
さて、このカードはハウのソータ。つまり棍棒スートの10番目のカード。女性の姿だが、天正カルタはポルトガルのトランプを手本にしているので、女王ではなく、女従者(ソータ)ということになっている。その後に騎士(カバ)と国王(キリ)が続く。それにしてもこの絵はシュールでいい。今まさに棍棒でドラゴンを殴らんとする女性の姿。日本独自というのではなく当時ポルトガルのトランプに描かれた特有の構図らしい。
三池カルタ記念館で復元された「ハウのソータ」をよく見てみると(後述の本の中の写真p.4)、右手首が描かれていない。棍棒がただ宙に浮いている。そういうデザインもあり得なくもない。しかし、同じ長物系スートである剣(イス)においてはソータの絵柄は振りかぶった剣で今まさに竜に斬りかからんとする図である。それに加え、頭と竜の間に右の二の腕らしきものも描かれているので、頭と棍棒の間に本来あるべき手首の線が欠落したのだと考えていいだろう。
竜と頭の間にあるものが髪の毛の一部ではなく二の腕であるのは、竜を捕まえているほうの左腕の二の腕の模様が裏付けてくれる。棍棒を振りかぶる以外にこんな腕の配置はないだろう。武器を隠し、左手で竜を愛撫しているという見方はちょっと苦しい。
記念館の復元で手首が描かれていないのは、元にした右手首が彫られていない版木を尊重したためだろう。僕も同じものを元にしているが今回はあえて右手首を描いてみた。この復元では忠実さよりもそういう整合性のほうを優先している。ただ不自然さも否めない。棍棒が太すぎるために大きな手首になってしまう。

この二枚目の画像は人吉で入手したうんすんカルタでの「ハウのソータ」。服装が東洋風になっているが、同じように棍棒を振りかぶっている。より合理的になって棍棒が上下がひっくり返り細い方を掴んでいる。ただ竜がいない。陽気に微笑みながら、意味もなくただ花の咲いている枝を振りかぶっている女性がいるだけだ。
実は左側にある袖らしきものが竜の成れの果てである。単独で眺めてもこれが竜だなんて思いつけない。上の天正カルタのハウのソータを知っているから、そうかもしれないと思うことができる。このうんすんカルタでは分からなくなっているが、他に伝わっているうんすんカルタではちゃんとした竜が描かれている。
山口吉郎兵衛氏の研究書「うんすんかるた」にはこのカルタも含めた三種のうんすんカルタの比較がされていてドラゴンの変化を確認できる。また後述の本「カルタ―PLAYING CARD」に載っているうんすんカルタはソータ札にドラゴンがはっきり描かれている(ただしハウのソータに髭があるが)。
参考資料
・「カルタ―PLAYING CARD (大型本)」
これは日本のカルタの歴史について書かれた本。日本のカルタおよび世界のトランプについての貴重な図版がたくさん載せてある。小学校の図書館に置いてあったようなそういう感じの大型本。実際子供たちがトランプのゲームを覚えたり、カルタを作ったりするための易しい説明が載っている。
・いにしえの旅 : No.07「ウンスンカルタ」
九州博物館連載記事 この記事の最後に髭のはえたハウのソータの画像がある。