2008年01月06日

ハートの起源1(ドイツスート)

いままでこのブログでいろんな探求をやって、そしてそこで気付いたことをもとに、いくつか仮説をたててきた。今回も面白いアイデアを思いついたので、ここに書いてみる。完全な論証にはなっているとはいえないけれど、わりといいんじゃないかと思う。

今回もトランプネタ。トランプという呼び方自体が日本人の誤用ではあるのだけれど、なじみ深い言葉なのでこのまま使うことにする。

現在僕たちが使っているトランプの記号「スペード、ハート、ダイヤ、クラブ」は、それ以前に使われていた記号をもとに作られたと考えられている。その元になった記号は、ヨーロッパの国々で今でも地方札の記号として使われている。いままでにもこのブログで、ポルトガルを通じて天正カルタ、ウンスンカルタにも受け継がれたとされるスペインスートの「剣、カップ、コイン、棍棒」や、前回紹介したハンガリーカードに使われているドイツスートの「どんぐり、葉っぱ、ハート、鈴」を紹介した。

前回紹介したドイツスートのハンガリーカード


今回新しく紹介するのは、それと同じドイツスートのザルツブルグパターン


ザルツブルグパターン参考資料
Salzburg pattern - IPCS Pattern Sheets-

この資料によるとザルツブルグのパターンは16世紀にまでさかのぼれるババリアンパターンと呼ばれるものから派生して1850年頃から使われるようになったらしい。

ザルツブルグカードのエースのデザインは次のようになっている。これはババリアンパターンのデザインとも近い。


どんぐりのエースには、酒樽にジョッキを持った酒神バッカスがまたがっている。頭からどんぐりの枝がはえている。葉っぱのエースには、鹿、ユニコーン、鳥が描かれて、その鳥が葉っぱの生えた木をくわえている。ハートのエースには、キューピッドが描かれている。矢を身につけ目隠しをしている。羽は緑色で、鳥のものではなく、蝶の羽のように紋が入っている。鈴のエースには、ブタとそれに襲いかかっている犬が描かれている。犬には赤い首輪がしてある。

上のエースのデザインは、それぞれのマークの意味を示しているように見える。これはババリアンパターン以前のパターンにおいて既に描かれていたかどうか分からないが、ババリアンパターンで使われるようになったとするならば、そのとき示されたドイツスーツのマークの定義を表しているように思われる。

ババリアンパターン参考資料
Old Bavarian pattern - IPCS Pattern Sheets-
Bavarian pattern Type M - IPCS Pattern Sheets-
Bavarian pattern Type S - IPCS Pattern Sheets-

この図像が象徴していることは、考えようによってはいろいろ考えられるが、素直に考えて、どんぐりは自然の恵み、葉っぱは野生、ハートは愛、鈴は家畜・隷属となるだろう。ババリアン以前にドイツスートは成立していたので、このエースが示している絵はその当時の後付けの解釈かもしれないが、それでも五百年前の時点でこの意味づけが成り立つわけだ。僕の解釈が間違っているかも知れないが、この絵を使って意味づけをしようとしていると考えていいだろう。

ここで重要だと思ったのが、ハートのキューピッドだ。これをキューピッドと解釈して間違いないだろう。蝶の羽根をしているのはちょっと変だが、このデザインによって、この図形が愛を表すことが明確に示されている。(因果関係は知らないがイタリアのトランプにも蝶の羽をした天使が描かれているものがある。)

以前、ハートの図形の起源について「ハートの形」に書いた。実は意味と記号の結びつきというのは突き詰めて考えると意外に難しい。そのときの記事では、ドイツスートでハートが使われているとは書いたが、それがどこからやってきたのかはっきりとは分からなかった。そもそもドイツスートのハート形のその記号が現在の記号のように愛を示すのかどうかもはっきりしなかった。それが、このキューピッドの絵によって、意味と記号が結びつけられているのが、はっきりと分かった。

話は紆余曲折してまだまだ続くが、ちょっと忙しいので、今回はここまで。


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