慈恵病院が発表した「赤ちゃんポスト」についてリポートした番組が金曜日九州のローカル枠で放送された。それについての概要メモ。
九州沖縄金曜リポート 平成19年2月23日(金)放送について - NHK熊本放送局
放送情報:
九州沖縄金曜リポート「小さな命をどう守るのか〜熊本・赤ちゃんポストが問いかけるもの〜」
放送日時:平成19年2月23日(金) 午後7:30〜7:55 <九州ブロック>
メディア:NHK総合
ホームページに掲載された番組内容の引用
内容
赤ちゃんの命を守るために、ヨーロッパの多くの国で設置している、いわゆる「赤ちゃんポスト」。去年11月、このシステムを熊本県の病院が日本で初めて取り入れることを決めた。何よりも命を守ることを優先するのか、育児放棄を助長することになってしまうのではないか。この取り組みは、病院関係者をはじめ、全国の様々な人たちに波紋を投げかけている。番組では、熊本で始まった動きと海外の先進的な事例を追いかける。
■番組の概要
キャスター:岡野暁アナウンサー。
親が育てられない赤ちゃんを匿名で受け入れる赤ちゃんポスト。
熊本市にある慈恵病院がその赤ちゃんポスト「こうのとりのゆりかご」の導入をすすめようとしている。
最近半年の日本各地で起きた赤ちゃんが遺棄された三件の事件という現状。
慈恵病院とそれを進める理事長についてのリポート:
熊本市の慈恵病院。明治31年に開業。この病院で年間に650人の赤ちゃんが産まれている。
理事長 蓮田太二(71)氏は現役の産科医。去年11月設置をしたいとの記者会見を開く。「子どもを育てる気持ちがなければ、むしろあずけてもらったほうがいい。」
ドイツでの赤ちゃんポストの仕組みのリポート:
蓮田氏が参考にしたのはヨーロッパの赤ちゃんポスト。三年前(2004年)に視察に行ったドイツには80カ所の赤ちゃんポストがある。ドイツのベルリンにあるヴァルトフリーデ病院。人形を使った赤ちゃんポストのシステムの実演。赤ちゃんがポストに置かれると、センサが働き、常駐している複数の担当者がポストに駆け付ける。赤ちゃんのはその後、乳児院や里親を希望している人のところで育てられることになる。命に対する取り組みが強いと理事長がドイツでの印象を述べる。
記者会見の反響:
慈恵病院の取り組みが動き出せば日本で初めての試みとなる。会見の後、連日メールや手紙などの反響が届いた。その中では60%が賛成、25%が反対や慎重な意見である。賛成する人たちの多くは「命は最優先すべき」という意見。反対する人々は「子育てを放棄する風潮を助長するのではないかとの不安」を述べている。しかし理事長は反対や不安があってもできるだけ早く実現したいとの意向を示してる。
決意の背景:
おととし(2005)の12月に起きた二十歳の学生がトイレに子供を産み落とし死亡させた事件に理事長がショックを受けた(この事件は下記の新聞記事「連載(8)」を参照)。もっと早く取りかかっていたらと痛切に感じたと理事長が語る。以前から病院では電話相談を受け付けており、今後もこういう事件が起こる可能性は高いとみている。相談を通して追い込まれる女性の姿が浮き彫りになる。電話相談のいくつかの例。育てられないという女性からの電話。妊娠してしまった中二の女の子。出産に反対されている未婚の女性。悩んでいるうちに時が過ぎ頼るところもなく町を彷徨っているところを保護された女性。
現在の状況:
熊本市は判断を迫られている。赤ちゃんポストの設置は病院の改築になるので市の許可が必要になる。法律や制度が整っていないため自治体だけでの判断は難しい。放送の前日(2月22日)、幸山市長は厚生労働省に直接出向き、法律に違反するものではないとの見解をもらう。しかし同日、塩崎官房長官は子供の遺棄を助長する懸念があり是非を判断するのは難しいとの見解を述べる。
飯野奈津子NHK解説委員によるこの問題の指摘:
・産まれてくる子供の幸せにつながるのか?親に育ててもらえない子供が増えてはいけない。
・赤ちゃんポストが悪用される可能性もある。今後赤ちゃんを不当に扱うところも出てくるかもしれない。
・親が名のらずに子供を託すので子供本人が自分を産んでくれた親が誰なのかを知ることができない。自我の形成に影響を与えかねない。
ハンガリーのレポート:
ハンガリー共和国の取材。ハンガリーはヨーロッパ中部にある北海道ほどの広さの人口一千万人の国。赤ちゃんポストを11年前から。現在、五つの病院に設置してある。市民にもなじみ深いものとなっている。世界で初めて設置された「スチョップ・メレ・アゴスト病院」の赤ちゃんポストの映像(ドイツのものとは違い、狭い廊下に保育器が置いてある)。ここでは今までに23人の赤ちゃんが保護された。
今月三日、生後四日目の女の赤ちゃんがポストに預けられた。リリーと名付けられた。
保護された赤ちゃんの行き先:
健康に問題がなければ、一週間前後で里親の元に行く。里親と赤ちゃんを結びづけるために病院と行政が密接に連絡を取り合っている。児童福祉局に連絡される。里親は現在300組が登録されていて、三年以上待っている状態。
赤ちゃんポスト設置の背景:
1989年ハンガリーが民主化される。経済の自由化とともに貧富の格差が拡大した。10年前、殺された赤ちゃんがゴミ箱に捨てられたり、毛布でくるまれて焼かれたりする悲惨な事件が相次いだ。中世の修道院にも似たような施設があり、それをヒントに考えられた。この病院のガラム・ヴォルジ院長へのインタビュー。悲惨な事件が相次ぎ、なんとかしなければならないと強い思いがあったと院長。
三日後、児童福祉局が選んだ里親がやってきた。里親は毎日赤ちゃんとのスキンシップをしにくることになる。
母子保護プログラム:
ハンガリーでは赤ちゃんポストの設置と同時に母子保護プログラムも始めた。追い込まれる前に母親をサポートするシステム。このプログラムを利用した例の紹介。子供を産むべきか悩んだが、悩みを聞いてもらったり、子育てをしながら働くためのアドバイスを受けて、出産を決意できたと女性。母子保護プログラムには、より深刻な悩みに対処するためにクライシス科も用意されている。親に追い出された中絶できない時期の若い女性が心理学者からカウンセリングを受ける映像。入院の費用は無料で国が負担する。母親をサポートするために専門家がチームを組んで悩む女性たちに具体的な解決策を示す。ソーシャルワーカは就職や住む場所の相談を担当、心理学者は心のケアを、弁護士は相手の男性との調停などを。この三者が連携をとりながらサポートするシステムができている。現実的な選択肢を考える手助けをしていると心理学者。
六日目。リリーちゃん門出の日。赤ちゃんが里親の元に行く日は第二の誕生日と呼ばれている。
ハンガリーのリポートのまとめのナレーション:
命を救うための赤ちゃんポストとそれを利用する子を一人でも減らすための母子保護プログラム。この命を救う二つの柱があり、着実に社会に根付いている。
ハンガリーの院長の言葉:
赤ちゃんポストを設置するだけでは意味がない。赤ちゃんと母親をサポートする複合的なプログラムが不可欠である。赤ちゃんポストは赤ちゃんを生き延びさせる最後の手段である。
解説委員によるまとめ:
日本では病院や行政での個別の支援はあるが、それは総合的には支える仕組みがない。そういう窓口があることすら知らない人もいる。現在日本では、子供の虐待が取り沙汰されて、子どもを産んだ後の支援の体制はできてきているが、妊娠前の支援は十分ではない。
キャスタからの「小さな命を救うためのポイントはなんだろうか?」との問い。赤ちゃんポストを使わなくてもすみような状況にしなくてはいけない。その前の段階の支援を行っていく必要がある。望まない妊娠が何故増えているのかも考えるべきである。性行動の低年齢化もそのひとつで、子供たちと向き合って話していく必要がある。医療機関と行政の連携だけでなく、私たち一人一人がこの問題を考えていくことが大切ではないだろうか。
メモ終わり。
■慈恵病院公式
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慈恵病院の公式ページ・
「こうのとりのゆりかごについて」慈恵病院 理事長 蓮田太二氏■慈恵病院の地元である熊本日日新聞の、赤ちゃんポスト関連オンライン記事
くまにち.コム「健康と医療 こども」内にある関連記事
連載「揺れるいのち 赤ちゃんポストのメッセージ」
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(1)助産師の苦悩・
(2)置き去り…名前すら授けず・
(3)妊娠かっとう相談・
(4)親の「事情」・
(5)施設で育った子ども・
(6)特別養子縁組・
(7)里親制度・
(8)男性不在・
(9)性教育・
(10)大阪大特任研究員・阪本恭子さんに聞く慈恵病院「赤ちゃんポスト」計画
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「赤ちゃんポスト」設置へ 親が養育できない新生児受け入れ・
電話、メール…賛否殺到 HPアクセス 2日で4万件・
年内開始めざす 施設の改修許可を熊本市に申請へ・
[解説]幅広い「命」の論議を 受け入れ体制充実、課題に・
助かる命、助けたい 「基金に協力支援を」 蓮田副院長インタビュー・
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熊日「読者と報道を考える委員会」 赤ちゃんポストなど論議こんなにみんなが真剣にこの問題を考えているのだから、安倍首相の見解により今回設置ができなくても、このとりくみがきっかけとなり世の中をいい方向に動かしていけるだろう。そうしていかなくてはならない。
いろいろ資料を読んで考えると、議論などしている場合ではなくすぐにでも設置して命を救わなくてはいけないという気持ちでいっぱいになる。一方で、行政側の準備が何もできていない状態で見切り発車してしまって取り返しのつかない暴走をしてしまうのではと不安を感じずにはいられない。
慈恵病院でのこの試みは動き出してみないとわからない。赤ちゃんの預かりを拒否しないといけないくらいに利用者が出るかもしれないし、これがあることで追い詰められずに相談するという選択肢を見つけることができ、ここを誰も利用しないですむかもしれない。
市長はやる気に見える。もちろん設置許可以外も取り組んでほしいし、そこまで考えているだろう。そちらこそが子供を捨てようとしている人に限らない全ての母子を支えることができる本来の取り組みになるだろう。