由来になったのではないだろうか。ゲームの名前としてカブが定着すると、ゲームそのものには関係していない絵札の選択はそれほど重要ではなくなってしまって、順序通りの10札を使うことが一般的になったのではないだろうか。

山口氏の「うんすんかるた」には他にもゲームの名前の由来が書いてある。キンゴの語源はポルトガル語の15(QUINZE)キンズから来ているのではないかという示唆がある。またこの本の中で「うんすんかるた」のカードセット以前に天正カルタによるゲームとしての「うんすん」が存在したのではないかという指摘もある。これに近い指摘が「トランプものがたり うんすんかるたのウン・スンモ説」でも語られている。ただしこのページでは従来の「うん、すん」=「um一、summo最高」説とは違う、スペイン語の11onceオンセ由来説が書かれている。同じことだが、スペイン語にしなくても、ポルトガル語の11はonzeオンゼというので、オンゼカルタ由来でもいいような気がする。これも面白い説だと思う。だって「うんすんカルタ」ではキリが最終札ではなくちょうど11番目にあるからね。

※この投稿の写真は私物のうんすんカルタの一枚(オウルのカバ)



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2007年04月27日

天正カルタ復元してみました

天正カルタ イスのキリ
400年前に日本で作られていたラテン型のトランプです。きれいなものが出来たので撮してみました。写っているのはイスのキリです(スペードのキングに相当)。

参考にしたのは、以前紹介した山口氏の研究書「うんすんかるた」と三池カルタ記念館監修の本「カルタ」です。


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2007年05月07日

竜を棍棒で殴ろうとする女

こつこつカルタの復元中。ブログを書く時間を全て天正カルタの復元に充てている。このブログは興味があることをまとめるために作ったものだから、現在興味が全てカルタに向かっているからブログが書けないのは当然だ。48枚完成するか、今回のように面白い発見があるか、それともいつものように飽きてしまうかすれば、またここに戻ってくるだろう。

天正カルタのハウのソータ

さて、このカードはハウのソータ。つまり棍棒スートの10番目のカード。女性の姿だが、天正カルタはポルトガルのトランプを手本にしているので、女王ではなく、女従者(ソータ)ということになっている。その後に騎士(カバ)と国王(キリ)が続く。それにしてもこの絵はシュールでいい。今まさに棍棒でドラゴンを殴らんとする女性の姿。日本独自というのではなく当時ポルトガルのトランプに描かれた特有の構図らしい。


三池カルタ記念館で復元された「ハウのソータ」をよく見てみると(後述の本の中の写真p.4)、右手首が描かれていない。棍棒がただ宙に浮いている。そういうデザインもあり得なくもない。しかし、同じ長物系スートである剣(イス)においてはソータの絵柄は振りかぶった剣で今まさに竜に斬りかからんとする図である。それに加え、頭と竜の間に右の二の腕らしきものも描かれているので、頭と棍棒の間に本来あるべき手首の線が欠落したのだと考えていいだろう。

竜と頭の間にあるものが髪の毛の一部ではなく二の腕であるのは、竜を捕まえているほうの左腕の二の腕の模様が裏付けてくれる。棍棒を振りかぶる以外にこんな腕の配置はないだろう。武器を隠し、左手で竜を愛撫しているという見方はちょっと苦しい。

記念館の復元で手首が描かれていないのは、元にした右手首が彫られていない版木を尊重したためだろう。僕も同じものを元にしているが今回はあえて右手首を描いてみた。この復元では忠実さよりもそういう整合性のほうを優先している。ただ不自然さも否めない。棍棒が太すぎるために大きな手首になってしまう。


ウンスンカルタのハウのソータ

この二枚目の画像は人吉で入手したうんすんカルタでの「ハウのソータ」。服装が東洋風になっているが、同じように棍棒を振りかぶっている。より合理的になって棍棒が上下がひっくり返り細い方を掴んでいる。ただ竜がいない。陽気に微笑みながら、意味もなくただ花の咲いている枝を振りかぶっている女性がいるだけだ。

実は左側にある袖らしきものが竜の成れの果てである。単独で眺めてもこれが竜だなんて思いつけない。上の天正カルタのハウのソータを知っているから、そうかもしれないと思うことができる。このうんすんカルタでは分からなくなっているが、他に伝わっているうんすんカルタではちゃんとした竜が描かれている。

山口吉郎兵衛氏の研究書「うんすんかるた」にはこのカルタも含めた三種のうんすんカルタの比較がされていてドラゴンの変化を確認できる。また後述の本「カルタ―PLAYING CARD」に載っているうんすんカルタはソータ札にドラゴンがはっきり描かれている(ただしハウのソータに髭があるが)。




参考資料

「カルタ―PLAYING CARD (大型本)」
これは日本のカルタの歴史について書かれた本。日本のカルタおよび世界のトランプについての貴重な図版がたくさん載せてある。小学校の図書館に置いてあったようなそういう感じの大型本。実際子供たちがトランプのゲームを覚えたり、カルタを作ったりするための易しい説明が載っている。

いにしえの旅 : No.07「ウンスンカルタ」
九州博物館連載記事 この記事の最後に髭のはえたハウのソータの画像がある。


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2007年05月12日

ロバイという虫(1)

うんすんカルタで竜の描かれたカードをロバイと呼ぶ。先日、これがポルトガル語のlombrigaから来ているのではないかと書いた。(うんすんかるたのロバイ参照)。

ロバイの札は昔から虫とも呼ばれている。だからといって素直に今の日本語-ポルトガル語辞書で「虫」を調べてもこの単語は出てこない。ヴァチカン図書館所蔵の葡日辞書をもとにしている辞書にだけlombrigaにムシという訳語が関連づけられていた。16世紀あたりのポルトガル語と日本語の対応を残しているこの辞書に書かれている意義は大きいだろう。この根拠からロバイはlombriga由来ではないかと書いた。

この単語は現在のポルトガル語-日本語の辞書では「回虫、ミミズ」という意味しか出てこない。図書館にあるすべての現代の辞書にはそうとしか書いてなかった。これからカルタで使われる虫という表現から推理し見つけ出すことは困難だろう。運良くヴァチカンの辞書を手にすることで、この壁をすり抜けることができた。

けれど前回調べたとき、当時ポルトガル本国でもこのカードの竜をlombrigaと呼んでいたかどうかが問題として残った。それを今回やっと解決できた。カードそのものを呼んだという証拠は見つからなかったが、ポルトガル語においても竜をlombrigaと表現する例を見つけることができた。


ポルトガル語で書かれた古典が置かれているサイトLivros clássicos para você! 。ここにA História do Volsungsという物語が置かれている。13世紀にアイスランドで書かれた物語Volsunga Saga(ヴォルスンガ・サガ)のポルトガル語訳である。これは何かというとつまり有名なシグルズ(ジークフリート)が出てくる北欧神話の物語だ。この中にlombrigaという単語が「竜」の意味として登場する。複合語も合わせて二十数カ所出てくる。”lombriga”が頻出するのは第18章(このサイトの分割ではCapitulo 65からCapitulo69)を眺めてみよう。ポルトガル語を直接訳すには難しいので、英訳を探すと(THE STORY OF THE VOLSUNGS
- Online Medieval and Classical Library
)にあった。ポルトガル語の文章はこの英文からの直訳のようにみえる。

章の名前から既にlombrigaが使われている。「XVIII DE CAPÍTULO. Do Assassínio da Lombriga Fafnir」。英訳のほうだと、「Chapter XVIII: Of the Slaying of the Worm Fafnir」。ここに出てくる英語のWormはあとで詳しく説明するつもりだが北欧系の竜を指して使われる単語だ。それに対応する語としてlombrigaが使われているのだ。

実際の文章でも次のように使用される。これはシグルズが竜を退治する場面である。
Agora rastejado a lombriga até o lugar dele de molhar, e a terra tremido em toda parte ele, e ele bufou veneno adiante em todo o modo antes dele como foi ele; mas Sigurd nem tremeu nem era adrad ao rugir dele.
Assim whenas que a lombriga rastejou em cima das covas, Sigurd empurrou a espada dele debaixo do ombro esquerdo dele, de forma que isto afundou em até os cabos; então para cima Sigurd saltado da cova e puxou a espada atrás novamente até ele, e therewith era o braço dele tudo sangre, até o mesmo ombro.


この場面の内容を意訳すると:
竜は水飲み場に下りてきた。周りの地面は揺れた。鼻から猛毒を吹きだして通った道にまき散らした。だが(穴に潜んでいる)シグルズは震えなかった、そのうなり声にも恐れなかった。そして、竜が穴の上まで這ってくると、シグルズは下からそいつの左肩に剣を強く突き刺した。あまりの力に柄まではいりこんだ。シグルズは穴から飛び出て、刀を引き抜き取り戻したが、それによって腕が肩の方まで血にまみれてしまった。

この場面に出てきたfafnirについて日本語ではファフニール - ja.Wikipediaがわかりやすい。ついでに挙げるとFafinir - en.Wikipedia,Fafinir - pt.Wikipedia。英語版には先ほど紹介した鼻から毒液を吹き出しながら這っている挿絵がある。
このように、ポルトガル語では北欧系の竜を”lombriga”という語を使って表している。この語はミミズや回虫を表しているだけの語ではないのだ。


長くなりすぎたので、今回はここまででやめるけれど、参考までに、この章の別の箇所に次のような文章を見つけた。
"Como sayedst tu, Regin que este drake era nenhum maior que
outro lingworms; methinks o rasto dele marvellous é grande?"

この部分で使われているdrake、lingwormも注釈から竜を表しているのが分かる。ただ二つは翻訳の元にしただろう英語からの流用だと思われる。上で紹介した英文のほうも該当箇所で同じ綴りの語を使っている。またここには無いが一般的なヨーロッパの竜を表すポルトガル語dragãoも出てくる。これは英語のdragonの訳として使われている。

ポルトガル語から離れてしまうが、さらに原典にあたる古ノルド語による上記の引用部分の表現を見てみる。(引用元HEIMSKRINGLA-Völsunga saga
Ok er ormrinn skreið til vatns, varð mikill landskjálfti, svá at öll jörð skalf í nánd. Hann fnýsti eitri alla leið fyrir sik fram, ok eigi hræddist Sigurðr né óttast við þann gný. Ok er ormrinn skreið yfir gröfina, þá leggr Sigurðr sverðinu undir bægslit vinstra, svá at við hjöltum nam. Þá hleypr Sigurðr upp ór gröfinni ok kippir at sér sverðinu ok hefir allar hendr blóðgar upp til axlar.

また同様に
"Þat sagðir þú, Reginn, at dreki sjá væri eigi meiri en einn lyngormr, en mér sýnast vegar hans ævar miklir."

これによると竜を表すそれぞれの元の古ノルド語はlombriga(worm)はormrinn、drakeはdreki、lingwormはlyngormrのようだ。またここには無いがdragão(dragon)はdrekiだ。

次回につづく


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2007年05月16日

ロバイという虫(2)

前回引用したポルトガル語で書かれた古典A História do Volsungs(Volsunga Saga)が置かれていたところの書名リストをよく見てみると、ベーオウルフBeowulfのポルトガル語訳もあった。これにもlombrigaという単語が使われている。ベーオウルフというのは、8世紀頃イギリスで書かれた北欧を舞台にした英雄叙事詩である。原典は古英語で書かれてある。
Beowulfのポルトガル語訳

北欧神話に詳しいサイト無限空間 2号館内の情報から次のリンクを見つけた。
アングロサクソン原典
現代英語訳
Internet Medieval Sourcebookにも次の二つが置かれているが、原典が途中までしかない。
ベーオウルフの古英語原典
ベーオウルフのFrancis Gummereによる現代英語訳(1910)

これらのページを見比べてみる。先の無限空間2号館の「ベーオウルフと北欧神話、叙事詩のつながり」を参考にして、原典884行目あたりを引用する。吟遊詩人がジゲムンドの活躍を語る場面。

まずポルトガル語、
De Sigemund cresceu,
quando ele passou de vida, nenhum pequeno elogio,;
para o valente-em-combate matou um dragão
isso agrupou o acumule: debaixo de pedra grisalha
o atheling ousaram a ação só
indagação medrosa, nem estava lá Fitela.
Ainda assim aconteceu, o falchion dele perfuraram
aquela lombriga maravilhosa,--na parede golpeou,
melhor lâmina; o dragão morreu em seu sangue.

lombrigaとdragãoの両方の単語が出ている(だからこそここを選んだわけだけど)。そして、原典の古英語の該当する部分:
Sigemunde gesprong
æfter deaðdæge dom unlytel,
syþðan wiges heard wyrm acwealde,
hordes hyrde; he under harne stan,
æþelinges bearn ana geneðde
frecne dæde, ne wæs him Fitela mid;
hwæþre him gesælde, ðæt þæt swurd þurhwod
wrætlicne wyrm, þæt hit on wealle ætstod,
dryhtlic iren; draca morðre swealt.

確かに竜を表す単語wyrmとdracaがある。対応を見ると、lombrigaはwyrmの訳として、dragãoはwyrmとdracaの訳として使われている。wyrmの対応が不整合なのは、次の現代英語訳の影響だろう。
Of Sigemund grew,
when he passed from life, no little praise;
for the doughty-in-combat a dragon killed
that herded the hoard: under hoary rock
the atheling dared the deed alone
fearful quest, nor was Fitela there.
Yet so it befell, his falchion pierced
that wondrous worm, -- on the wall it struck,
best blade; the dragon died in its blood.

二番目のwyrmは現代英語において対応するwormに訳されているが、最初の方のwyrmはdragonと訳されている。なぜそうしたのかは訳者のFrancis Gummere氏に聞かないと分からないが、最初にdragonと提示した方がwormの意味を限定できるからだと推測してみる。叙事詩だから調子をよくしたかっただけかもしれない。

この部分の正確な意味は日本語翻訳本を持っていないので、よく分からないが、とりあえず英語を勝手に訳してみると:
ジグムンドは長じると、人生を通じ少なからぬ賞賛を受けた;
竜を倒した勇ましい戦いで得た、古びた岩に隠された財宝
勇敢な英雄の単独行、フィテラも供にいない、恐ろしい冒険。
あの驚嘆すべき蛇があらわれたが、彼の剣が突き刺さった
壁にたたきつけられ、比類無き刀により、自らの血の中で竜は死んだ。


以上のように、前回のヴォルスンガ・サガと、今回のベーオウルフのポルトガル語訳を眺めてみて、現にlombrigaを英語のwormに相当する語として使っていることが分かった。現在の意味において両者とも回虫やミミズのような手足が無く這って動く生き物を表す語であるから、この対応は予想外のものではない。しかし蛇や竜を表すこのwormの古い用法においても、同様に使ってもかまわない例を得ることができたのは面白い。疑えばこのサイトに置かれている文書だけの特異な翻訳かもしれないが、そこまで心配しなくてもいいだろう。

古典用法も記述してあるようなポルトガル語の詳しい辞書を持たないので、lombrigaの古い用法に竜という意味があるかどうかわからない。そもそも対応しているはずの英単語wormに蛇や竜の意味が載っている英語の辞書を僕は持っていない。ただ使われている事実はこうして見つけることができた。


今度は逆に、虫を表す他のポルトガル語を調べてみた。ラテン語由来のvermeという虫を表す単語があった。綴りから察せられるとおり、wormに対応する単語である。それこそwormの訳語としてこのvermeを使えば最適なはずなのに使われていない。使わないのは、vermeという単語には虫の分類を示す限定的な意味しかないので蛇までは表せないからだろう。その点でlombrigaの方が適しているのだろう。それがなぜかまでは分からなかったが。他にもポルトガル語にはinsecto(inseto)という単語もある。これは英語のinsectと同源で、ラテン語のinsectum、ギリシャ語のεντομοςに由来している。これは語源通りに使われて「切り分けられる生物」である昆虫を意味している。

最後に、lombriga。現代のポルトガル-日本語辞典で調べると、回虫やミミズといった意味しか載っていない。この単語ははラテン語lumbricusに由来していて、このラテン語の単語はミミズの属名として使われている。これに由来する語は英語にも、普通の辞書には載っていないが、あることはある。lumbricusはラテン語そのままの形だが、lumbricという形でも載っている。 lumbric(ARTFL Project: Webster Dictionary, 1913)。ここでの定義は「An earthworm, or a worm resembling an earthworm.」(=ミミズやミミズに類似した虫)。またフランス語にもlombricという語があり同じくミミズを表すが、日常のミミズの表現はver de terraを使う。

ついでにラテン語のlumbricusの語源が知りたくなったが、よくわからない。英語loinに通じるlumbusという語がある。これは「腰」を意味する。この語根が含まれているので、想像力をはたらかせて「腰の部分からなる生き物」としてミミズという意味があるかもしれないと考えたが、根拠はない。回虫が元々の意味ならば「腰の部分に住んでいる生き物」という意味かもしれない。-ricusの部分が問題。ラテン語の詳しい辞書を調べることができれば分かるかもしれない。


当時ドラゴンカードをポルトガル人がlombrigaと呼んでいたという資料が見つかれば、この説はより裏付けられる。ただ一番重要な、lombrigaからロバイへの音の変化にちょっと距離がありすぎるのが、この説の難点であるけれど。


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2007年05月19日

ロバイを調べて

ロバイの由来が知りたくて、ポルトガル語の『虫』の意味の言葉を調べてみて出てきたlombriga。詳しく調べてみると、北欧神話のwyrmの訳語としても使われていて、なかなか面白い探求になった。ドラゴンカードを調べていて、ポルトガル語に「L」で始まり途中に「B」を含む単語があって、それが虫と竜の意味を持つという発見はとても興奮するものだった。断定とまではいけなかったが、偶然がおもいっきり重なっただけかもしれないが、それはそれでおもしろい話だ。

ロバイを虫と呼ぶのは、ポルトガル語に頼らなくても日本語の蛇の表現だけでも十分可能だ。今の日本語ではムシやヘビという言葉は学術的な用法の影響で日常的な使用の場合においても意味が完全に分離してしまっている。でも日本で蛇のことを虫と呼んでいたのは事実だし、中国大陸でも漢字の蛇の字形どころか、虫という象形文字の成り立ちだって、虫の本来の概念の広さを示している。それだけでも十分だったけれど、この単語を見つけてしまったのだから、調べずにはおれなくなった。

それはそうと、古ノルド語や古英語の文章を引用までするのは、おおげさだと自分でも思った。結論だけ書けば済むことだ。でもこれはまた僕の別の趣味なので、興味が脇道にそれていくことを自分でも楽しんで書いた。wormの古い形はwyrmだということの例文ははっきりと提示できてわかりやすいと思うし、今のファンタジー用語とは違ってdracaとwyrmが八世紀頃の文章では、文学的な言い換えのできる語だということも分かったし、これもおもしろい発見だった。

最後にlombrigaの由来を調べてみたが、ラテン語に遡ってもミミズを表しているというのには、正直ちょっとがっかりした。少なくとも蛇ぐらい意味してほしかったな。現実はそう思い通りにはいかないものだ。

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ロバイという虫(1)
ロバイという虫(2)


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