なぜか、今回は見る前からのび太を思い出してしまうタイトル。今回の主役はデンパ。いつもダイチにくっついているのに、今回はダイチは出てこない。先の二回でダイチは土下座したり、発毛したり忙しかったから、今回は休みでいいや。でも、いないと話の雰囲気ががらっと変わる。今回の話は、優しい性格のデンパが、ダイチにも秘密に育てているイリーガルの首長竜の話。とても切ない物語。
「クビナガ」は古い空間の空き地に住んでいる。長い首だけを水面から出した恐竜のような、まるでネッシーみたいな姿をしている。地面の黒い部分を水面のように変化させて移動する。白い部分や日の光があたるところには入っていけない。このような古い空間がいままで残ってきたのは、サッチーが入ってこれないドメインの領域だったから。
デンパがこの場所を見つけたときには、まだこのイリーガルは何匹もいたのだけど、いつのまにか一匹だけになってしまった。誰にも秘密にしていたけれど、ハラケンとヤサコが例の日記が示す古い空間を探しに偶然この場所にやってきて知ることになった。
空き地で建設工事が始まることになり、首長竜をどこか安全な場所に移動させなくてはならなくなる。そこで、ヤサコ、フミエ、ハラケン、デンパが、新しい居場所へと「クビナガ」を連れて行こうとするが。。。
今週までの三回「沈没! 大黒市」「ダイチ、発毛ス」「最後の首長竜」は作品の流れを一休みして、イリーガルたちを中心においた話が続いた。最初の二回は。重大な事件なのだけどコミカルで楽しい雰囲気。今回も笑えるところはあるけれど、イリーガルに寄り添った視点からの、彼らが置かれている悲しい立場を描いている。
この三回は興味深いイリーガルが現れ、自然な形で子ども達がそれを観察していく。そうやって、視聴者も少しずつだけれどイリーガルというものへの理解がだんだん深まっていく話の作り。ついでにこの電脳空間の細かな設定も描写され、世界の理解も助けてくれる。
「沈没! 大黒市」。これに出てきた魚のイリーガルは、原始的な命としての特徴を持っていた。古い空間からダイチが釣り上げたイリーガルは、最初は見落としそうなくらい小さなものだったが、ダイチが電脳空間のテクスチャーを集めてきて食べさせるとどんどん大きくなっていく。
エサをやると大きくなるだけの単純なペット育成ゲームのよう。イリーガルは古い空間の中でしか生きられないけれど、この黒い「キンギョ」は自分の周りに水のような古い空間を作ることができ、その空間を泳ぐように動いている。
食べると段階的に空間も自分の大きさも成長させていく。やがて部屋に入りきれないぐらいに巨大化し、大黒市を埋め尽くすかの勢いで、古い空間を広げていく。これはぜったい巨大な人型兵器か宇宙人に解決してもらわないといけないような、人間の力では手に負えないような展開。我らがサッチーも出動するが、何の戦果もあげられず、あえなく巨大化したイリーガルに食い散らかされてしまう。結局はメガばあのワクチンソフトで難を逃れた。
「ダイチ、発毛ス」。これはダイチに生えた伝染性の「ヒゲ」の話。神社の軒下でダイチが文字化けした空間に指をつっこんで感染したらしい。実際の顔の皮膚に生えるのではなく、電脳空間上の身体の顔の部分に生えている。だからメガネで見ないと何も見えない。
女の子だろうと構わずに、次々にヒゲは人の顔に伝染し、町中大変なことになっていく。このヒゲは群棲型のイリーガルで、言葉を話し、知性を持っている。このイリーガルは顔の上で文明を発展させていく。メガバーが彼らの言語を翻訳するソフトを開発すると、ヤサコたちはヒゲに対して神の声としてコミュニケーションできるようになる。まるで文明育成ゲーム。
文明が発達すると、ヒゲ達はヒゲ同志で戦争を始めてしまう。核兵器まで作り上げる。ひとまず核兵器の撃ち合いが終わったかと思うと、今度は他の顔の上で生息しているヒゲ達と星間戦争を始めてしまう。自分たちの顔の上で際限なく続く戦争の中、ヤサコ達は戦争の虚しさを肌身を通して感じとる。
やがてヒゲ達も戦いの虚しさを感じて、神との対話を試みる。そこでヒゲ達から神達へ鋭い問いかけが投げかけられる。前回土下座までさせていた仲の悪いダイチとフミエにその言葉が突き刺さる。ヤサコはヒゲ達のための絶好の新天地を用意するが、やがて自分たちの居場所を求めて旅立ってしまう。
そして今回の首長竜。イリーガルは心を持っているかのように振る舞う。痛みを感じ、自分だけ生き残った孤独の中で寂しそうに生きている。そして最期のシーン。時間内に目的地にたどり着けず絶望的な状況の中で、「クビナガ」は仲間達の幻を見てしまう。そして痛みも忘れて暴走し、朝日の中で絶叫しながら溶けてしまう。この最期は壮絶過ぎる。その溶けていく姿と叫びを間近で見なければならなかったデンパがかわいそうすぎる。
この件にずっと距離を取りながら関わっていたフミエは、感情移入なんかしたら損なだけだと言いながら、声をあげて泣いていた。子ども達にとっては、イリーガルは命として認識可能な存在となってくる。今回の話は、今後このような特徴を持った別のイリーガル出現への布石になるんじゃないかと思う。
今回の子ども達の行動は、大人の知恵があれば何とかなったかもしれない。いままでずっとメガばあになんとかしてもらったから、今回もそうしてもらえれば、助かったかもしれない。ハラケンは大人びているし、フミエも高度なハッキング技術を持っている。けれど、彼らはやっぱり子どもなんだと思い知らされるような話だった。
大人ならばあらゆる想定をしてうまくいかないときの対処も考えて行動するだろう。でも子どもはうまくいくことだけを考えて行動してしまう。彼らは彼らなりに十分に考えて行動し、臨機応変に解決しようとした。けれど少年の日のどうすることもできない無力さを感じる切ない話。大人ならそう感じるだろう。
このようにこの一連の話でイリーガルの人工生命として特徴が描かれてきた。イリーガルが何者なのか、まだよくは分からない。偶然産まれたものなのか、人為的に作られたものなのか分からない。ただ想像を絶する多様を持っているのは確かだろう。成長し、文明も持ちうるし、痛みを感じる心もある、そのような命としての側面を持つことが分かってきた。
イリーガルは電脳空間の情報として存在であり、電脳メガネを通してしかその存在を知ることができない。純粋な情報としての存在なのに、知性やまるで心があるかのように振る舞う。なにかとてつもない謎を秘めているのは確かなんだけど、まだよくわからない。
デンパの持っていたイリーガルに対する優しさを、今回のことでヤサコたちも同じように持つようになっただろう。そこで今後イサコたちとイリーガルへの対応で対立が起きるのではないかと思う。なぜならイサコはイリーガルを下等生物と言い放っている。また争いの虚しさという経験ものちのち、役に立つことになるのだろう。
夏休みに起きたこのイリーガルにまつわる出来事は、本編からは逸れていたかもしれないけれど、子ども達の心の成長を描く大切な話になったのだと思う。
この三回で、その他、気付いたこと、気になったこと
・キョウコはヤサコと同じように古い空間を感じる能力がある。
・メガネで、空間のバージョンを調べることができる。
・新しい空間は5秒おきに更新され、古い空間は1分おきに更新される。その差を利用してテクスチャを剥がすことができる。
・ダイチの部屋のカレンダーは2026年のもの。
・ハラケンたちは、電脳空間ナビに接続していたイリーガルがいたかもしれないと、探している。
・イサコはイリーガルを下等生物と呼ぶ。
・イリーガルには、メタバグを食べて濃縮する性質のものや、今回のようにテクスチャーを食べるものもある。イサコが探しているのは前者。
・ハラケンのオバちゃん、原川玉子は、コイル探偵局会員番号二番。メガばあのこたつでしょんべん漏らした過去がある。
・オバちゃんは、メガばあをばばあと呼ぶ。二人の間には4年前に何か大きな因縁がある。
・メガばあに過去はない。未来に生きる女。(フミエ談)
・イリーガルは古い空間で、誤差の出やすい場所に出やすい(ダイチ談)
・ダイチはまだ生えていない。
・ダイチのファーストキスはキョウコに奪われた。おそらくデンパも。
・夏休みの登校日。新校舎に移転という張り紙がある。
・フミエは学習塾の夏期講習に通っている。
・フミエはドリンク剤飲んでる。
・ハラケンは病院に通っている。
・デンパは片側に補助輪のある自転車に乗っている。
・(クビナガやサカナのイリーガルについて)大きさを制御するプログラムがバグっている。(ハラケン談)
・大きくなりすぎた電脳物質は壊れやすくなる(フミエ談)大きいとそれだけサーバの負荷も大きし、イリーガルは違法にサーバを占有しているから、しょっちゅう小刻みに体を削除されているはず。ペットも体を細分化されて、あちこちで並列処理されている。どこのサーバもイリーガルの部品を見つけたら、すぐに削除する。
・オバちゃんは清純女学院の生徒。学生服の時はいつものメガネは付けていない。
・道路には街頭カメラがある。
次回は8/25「電脳コイル自由研究」
タイトルから、前半の総集編か、電脳世界の解説じゃないかと思う。
間が空くのは、高校野球中継があるからだろう。