さよなら冥王星
〜新しい太陽系の姿〜
2006.8.31 19:30
NO.2288
番組ホームページ内の記録
昨日クローズアップ現代が、冥王星の話題だったので見た。
IAUの定義を作成した委員の一人である国立天文台助教授の渡部潤一氏も出ていて、わかりやすくまとめてあった。
以下、おおざっぱなメモと(思ったこと)
1930年に発見された冥王星。発見当初地球とほぼ同じ大きさとされたことが惑星と見なされた理由の一つ。1978年に衛星カロンが発見された。それまで考えられてきた冥王星の大きさは、この衛星を含めて観測されていたのだ。実際の冥王星の大きさは地球の月よりも小さいことが分かってきた。
(惑星と見なされた冥王星の大きさの修正の説明も、先週いろいろあった一連の報道の中では詳しくやっていなかったから、わかりやすかった。)
そのあと、2003UB313の発見についての話があった。
これは惑星とは何かの議論を加速させる発見。見つけたのはカリフォルニア工科大学マイケル・ブラウン教授のグループ。どうやって見つけたのかというと、最新の望遠鏡ではなくあえて60年前に作られたパロマ天文台の1.2mの望遠鏡を使って調べた。倍率の高い大きな望遠鏡だと暗い星は見えるけど狭い範囲しか見えない。1.2mの望遠鏡だと空の広い範囲を一度に観測できる利点がある。冥王星がそうであったように軌道が傾いていると仮定して、空全体をくまなく探した。そして星を見つけた。証拠写真。90分間隔の三枚の同じ場所を写した写真。これを次々に切り替えると、わずかに動いている様子が分かる。
(単純だけどこういう一目瞭然な星の発見を見せるのはわかりやすいなと思った。この教授自身の説明もわかりやすかった。)
この星を口径10mの大きな望遠鏡で観測してみると、衛星ももっていた。冥王星との共通点がいくつも発見された。メタンの氷の表面や、傾いた楕円軌道。大きさも上回っているし、冥王星が惑星ならば、これも惑星になれるはず。そういうことで今回の惑星の定義を決める議題が出てきたのだということの説明。
大きな問題。冥王星の周辺に次々に直径数百キロを越えるの似たような天体が見つかってきた。このあたりを太陽を取り巻くようにこのような天体が回っている。冥王星を惑星としておくと、このままでは惑星が無数に増えてしまう。
渡部氏が加わっての、新しい太陽系の惑星の定義の話。惑星という名前すらやめようとか極端な意見もあったとのこと。
・太陽の周りを回っている。
・質量が十分大きく球形をしている。
・軌道上で圧倒的に大きい。
渡部氏もこの言葉がとても簡単にしていると断ってから説明している。冥王星は三番目が当てはまらない。そういうわけで冥王星は矮惑星。冥王星は、海王星より遠い天体(トランス・ネプチュニアン天体)の代表選手となった。
(前回このブログで惑星の定義の三番目の定義の出所が分からないと書いていたが、IAUの定義作成委員だった渡部氏がこの言葉で説明しているのならば、これでいいや。一般視聴者に「掃き散らす」とか言ってもわけ分からなくするだけだから。それからNHKのニュースでは矮小惑星という言葉を使っていたけれど、今回は矮惑星と言っている。)
次は、太陽系生成の新しいシナリオについて。
「星のゆりかご」オリオン大星雲をどんどんズームして、原始太陽系の画像が出てくる。46億年前の私たちの太陽系も最初このようなガスやちりからできていた。CGによる太陽系生成の映像が続く。太陽の周りのガスやちりが微惑星となり、円盤状で微惑星が合体しながら水星から海王星までの惑星はできていった。しかしこれだけだと、それより外側の冥王星などの星の軌道が傾いていることを説明できない。
なぜ傾いてしまったのか?という疑問を持って、東京工業大学地球惑星科学科井田茂教授の説明の映像が始まる。井田教授はコンピュータシミュレーションを使ってこの謎に迫っている。
冥王星の8570倍の質量を持つ巨大な惑星「海王星」が外側へ向かって移動したことにより、強い重力でこのあたりの星々の軌道をかき乱したのではないか。
コンピュータによって海王星の移動により点状の星々がどう軌道を変化させたのかをシミュレーションしている映像が映しだされる。時間がたつにつれて、ある距離に固まって配置されるようになる。一千万年かけて、10億キロ外側に移動している。奇妙な軌道は冥王星の大移動が原因だった。
(でも見ていてどういう力が働いて垂直方向に上がっていくのかの理屈が分からなかった。)
番組のまとめとして。渡部氏の発言の断片。
トランスネプチュニアン天体(海王星より遠い天体)は、合体して大きな惑星になる途中でとまってしまった惑星のタマゴたち。タマゴが冷凍保存されているようなもの。化石のようなもの。惑星の素材がそのままあるのでは。アメリカ探査機2015年が接近して調べようとしている。電子的な技術も上がり、今これからが新しい天体発見の黄金時代。
(番組自体「さよなら冥王星」というタイトルだったが、これは決して私たちとって否定的な出来事ではない。太陽系にとっての新しい発見が相次いでいることの証拠だということ。)
以上。
番組の内容と(感想)はこんなだった。そのあとここに書くためにより詳しく調べようと、いろいろネット上の情報を調べてみたら、面白いものを見つけた。
井田茂教授本人がこの放送に関しての裏側を掲示板へ投稿していた。SF作家・野尻抱介氏のホームページ(野尻抱介 リファレンス・マニュアル)に設置してある掲示板だ。井田氏は以前よりこの掲示板に常連として投稿されているのだが、”わかりやすい番組”づくりを目指す番組側との攻防という面白いことが書いてあった。
http://njb.virtualave.net/nmain0213.html#nmain20060901043015
番組では、シミュレーション画像で冥王星などの天体の鉛直方向の傾きがまるで海王星の軌道が外側に移動することで起きたかのように見れたのだが、冥王星に関しては実はこれでは説明できないらしい。「平均運動共鳴のなかに入り込む昇交点経度の永年共鳴」によるらしい。
番組で軌道の傾きのように見えたのは実は違っていた。軌道離心率と軌道半径の図だったようだ。疑問を持って調べないと信じ込むところだった。一般視聴者には、それほど深くは興味もないだろうからあれでいいのかもしれないけど、この番組はこれからの天文学者の少年たちに微妙な知識を与えたかな。
井田氏の書き込みで紹介されているページが次のもの。
冥王星の起源と太陽系外縁部の構造(日本惑星科学会)
上のページには海王星の移動と冥王星の軌道の共鳴についての詳しい説明がある。ただし軌道面の傾きについての解説が載っているかとというと、そうではなくて、別な文献を参照してくださいとある。で、そこで指定されている文献が次の三つ。ちなみに"secular resonance"というのが永年共鳴。
・Evidence for Early Stellar Encounters in the Orbital Distribution of Edgeworth-Kuiper Belt Objects(英語)
・Sweeping Secular Resonances in the Kuiper Belt Caused by Depletion of the Solar Nebula(英語)
・The Effects of a Stellar Encounter on a Planetesimal Disk(英語 PDF)
修正:2008/06/27
リンク先が変わっていたので修正