飼う理由は幼虫の足の数はいくつだろうと疑問に思ったから。
大きいのが見つからなかったので、卵から出てきたばかりの一令幼虫を庭から持ってきて育てていた。まだそのときは5mmに満たなくて、足の数なんて肉眼では数えられないくらい小さかった。
それから約2週間、毎日ミカンの葉を与え、定規を当てて成長を楽しみながら、ようやく二日前、緑色の終令幼虫になった。
残念なことに、今年の庭のミカンの木は虫にやられて健康な葉があまりない。葉や枝を切ってきて、これからのこの幼虫の食欲を満たすのはちょっと無理だった。目的の観察も達成したことだし、昨日幼虫を木に返すことにした。
木に戻すと、さすが遺伝子に全てがプログラムされている昆虫くん。一時間後覗きに行くと、10分ぐらい探さないと見つけられないくらい、見事に葉の陰のように枝にしがみつき身を縮めて、隠れていた。
4時間後にもう一度眺めに行った。今度はいくら探しても見つからなかった。もう食われてしまったのかなとちょっと不安になった。でも食われたときは、葉の上に体液が落ちているので、すぐに分かる。その跡も見つからない。
もしやと思って、ミカンの木を回り込んでみる。すると、羽がはえてなくて腹がむき出しの若いカマキリが、さっきまで幼虫だったものを抱えて体液を貪欲に吸い尽くしている最中だった。幼虫の方はもう原型をとどめておらず濁った色の皮だけになって、カマキリの前足からぶら下がっていた。きつい光景だった。だけどカマキリを追い払って食事をやめさせようとは思わなかった。
しばらく立ち直れなかった。昔から庭を眺めて、何度もこういう場面には遭遇しているし、だからこそカマキリに食べられないように何匹も幼虫を飼っていた時期もあるのに、今回は違った。大切に育ててきた幼虫が目の前で食われてしまった。この状況は初めてだった。こんな小さな虫のことなのに、自分でも予想外なほどダメージが大きかった。
今度ミカンを食べたときは、種を鉢に植えて、幼虫の食用の健康なミカンの木を育てよう。そう思った。
そういえば、お盆には虫を殺してはいけないよと子どものときよく言われてた。
この幼虫が教えてくれた足の数。
頭に近いところに三対のとがった足。そして長い腹の部分に四対の吸盤のような足。そこから足一つ分の距離があって、おしりのところに、一対の吸盤状の足。