2007年05月07日

竜を棍棒で殴ろうとする女

こつこつカルタの復元中。ブログを書く時間を全て天正カルタの復元に充てている。このブログは興味があることをまとめるために作ったものだから、現在興味が全てカルタに向かっているからブログが書けないのは当然だ。48枚完成するか、今回のように面白い発見があるか、それともいつものように飽きてしまうかすれば、またここに戻ってくるだろう。

天正カルタのハウのソータ

さて、このカードはハウのソータ。つまり棍棒スートの10番目のカード。女性の姿だが、天正カルタはポルトガルのトランプを手本にしているので、女王ではなく、女従者(ソータ)ということになっている。その後に騎士(カバ)と国王(キリ)が続く。それにしてもこの絵はシュールでいい。今まさに棍棒でドラゴンを殴らんとする女性の姿。日本独自というのではなく当時ポルトガルのトランプに描かれた特有の構図らしい。


三池カルタ記念館で復元された「ハウのソータ」をよく見てみると(後述の本の中の写真p.4)、右手首が描かれていない。棍棒がただ宙に浮いている。そういうデザインもあり得なくもない。しかし、同じ長物系スートである剣(イス)においてはソータの絵柄は振りかぶった剣で今まさに竜に斬りかからんとする図である。それに加え、頭と竜の間に右の二の腕らしきものも描かれているので、頭と棍棒の間に本来あるべき手首の線が欠落したのだと考えていいだろう。

竜と頭の間にあるものが髪の毛の一部ではなく二の腕であるのは、竜を捕まえているほうの左腕の二の腕の模様が裏付けてくれる。棍棒を振りかぶる以外にこんな腕の配置はないだろう。武器を隠し、左手で竜を愛撫しているという見方はちょっと苦しい。

記念館の復元で手首が描かれていないのは、元にした右手首が彫られていない版木を尊重したためだろう。僕も同じものを元にしているが今回はあえて右手首を描いてみた。この復元では忠実さよりもそういう整合性のほうを優先している。ただ不自然さも否めない。棍棒が太すぎるために大きな手首になってしまう。


ウンスンカルタのハウのソータ

この二枚目の画像は人吉で入手したうんすんカルタでの「ハウのソータ」。服装が東洋風になっているが、同じように棍棒を振りかぶっている。より合理的になって棍棒が上下がひっくり返り細い方を掴んでいる。ただ竜がいない。陽気に微笑みながら、意味もなくただ花の咲いている枝を振りかぶっている女性がいるだけだ。

実は左側にある袖らしきものが竜の成れの果てである。単独で眺めてもこれが竜だなんて思いつけない。上の天正カルタのハウのソータを知っているから、そうかもしれないと思うことができる。このうんすんカルタでは分からなくなっているが、他に伝わっているうんすんカルタではちゃんとした竜が描かれている。

山口吉郎兵衛氏の研究書「うんすんかるた」にはこのカルタも含めた三種のうんすんカルタの比較がされていてドラゴンの変化を確認できる。また後述の本「カルタ―PLAYING CARD」に載っているうんすんカルタはソータ札にドラゴンがはっきり描かれている(ただしハウのソータに髭があるが)。




参考資料

「カルタ―PLAYING CARD (大型本)」
これは日本のカルタの歴史について書かれた本。日本のカルタおよび世界のトランプについての貴重な図版がたくさん載せてある。小学校の図書館に置いてあったようなそういう感じの大型本。実際子供たちがトランプのゲームを覚えたり、カルタを作ったりするための易しい説明が載っている。

いにしえの旅 : No.07「ウンスンカルタ」
九州博物館連載記事 この記事の最後に髭のはえたハウのソータの画像がある。


2007年05月12日

ロバイという虫(1)

うんすんカルタで竜の描かれたカードをロバイと呼ぶ。先日、これがポルトガル語のlombrigaから来ているのではないかと書いた。(うんすんかるたのロバイ参照)。

ロバイの札は昔から虫とも呼ばれている。だからといって素直に今の日本語-ポルトガル語辞書で「虫」を調べてもこの単語は出てこない。ヴァチカン図書館所蔵の葡日辞書をもとにしている辞書にだけlombrigaにムシという訳語が関連づけられていた。16世紀あたりのポルトガル語と日本語の対応を残しているこの辞書に書かれている意義は大きいだろう。この根拠からロバイはlombriga由来ではないかと書いた。

この単語は現在のポルトガル語-日本語の辞書では「回虫、ミミズ」という意味しか出てこない。図書館にあるすべての現代の辞書にはそうとしか書いてなかった。これからカルタで使われる虫という表現から推理し見つけ出すことは困難だろう。運良くヴァチカンの辞書を手にすることで、この壁をすり抜けることができた。

けれど前回調べたとき、当時ポルトガル本国でもこのカードの竜をlombrigaと呼んでいたかどうかが問題として残った。それを今回やっと解決できた。カードそのものを呼んだという証拠は見つからなかったが、ポルトガル語においても竜をlombrigaと表現する例を見つけることができた。


ポルトガル語で書かれた古典が置かれているサイトLivros clássicos para você! 。ここにA História do Volsungsという物語が置かれている。13世紀にアイスランドで書かれた物語Volsunga Saga(ヴォルスンガ・サガ)のポルトガル語訳である。これは何かというとつまり有名なシグルズ(ジークフリート)が出てくる北欧神話の物語だ。この中にlombrigaという単語が「竜」の意味として登場する。複合語も合わせて二十数カ所出てくる。”lombriga”が頻出するのは第18章(このサイトの分割ではCapitulo 65からCapitulo69)を眺めてみよう。ポルトガル語を直接訳すには難しいので、英訳を探すと(THE STORY OF THE VOLSUNGS
- Online Medieval and Classical Library
)にあった。ポルトガル語の文章はこの英文からの直訳のようにみえる。

章の名前から既にlombrigaが使われている。「XVIII DE CAPÍTULO. Do Assassínio da Lombriga Fafnir」。英訳のほうだと、「Chapter XVIII: Of the Slaying of the Worm Fafnir」。ここに出てくる英語のWormはあとで詳しく説明するつもりだが北欧系の竜を指して使われる単語だ。それに対応する語としてlombrigaが使われているのだ。

実際の文章でも次のように使用される。これはシグルズが竜を退治する場面である。
Agora rastejado a lombriga até o lugar dele de molhar, e a terra tremido em toda parte ele, e ele bufou veneno adiante em todo o modo antes dele como foi ele; mas Sigurd nem tremeu nem era adrad ao rugir dele.
Assim whenas que a lombriga rastejou em cima das covas, Sigurd empurrou a espada dele debaixo do ombro esquerdo dele, de forma que isto afundou em até os cabos; então para cima Sigurd saltado da cova e puxou a espada atrás novamente até ele, e therewith era o braço dele tudo sangre, até o mesmo ombro.


この場面の内容を意訳すると:
竜は水飲み場に下りてきた。周りの地面は揺れた。鼻から猛毒を吹きだして通った道にまき散らした。だが(穴に潜んでいる)シグルズは震えなかった、そのうなり声にも恐れなかった。そして、竜が穴の上まで這ってくると、シグルズは下からそいつの左肩に剣を強く突き刺した。あまりの力に柄まではいりこんだ。シグルズは穴から飛び出て、刀を引き抜き取り戻したが、それによって腕が肩の方まで血にまみれてしまった。

この場面に出てきたfafnirについて日本語ではファフニール - ja.Wikipediaがわかりやすい。ついでに挙げるとFafinir - en.Wikipedia,Fafinir - pt.Wikipedia。英語版には先ほど紹介した鼻から毒液を吹き出しながら這っている挿絵がある。
このように、ポルトガル語では北欧系の竜を”lombriga”という語を使って表している。この語はミミズや回虫を表しているだけの語ではないのだ。


長くなりすぎたので、今回はここまででやめるけれど、参考までに、この章の別の箇所に次のような文章を見つけた。
"Como sayedst tu, Regin que este drake era nenhum maior que
outro lingworms; methinks o rasto dele marvellous é grande?"

この部分で使われているdrake、lingwormも注釈から竜を表しているのが分かる。ただ二つは翻訳の元にしただろう英語からの流用だと思われる。上で紹介した英文のほうも該当箇所で同じ綴りの語を使っている。またここには無いが一般的なヨーロッパの竜を表すポルトガル語dragãoも出てくる。これは英語のdragonの訳として使われている。

ポルトガル語から離れてしまうが、さらに原典にあたる古ノルド語による上記の引用部分の表現を見てみる。(引用元HEIMSKRINGLA-Völsunga saga
Ok er ormrinn skreið til vatns, varð mikill landskjálfti, svá at öll jörð skalf í nánd. Hann fnýsti eitri alla leið fyrir sik fram, ok eigi hræddist Sigurðr né óttast við þann gný. Ok er ormrinn skreið yfir gröfina, þá leggr Sigurðr sverðinu undir bægslit vinstra, svá at við hjöltum nam. Þá hleypr Sigurðr upp ór gröfinni ok kippir at sér sverðinu ok hefir allar hendr blóðgar upp til axlar.

また同様に
"Þat sagðir þú, Reginn, at dreki sjá væri eigi meiri en einn lyngormr, en mér sýnast vegar hans ævar miklir."

これによると竜を表すそれぞれの元の古ノルド語はlombriga(worm)はormrinn、drakeはdreki、lingwormはlyngormrのようだ。またここには無いがdragão(dragon)はdrekiだ。

次回につづく


2007年05月16日

ロバイという虫(2)

前回引用したポルトガル語で書かれた古典A História do Volsungs(Volsunga Saga)が置かれていたところの書名リストをよく見てみると、ベーオウルフBeowulfのポルトガル語訳もあった。これにもlombrigaという単語が使われている。ベーオウルフというのは、8世紀頃イギリスで書かれた北欧を舞台にした英雄叙事詩である。原典は古英語で書かれてある。
Beowulfのポルトガル語訳

北欧神話に詳しいサイト無限空間 2号館内の情報から次のリンクを見つけた。
アングロサクソン原典
現代英語訳
Internet Medieval Sourcebookにも次の二つが置かれているが、原典が途中までしかない。
ベーオウルフの古英語原典
ベーオウルフのFrancis Gummereによる現代英語訳(1910)

これらのページを見比べてみる。先の無限空間2号館の「ベーオウルフと北欧神話、叙事詩のつながり」を参考にして、原典884行目あたりを引用する。吟遊詩人がジゲムンドの活躍を語る場面。

まずポルトガル語、
De Sigemund cresceu,
quando ele passou de vida, nenhum pequeno elogio,;
para o valente-em-combate matou um dragão
isso agrupou o acumule: debaixo de pedra grisalha
o atheling ousaram a ação só
indagação medrosa, nem estava lá Fitela.
Ainda assim aconteceu, o falchion dele perfuraram
aquela lombriga maravilhosa,--na parede golpeou,
melhor lâmina; o dragão morreu em seu sangue.

lombrigaとdragãoの両方の単語が出ている(だからこそここを選んだわけだけど)。そして、原典の古英語の該当する部分:
Sigemunde gesprong
æfter deaðdæge dom unlytel,
syþðan wiges heard wyrm acwealde,
hordes hyrde; he under harne stan,
æþelinges bearn ana geneðde
frecne dæde, ne wæs him Fitela mid;
hwæþre him gesælde, ðæt þæt swurd þurhwod
wrætlicne wyrm, þæt hit on wealle ætstod,
dryhtlic iren; draca morðre swealt.

確かに竜を表す単語wyrmとdracaがある。対応を見ると、lombrigaはwyrmの訳として、dragãoはwyrmとdracaの訳として使われている。wyrmの対応が不整合なのは、次の現代英語訳の影響だろう。
Of Sigemund grew,
when he passed from life, no little praise;
for the doughty-in-combat a dragon killed
that herded the hoard: under hoary rock
the atheling dared the deed alone
fearful quest, nor was Fitela there.
Yet so it befell, his falchion pierced
that wondrous worm, -- on the wall it struck,
best blade; the dragon died in its blood.

二番目のwyrmは現代英語において対応するwormに訳されているが、最初の方のwyrmはdragonと訳されている。なぜそうしたのかは訳者のFrancis Gummere氏に聞かないと分からないが、最初にdragonと提示した方がwormの意味を限定できるからだと推測してみる。叙事詩だから調子をよくしたかっただけかもしれない。

この部分の正確な意味は日本語翻訳本を持っていないので、よく分からないが、とりあえず英語を勝手に訳してみると:
ジグムンドは長じると、人生を通じ少なからぬ賞賛を受けた;
竜を倒した勇ましい戦いで得た、古びた岩に隠された財宝
勇敢な英雄の単独行、フィテラも供にいない、恐ろしい冒険。
あの驚嘆すべき蛇があらわれたが、彼の剣が突き刺さった
壁にたたきつけられ、比類無き刀により、自らの血の中で竜は死んだ。


以上のように、前回のヴォルスンガ・サガと、今回のベーオウルフのポルトガル語訳を眺めてみて、現にlombrigaを英語のwormに相当する語として使っていることが分かった。現在の意味において両者とも回虫やミミズのような手足が無く這って動く生き物を表す語であるから、この対応は予想外のものではない。しかし蛇や竜を表すこのwormの古い用法においても、同様に使ってもかまわない例を得ることができたのは面白い。疑えばこのサイトに置かれている文書だけの特異な翻訳かもしれないが、そこまで心配しなくてもいいだろう。

古典用法も記述してあるようなポルトガル語の詳しい辞書を持たないので、lombrigaの古い用法に竜という意味があるかどうかわからない。そもそも対応しているはずの英単語wormに蛇や竜の意味が載っている英語の辞書を僕は持っていない。ただ使われている事実はこうして見つけることができた。


今度は逆に、虫を表す他のポルトガル語を調べてみた。ラテン語由来のvermeという虫を表す単語があった。綴りから察せられるとおり、wormに対応する単語である。それこそwormの訳語としてこのvermeを使えば最適なはずなのに使われていない。使わないのは、vermeという単語には虫の分類を示す限定的な意味しかないので蛇までは表せないからだろう。その点でlombrigaの方が適しているのだろう。それがなぜかまでは分からなかったが。他にもポルトガル語にはinsecto(inseto)という単語もある。これは英語のinsectと同源で、ラテン語のinsectum、ギリシャ語のεντομοςに由来している。これは語源通りに使われて「切り分けられる生物」である昆虫を意味している。

最後に、lombriga。現代のポルトガル-日本語辞典で調べると、回虫やミミズといった意味しか載っていない。この単語ははラテン語lumbricusに由来していて、このラテン語の単語はミミズの属名として使われている。これに由来する語は英語にも、普通の辞書には載っていないが、あることはある。lumbricusはラテン語そのままの形だが、lumbricという形でも載っている。 lumbric(ARTFL Project: Webster Dictionary, 1913)。ここでの定義は「An earthworm, or a worm resembling an earthworm.」(=ミミズやミミズに類似した虫)。またフランス語にもlombricという語があり同じくミミズを表すが、日常のミミズの表現はver de terraを使う。

ついでにラテン語のlumbricusの語源が知りたくなったが、よくわからない。英語loinに通じるlumbusという語がある。これは「腰」を意味する。この語根が含まれているので、想像力をはたらかせて「腰の部分からなる生き物」としてミミズという意味があるかもしれないと考えたが、根拠はない。回虫が元々の意味ならば「腰の部分に住んでいる生き物」という意味かもしれない。-ricusの部分が問題。ラテン語の詳しい辞書を調べることができれば分かるかもしれない。


当時ドラゴンカードをポルトガル人がlombrigaと呼んでいたという資料が見つかれば、この説はより裏付けられる。ただ一番重要な、lombrigaからロバイへの音の変化にちょっと距離がありすぎるのが、この説の難点であるけれど。


2007年05月19日

ロバイを調べて

ロバイの由来が知りたくて、ポルトガル語の『虫』の意味の言葉を調べてみて出てきたlombriga。詳しく調べてみると、北欧神話のwyrmの訳語としても使われていて、なかなか面白い探求になった。ドラゴンカードを調べていて、ポルトガル語に「L」で始まり途中に「B」を含む単語があって、それが虫と竜の意味を持つという発見はとても興奮するものだった。断定とまではいけなかったが、偶然がおもいっきり重なっただけかもしれないが、それはそれでおもしろい話だ。

ロバイを虫と呼ぶのは、ポルトガル語に頼らなくても日本語の蛇の表現だけでも十分可能だ。今の日本語ではムシやヘビという言葉は学術的な用法の影響で日常的な使用の場合においても意味が完全に分離してしまっている。でも日本で蛇のことを虫と呼んでいたのは事実だし、中国大陸でも漢字の蛇の字形どころか、虫という象形文字の成り立ちだって、虫の本来の概念の広さを示している。それだけでも十分だったけれど、この単語を見つけてしまったのだから、調べずにはおれなくなった。

それはそうと、古ノルド語や古英語の文章を引用までするのは、おおげさだと自分でも思った。結論だけ書けば済むことだ。でもこれはまた僕の別の趣味なので、興味が脇道にそれていくことを自分でも楽しんで書いた。wormの古い形はwyrmだということの例文ははっきりと提示できてわかりやすいと思うし、今のファンタジー用語とは違ってdracaとwyrmが八世紀頃の文章では、文学的な言い換えのできる語だということも分かったし、これもおもしろい発見だった。

最後にlombrigaの由来を調べてみたが、ラテン語に遡ってもミミズを表しているというのには、正直ちょっとがっかりした。少なくとも蛇ぐらい意味してほしかったな。現実はそう思い通りにはいかないものだ。

関連
ロバイという虫(1)
ロバイという虫(2)


2007年05月22日

ヨーロッパの竜を表す言葉

「世界の龍の話」(三弥井書店刊)という、今の僕にとってとても面白い本がある。この本では世界中に残っている龍の伝説が紹介されている。各国の物語の後には詳しくその国における龍の解説も書かれてある。この本で、ヨーロッパの地域で取り上げられているのは、イングランド、ウエールズ、スコットランド、アイルランド、ドイツ、デンマーク、フランス、スペイン、バスクと数多い。ヨーロッパだけでなく、東洋やインド、ペルシア、南米の話も載っている。

この本の解説で今回注目した部分を書き出すと、
・英語(イングランド)ではdragonとwormという語が使われる。
・英語に元々あったのがwormの古い形のwyrmである。dragonはフランス経由の言葉。
・ドラゴンとワームはともに鱗を持ち、水辺に現れ、娘を求めるという共通点がある。
・ドラゴンには四本の足があり、蝙蝠のような羽があり、先には針のついた尻尾を持ち、火を吐くという特徴がある。
・ワームには大きな蛇の姿をし、長くとぐろを巻き、毒のある息を吐き、切られても元に戻るという特徴がある。
・ドイツにも二つの系統がある。DracheとWurm(Lindwurm)。
・「ドラゴン」という語とその概念はローマ人を通じてゲルマン民族に伝えられた。それまでゲルマン民族は爬虫類に対する総称概念である「ワーム」しか知らなかった。
・「ドラゴン」は鰐と猛禽の合体したような姿をしている。
・「ワーム」は大きな長い蛇に近い存在である。
・デンマークにも二つの系統がある。drageドラーウェとlindormレンオアム。
・ドラーウェとレンオアムともに口から火と猛毒を吐く巨大な蛇型の怪物である。
・ドラーウェは四本の足と翼を持ち、昔話では頭が複数のこともある。空を飛び、自分の洞窟の中に宝を蓄え込んでいる。
・レンオアムは、巨大な蛇のような生物で、空は飛べない。「太さは人の腕、長さは三アーレン(約二メートル)」との記述がある。
・北欧の竜の歴史は古く神話までさかのぼるが、もともと北欧には空を飛ぶ竜がいなかった。
・翼のはえた北欧の竜は11世紀のエッダ「巫女の予言」で世界の没落ラグナロクに出現するニーズヘグNiðhöggrが最初である。
・スペインはdragón。
・スペイン北部のアストゥリアス地方にはculebra蛇という言葉から派生した名前のcue‘lebreクエレブレの伝説がある。固い鱗で弾丸をはじき飛ばすが、のどに弱点がある。
・バスク地方の竜エレンスゲErensugeは蛇に近い姿をしている。これには卵に弱いという弱点がある。


上のように、ヨーロッパには言語的にギリシア語系のdragon(代表して英語)とゲルマン語系のworm(代表して英語)の二系統の竜がある。

なお、 en.wikipedia:Slavic dragon を見て分かったが、ヨーロッパにはこの二つに加えもう一つスラブ地方限定のзмей(zmey)(代表してロシア語)というのもある。その中で有名なのがЗмей Горыныч(Zmey Gorynych)というもの。辞書で調べると、змейは、蛇、物語中の悪龍、凧の意。なお蛇はзмея、змеи。蛇の原義は「地を這うもの」でземля(地)と同源とある。

さて、最初の二つの系統に分類できる竜を表す単語を並べてみると(並びは系譜的ではあるとは限らない)、

ドラゴン系の言葉:
δράκωυ(ギリシャ語)、draco(ラテン語)、dreki(古ノルド語)、dreke(古英語)、traccho(古高地ドイツ語)、dragon(現行英語)、drache(現行ドイツ語)、drageドラーウェ(デンマーク語)、dragon(フランス語)、dragón (スペイン語) 、drago(イタリア語)、dragone(イタリア語)。

ワーム系の言葉:
ormr(古ノルド語)、wyrm(古英語)、wurm(古高地ドイツ語)、worm(現代英語)、lindwurm(現行ドイツ語)、lindormレンオアム(デンマーク語)。蛇・竜を意味しないがvermis(ラテン語)。


もう少し詳しく辞書で調べてみると、ドイツ語Wurmは、ぜん中類(ミミズなど)や昆虫の幼虫などの柔らかく細長い虫、古語として竜の意。原義はder sich Windende。動詞windenの例文の中に、die Schlange windet sich durchs Gras.(蛇が草の中をのたくって行く。)がある。竜を表す別の言葉Lindwurmは、北欧神話の竜を表す。この単語は古高ドイツ語由来で語中のlindは古くはlintと綴りこの部分でSchlangeの意味があった。もう一つの竜Dracheは火を吹く空想上の動物の竜、凧の意。ちなみにドイツ語での蛇はSchlange。これは動詞schlingen(巻き付ける)と関係がある。

英語wormは現在の意味には竜の意味は記述されていないが、語源の解説の中に古英語において、serpant,dragonの意味とある。dragonはギリシャ語δράκωυからラテン語、フランス語の順に伝わってきた。ギリシャ語での本来の意味は英語でserpent。またこのギリシャ語δράκωυは古英語torht(bright)や、ギリシャ語derkesthai(to see)に縁続きともある。ちなみに蛇を意味する言葉serpentはフランス語経由してラテン語から来た言葉。この語そのものはラテン語動詞serpoに由来し、これは英語crawlやcreep(這う)の意味である。


今回は、前回の記事を書くために集めておいて、書かなかった資料を書きだしてみた。今回の内容をまとめるとすれば、ヨーロッパでは、各地の蛇という言葉が基本にあって、それが大蛇、つまり竜を表すようになったと言うことができるだろう。

参考
・本「世界の龍の話」・・・amazon.co.jp。興味深い様々な龍の伝説がまとめてあるので、龍に興味がある人はぜひ目を通してみてください。
Merriam-Webster Online・・・辞書サイト
Dragon – Wikipedia・・・Wikipedia


posted by takayan at 19:28 | Comment(0) | TrackBack(3) | 言葉・言語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年05月25日

ドラゴンの翼

調べていくうちに方向性がずれていく。ドラゴンに翼がついている理由を調べてみた。

ギリシャ語系の竜を表す言葉dragon。最初、ギリシャ神話には様々な怪物が出てくるので、何かその中に翼のある蛇がいて、そこから出たものかと漠然と思っていたのだけど、単純にそうではないらしい。

「龍の文明史」(八坂書房)という安田喜憲氏編集の龍にまつわる論文集がある。その中にある田中英道氏の第三章「西洋のドラゴンと東洋の龍 − デューラーとレオナルド・ダ・ヴィンチの作品をめぐって」にそのことが書いてあった。西洋美術史が専門の著者が、美術作品の中に描かれるドラゴンの姿について、その背景となるキリスト教からの解説が書いてある。聖書の中にサタンとドラゴンの同一視があって、その悪魔のシンボルとして同じ羽根をもっているという。

この章で例に出している絵画がいくつかあるのだけれど、その中に「ヨハネの黙示録」12章を描いたデューラーの二枚の作品、「Apocalpyse:Dragon with the Seven Heads」と「St. Michael's fight against the dragon」(英語名)が示してある。一枚目は聖母マリアを思わせる太陽の女性とその女性の産み落とす子供を狙っている七つ頭のドラゴンの図、二枚目がそのドラゴンを退治する大天使ミカエルの図。

ネット上で見られる上記の絵へのリンク(どちらも開いた後、クリックすると大きくなる):
Apocalpyse:Dragon with the Seven Heads(Wikimedia commons)
Düer, Albrecht: St. Michael's fight against the dragon(Web Gallery of Art)

この章では、そのあと「聖ゲオルギウスの龍退治」の話をそのラファエロの作品とともに取り上げ、異教徒つまりキリスト教の敵である東方への敵対心のシンボルとなっていくドラゴンの話へと続く。またレオナルド・ダ・ヴィンチのドラゴンのデッサンの中に、当時のイタリアに伝わっていた龍が描かれている中国の陶磁器の影響を見つけていく。

この「ヨハネの黙示録」12章にどんなことが書かれているかが気になってしまう。もちろん概略は絵の説明の文章に書かれているのだが、知りたくなった。それも原典が知りたい。そういうわけで探してみた。

Parallel Greek New Testament Index に新約聖書のギリシャ語、ラテン語、英語の対訳が置かれている。ラテン語に関しては、標準ラテン語訳Vulgateだけだが、ギリシャ語、英語は何通りかのバージョンが並列されている。目的のヨハネの黙示録第12章は、The Revelation to Saint John Chapter 12にある。女性が描かれている場面は第1節から第5節の描写で、そして戦いの絵は第7節の描写だ。第9節にはドラゴンの別の呼び名が述べられている。

聖典を独自に解釈するような恐れ多いことはやらないのでご安心を。それにしても「炎のように赤く、大きなドラゴン」と具象的に描かれていても、それは何か別の本来は具体的な人や組織を暗喩していそうに思えてしまうのがこの黙示録。そういう表現に満ちている。

さて、ドラゴンは天に現れ、大天使ミカエルたちとの戦いにより天から地上へと追放された。この文章では地上に降りた女には翼の描写があるが、ドラゴンの翼の描写はない。ただ、第9節にあるようにドラゴン(δράκωυ)は、ヘビ(οφις)、ディアボロス(悪魔)、サタン(敵対者)とも呼ばれる存在であって、悪魔に羽根があれば同じものを表しているドラゴンにも羽根があるということになる。悪魔は反乱を起こした天使が変貌したものであるとの伝承もあり、この第12章の文章がドラゴンに翼があることに深く関わりがあるのは間違いないだろう。

デューラーは木版画集「黙示録」で自分の作品をヨーロッパ中に広めることができたが、それ以前に翼のあるドラゴンを描いたものはないかと調べてみた。利用したのは、Dragons in Art and on the Web。ドラゴンが描かれている画像や、ネット上のリソースを集めたサイト。

デューラーの「黙示録」が出版された1498年以前にも翼のあるドラゴンが描かれているものがいくつもあることが分かる。眺めているとドラゴンに翼があることは、すでに周知の事実となっている感がある。ここで見つかる古いドラゴンの絵の多くは、黙示録のドラゴンと、聖ゲオルギウスに退治されるドラゴン、そして聖マルガリタに踏みつけられるドラゴンを描いたもの、キリスト教にまつわるこの三つの物語を描いたものが大半である。それ以外の物もキリスト教関係のラテン語で書かれた動物寓話のようだ。カドモスを描いたものが一つある。

12世紀頃のいくつかの作品を挙げてみると、

・次のリンクの作品は大天使ミカエルとドラゴンとの戦いが描かれている。このドラゴンには翼がある。ドイツ、ヒルデスハイム。1170年代頃。
Saint Michael Battling the Dragon (Getty Museum)

・ルーブル美術館に展示されている12世紀前半ブルゴーニュの彫刻。これも聖ミカエルとドラゴンとの戦いを描いている。少しわかりにくいがこれにもちゃんと翼がある。
Saint Michel terrassant le dragon

・12世紀後半のイル=ド=フランスの彫刻。ルーブル美術館所蔵。黙示録の女性の子供を狙うドラゴン。
La Femme de l'Apocalypse attaquée par le dragon

・ルーブル美術館所蔵。Vallée de la Meuse。 1160 – 1170。これは男に翼が描かれていないので、聖ミカエルかどうか分からない。ドラゴンの尻尾が植物になっている。何を意味するか分からないが、尻尾が植物になっているドラゴンの絵は他でも見られる。
Plaque : Guerrier combattant un dragon

大英図書館の資料に1255年から1265年の間に作られたとされる Theological miscellany(神学論文集?)があって、それにはドラゴンを含めたキリスト教世界での動物の解説らしきものが載っている。ラテン語と思われる言葉でぎっしり書かれているが内容がわからない。ここで描かれるドラゴンの翼は天使やグリフォンのような鳥の翼であって、蝙蝠のような翼ではない。また上の植物の尻尾と何か関係ありそうなページもある。


ドラゴンに翼があるという特徴は聖書に由来すると断定まではできないが、悪魔と同一視されているこの黙示録12章を描写した作品を通して、羽根のあるドラゴンの姿がヨーロッパの人々に広められていったのは確かだろう。現在のドラゴンに描かれる翼が蝙蝠に似た悪魔の翼であることの由来も悪魔の象徴から来ているのだろう。そしてその存在を聖書の中で表しているギリシャ語δράκωυ、ラテン語dracoおよびその訳語が、翼を持った姿のドラゴンという意味で使われているのはそのためだと思われる。


posted by takayan at 03:17 | Comment(2) | TrackBack(1) | 日記・未分類 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年05月29日

DVD「純情きらり 総集編」

結局、完全版だけでなく総集編も買ってしまった。
完全版に比べると、値段の比率が高いようにも思うのだけれど、五万円もする全話のあらすじがこれだけで分かるのならば仕方がないか。

特典映像がよかった。この特典映像は完全版の方に付けるべきだと正直思った。

・2006年5月3日放送「純情きらり スペシャル〜これまでとこれから〜」(46分)。
これは日付からも分かるように、放送開始一ヶ月たって、分かりやすくこれまでの内容をまとめたスペシャル番組。出遅れた人でもまだ間に合いますよスペシャルというべき番組。この番組は見てなかった。そう言えば、この前「どんど晴れ」のスペシャルもやっていた。

この頃はまだ達彦さんは話の上では幼なじみの脇役扱いで、ライバルでもない。これが放送された時期はちょうど斉藤直道と別れた頃で、このスペシャルは優しい源一郎お父さんとの別れ、杏(もも)姉ちゃんの最初の結婚、そして斉藤直道との話が中心になっている。一ヶ月分が46分だから、ほどよくまとめられている。特に斉藤直道ファンには、最後にその別れのシーンで終わるから、達彦さん以上の重要な人物として描かれているので、たまらないだろう。

それにしても、案内役の宮崎あおいがいい。物語の紹介とオープニングの後、楽屋にいる宮崎あおいが視聴者に挨拶をする所から始まるのだけど、その頃の無邪気な桜子の雰囲気のままカメラ目線で「純情きらり」の世界に誘ってくれる。

・未放送「クランクアップシーン集」(17分)。
主だった役者のそれぞれのクランクアップの映像があって、花束をもらってみんな一言を言うのだけど、役者として自分の役について語るその言葉がよかった。劇団ひとりのはなんか独特でそれもよかった。こういう列車のシーンはなかったように思うけれど没になったのかな。病室に集まった家族の桜子以外のみんなまとめてのクランクアップの場面は、その現場でもたくさんの拍手が贈られていたが、僕も一緒になって拍手をしてしまいそうになった。

このクランクアップの特典映像は最後まで見ずに総集編を全部見終わった後に見るべきだ。そうしたらきっと誰でも本放送の頃の気持ちに戻って感慨もひとしおになる。


amazon.co.jp:純情きらり 総集編

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箱入り娘のブログパーツ

以前箱入り娘のブログパーツがあるはずだと書いたけれど、今頃になってそれを見つけた。「箱入娘」ではなく素直に「箱入り娘」で検索すればよかったわけだ。

配布してるブログはLife is beautiful。で該当記事はというと、「ブログ用ミニアプリ: 箱入り娘 【無料ゲーム】」。アプリ自体の名前は「ice princess」。

でも記事にある設置用のスクリプトではリンク切れになってしまう。いろいろ探してブログ:nouseの記事:ブログパーツを10個並べてで、ソースを調べればいいという単純なことに気付かせてもらって、理由がやっと分かった。どうやらアドレスが変わってFlashによるテスト版になっている模様。

貼り付けてみるとこんな感じになる。Seesaaブログにはちゃんと張り付くみたい。



ちょっと残念なことに、以前紹介した二つのパターンは入っていない。

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posted by takayan at 02:30 | Comment(0) | TrackBack(0) | 箱入り娘 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年05月30日

見えない生活

さっき九州朝日製作の「ドォーモ」という番組を見ていた。これは九州六局のみ放送の、午前零時から始まる福岡発信の情報番組。

今日は重度視覚障害者のりえちゃんが出てくる「見えない生活」の第何度目か。「ドォーモ」は昔は見ていたけれど、最近はこの企画のあるときしか見ない。これで僕が見る「見えない生活」は三回目だと思う。ほんとはもうこの企画何度も放送しているのだろうけど、普段この番組見ないから、全部偶然見ているものだけだ。今日も運がよかった。

りえちゃんは左目が見えず右目もほとんど見えてない。でも、ほとんど見えないと言っても彼女にとってはものすごく多くの情報を与えてくれる光なのは言うまでもないんだけれど。

それにしても実際に会っても彼女が目が見えないことに僕は気づけないと思う。目をぱっちりと開いて、白杖も持たず、お肌が大事と日傘を差して、背筋を伸ばし颯爽と歩いている姿に何の違和感も感じない。彼女の日頃の鍛錬を微塵も感じさせない、笑顔や明るい声はとても好感が持てる。

今日はりえちゃんの通勤に一日密着という企画。実はこの道は僕も何度か視覚障害者の知人と歩いたことのある道で、すごく身近に感じながら、彼女の姿を見ていた。

番組は職場に到着する前に終わってしまった。この続きはあるのだろうけど、それがいつかは分からない。


テレビに映っていた歩行者の人たちのマナーには問題はなかったんだけれど。目の見える皆さん、道で携帯の画面なんか見て相手がよけてくれることを前提に歩くなんてことをせずに、ちゃんと前を向いて歩きましょう。そして万が一ぶつかったときには、せめて、すみませんと言うようにしましょう。こちらも言います。親である人は子供にそれをしつけてください。ご協力お願いします。


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2007年05月31日

箱入り娘のFlash作ってみました。

そう言えば自分もFlash持ってるんだということで、flashで箱入り娘作ってみました。そうか、自分で作ればよかったんだw

ブログパーツを目指したサイズなんだけど、まだまだなので、正式配布ではありません。

かなりの手抜きです。スライドしてません。飛び越えて置けます。リアルとも言います。でもこういうのはズルをしても楽しくないので、真面目に楽しんでみてください。それとレベルも変えられないし、まだゴール判定も入れてません。

flashですのでFlash Playerが無いと表示できないはずです。まだ入れていない人は、次のページに行ってみてください。
Adobe Flash Player ダウンロードセンター

まだレベルが変えられないので、とりあえず何パターンか作ってみました。

■パターン1
幼稚園年長さんの姪っ子と遊んだときのパターンです。実際は先日紹介した動物園のタイルで遊んでいて、キリンさんとカンガルーさんは横になってお休みしてもらおうと言って遊びました。もちろん彼女はゴールできましたよ。


幼稚園児用はこれまでで、あとは難しいのが解きたい人用です。

■パターン2
ちょっと難しいパターンです。


■パターン3
いままでで一番難しかったパターンです。


他のパターンを解きたい人は、次のページがお勧めです。
箱入り娘アプレット

各レベルのページを開いてもゲームが始まらない人は、おそらくJavaが入っていないので、こちらでダウンロードしてインストールしてください。
Java ソフトウェアの無料ダウンロード




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