夜、初舞台の日。緊張して、桜子は譜面台を倒してしまう。会場からはヤジが飛ぶ。秋山は気にするなと声をかける。会場の後ろでは、マスターヒロが現れる。桜子の様子に心配そうな顔をする。演奏が始まっても、桜子はうまく弾けない。秋山は演奏しながら、リラックスするように目で合図をおくる。でも桜子は調子が出ない。
山長。冬吾がやってくる。野木山さんが「おや、おめずらしい」と迎え入れる。
達彦はいつもの敷地内の長いすに腰掛けている。冬吾が現れると立ちあがって、挨拶をする。ひさしぶりだな、無事で何よりと冬吾が声をかける。そして一緒に腰を下ろす。桜子が今名古屋で演奏していると達彦に伝える。聴きに行かないのかとたずねると、返事がない。一緒にならないのかと聞くと、ほとんどの戦友が死んで、自分だけが幸せにはなれないと言う。それに対し、冬吾はそれはいいわけだと言う。戦争が終わってどうしていいか分からなくなっただけだ。「そうかもしれないが、自信がない。彼女の夢の邪魔をしたくない。」と達彦。「人は迷惑をかけないと生きていけないものだ。それに、いままでずいぶん迷惑をかけすぎたから、そんなこと言える義理ではないはずだ。迷惑を返すぐらいしないといけない。」と冬吾。
控え室。桜子、お守りのようないつもの達彦たちと一緒に撮った写真を見つめる。秋山はしょげんな、すぐに次もあると声をかける。ヒロさんが控え室に来て、自分を達彦だと思って弾きなさいと言う。その言い方で、桜子に笑みがこぼれる。
達彦の部屋。引き出しの奥から写真を見つける。桜子が見ているのと同じ写真。その下に、自分の知らない、かねと桜子が二人で写っている写真があった。
違う部屋で仙吉と達彦。かねと桜子が写っている写真の事情を仙吉が話す。看取る覚悟で店に入ってくれた。最後は付きっきりだった。ピアノをかねのために弾いていた。ピアノを弾きながら、かねを励ましていた。大将は生きている。桜子はピアノを好きなだけで弾いていたわけではない。生きていてほしいという一縷の思いで、祈るように弾いていた。
達彦、写真を見つめる。そして「仙吉さん、帰ってきてずっと桜子に迷惑をかけたくないと距離をとってきたが、これからはおれが桜子に何を返せる考えないといけないな」と達彦。その言葉を聞き、仙吉深くうなずく。
演奏会場。客はブーイングしている。秋山は英語で客に話しかける。「今まで戦争中ジャズを演奏することができなかった。私たちにとって今日は晴れの日です」。達彦の代わりのマスターの顔を見る。マスターは、ガンバレという感じでうなずいて返す。気を取り直して、演奏再開。
達彦が会場に現れる(演奏中の桜子は気付かない)。桜子は調子を取り戻してきた。会場からは手拍子も聞こえてきた。桜子の顔に笑顔が表れる。達彦は会場の後ろの方で桜子の演奏を見守っている。曲が終わると、拍手と歓声が上がる。立ち上がって歓声に応える桜子は、会場に達彦を見つける。お互い笑顔で見つめ合う。次の曲「セントルイスブルース」の演奏をはじめる。もう心配ない。
達彦は桜子のジャズの演奏を聴きながら、脳裏に様々な場面が浮かんでくる。列車の「音楽を忘れるな」の別れのシーン。連弾のシーン。キスシーン。河原で桜子に味方だと言われたシーン。達彦は涙を浮かべながら、桜子のジャズの演奏を見つめている。
純情きらり(142)へ つづく