いろいろ調べるとこの番組の初回の放送はアメリカで2008年だった。日本でも既に去年から放送されているようだ。
ということは先日紹介した「遺伝子ゲーム」とほぼ同じくらい。最後の方で同じ研究が紹介される。
この番組の中で協力テストのところが、チンパンジーは協力はするが、見返りのない協力は無いことを示す実験。
まず、番組情報
「人間とチンパンジー:DNA2%の相違」
原題:Human Ape
放送中ずっと左上に、来週の「遺伝子の旅」の告知が張り付いていた。
これは、次の番組のことで、
遺伝子の旅 〜先祖が歩んだ道〜
原題:The Human Family Tree
多くの協力者の頬の内側の細胞のDNAを採取して、その情報を使って祖先をたどっていくプロジェクト。現在、世界中の35万人以上のDNAサンプルが集まっているそうで、このプロジェクトはかなり楽しみにしている。
それはそれで楽しみにしておいて、この人間とチンパンジーの話。
世界中の様々な研究所が行っている実験の様子を具体的に示しながら、類人猿と人類についての違い一つ一つの能力について検証していく。アイとアユムで有名な京大霊長類研究所の松沢教授の実験も紹介される。アメリカで研究されているボノボのカンジも出てくる。カンジは簡単な人間の言葉を理解するというので以前NHK特集で紹介されたこともある。
空間認識、問題解決、道具作りのテストなどに関しては、類人猿もその能力を持っている。
しかし以下のテストでは大きな違いが出てくる。
・計画性テスト
計画性は類人猿には短期的なものだけはあるが、長期的なものはもってはいない。
・習慣と伝統のテスト
学習は類人猿もできるが、その方法には大きな違いがある。大人のチンパンジーは積極的には子供に教えない。子供は見て、まねて覚える。チンパンジーは多数の習慣と伝統は持たない。
Victoria Horner博士の実験。二つの特殊な箱を用意する。二つとも同じ仕組みでご褒美の食べ物が出てくる。しかし一方は中身の見えないブラックボックス、もう一方は中身が透明で、食べ物が出てくる仕組みがはっきりとわかる。まず、ブラックボックスで食べ物のとり方の手本を人間の教師が教える。人間の子供もチンパンジーも、多少人間の方が要領がいいが、教師と同じような手順を繰り返しご褒美を得る。今度は、その手順を覚えた後に透明ボックスを渡してみる。実はさっき教えた前半の手順は意味は無く、後半の動作だけがご褒美をとるのに必要な手順である。透明なので人間の大人ならばすぐに前半の動作が無意味なものだったことが分かる。しかし人間の子供は、律義にさっき覚えた教師の手順を全て繰り返し続ける。一方チンパンジーは前半は行わず後半の手順だけでご褒美を得る。人間の子供は無駄なことをしているように見えるが、この忠実にまねる能力が人間らしさを作っている。この習性によって多くの習慣を受け継ぐことができたと考えられる。
・物理学のテスト
坂の途中にあるリンゴを、上からボールを転がして落とさせる実験。ボールは重いものと軽いものがあり、軽い方では勢いが弱すぎてリンゴを落とすことができない。人間の子供は1歳半の子供でも、重いボールを選べばうまくいくことが予想できる。しかしチンパンジーは何回も経験しなければ重いボールが有利なことが理解できない。そして最後まで理由を理解できていない。この実験から人間の子供は早い段階から、物の動きや作用を理解していることがわかる。
不安定なブロックを立たせる実験。L字ブロックを逆さに立てさせる。人間の子供もチンパンジーも慎重にブロックを扱ってちゃんと立てることができる。途中で錘を埋め込んだブロックにすり替えて、絶対立てられない状況を作る。そうすると人間の子供はブロックが変だと気付き理由を探しを始める。一方チンパンジーはいつまでもそのブロックを立て続けようとしてしまう。
大人の人間の脳は、類人猿の脳の大きさの三倍もある。記憶力は人間が一番だと思われているが、必ずしもそうではない。
・短期記憶力テスト
京都大学霊長類研究所、タッチパネル付きのモニターに数字をランダムに配置し、チンパンジーに小さな順に指さしさせる実験。最初の数字を指さした瞬間に残りの数字が消えて四角に変わる。あとは記憶を頼りに選んでいく。この実験により、チンパンジーは短期記憶力は人間よりもすぐれていることが分かる。野生では餌のありかや、敵を見分ける能力は特に必要である。人間とチンパンジーの共通の祖先には、この能力があったのではないだろうか。
・言語テスト
もう一度松沢教授が登場。チンパンジーの声を実現してみせる。野生のチンパンジーには30種類以上の声がある。アメリカの研究所には70語の図形を区別できるオランウータンがいる。またのアイオワの研究所には人間の言葉の2000語以上の英単語を聞き分けるボノボがいる。しかし人間は10代後半までに六万の語彙が使えるようになる。高度な言語能力は類人猿にはない。
・協力テスト
人類は協力して共に働く能力を持っている。チームでスポーツをしたり、極端な例としては国でまとまり戦争までやってしまう。チンパンジーも協力して実行する映像が撮影されている。オスのチンパンジーの群れが、特殊部隊のようにひっそりと前進し、別の群れの縄張りに入り、敵の群れのオスを一匹集団で殴り殺した映像が記録されている。またチンパンジーは仲間と連携して猿を捕獲して食べることも知られている。
Alicia Melis博士の実験。檻の前に長い板を柵に平行に置く。その板は手の届かない距離にある。板には左右と中央に餌を入れる箱と、紐をかける棒が数本垂直に固定してある。板の両端にある棒に長い一本の紐をかけて、紐の両端を檻の中に入れておく。両方の端は一匹が同時に引けないくらい距離がある。檻の中から片方の紐だけを引くと、紐はするりと板の棒を抜けてしまい板は動かない。板を引き寄せるには、紐の両端を同時に同じ力で引かなくてはならない。つまり二匹のチンパンジーが協力しないと餌は手に入れられない。一匹のチンパンジーを板の前の檻に入れ、もう一匹をチンパンジーをそこにつながっている隣の檻に入れる。二番目の檻と一番目の檻をつなぐ扉には一番目の檻のチンパンジーからしか開けられない簡単な鍵がかけてある。つまり板の前のチンパンジーが自ら協力が必要だと判断したときにそのチンパンジーの手によって扉は開けられる。
最初、板の両端にそれぞれ餌を入れて、実験開始。板の前のチャンパンジーは、協力が必要だということが分かり、鍵を開け、もう一匹を呼び込む。そして一緒に紐を引き餌を手に入れる。両端に餌があるので、二匹ともにご褒美がある。この状況では助け合う。
今度は板の中央に餌を置いて実験を行う。最初、両端に餌が置かれているときと同じように協力して、板を引き寄せる。しかし餌が手の届くところに来ると、順位が高い方の最初のチンパンジーが独占してしまう。下位の者には一切分け前はない。そのあと同じ二匹を使って同じ実験を行うと、鍵を開けてもその檻から出てこなくなる。協力関係は失われる。
チンパンジーが協力するのは見返りがあるときだけ、協力相手を道具とみなしている。人間の協力関係とは違う。
逆さにしたコップのどれかに食べ物を入れる。チンパンジーの目の前で人間が中身が入っているコップを取るそぶりをすると、チンパンジーはそれに餌があるに違いないと思い餌を獲得できる。しかし人間が取るそぶりではなく、指さしに仕草を変えるとチンパンジーの正答率が低くなってしまう。これはチンパンジーには役に立つ情報を相手に教えることが理解できないからだと考えられる。チンパンジーは常に自分本位で行動する。協力するのは見返りが得られるときだけでしかない。一方、人間の子供は他人は皆、親切だと思っている。相手の意図を信頼して行動している。見返りのない協力は類人猿にはない。
これらのテストで分かってきた違いの理由として、2つの遺伝子に関する研究が紹介される。顎の筋肉の遺伝子の突然変異と、言語に関係するFOXP2遺伝子の突然変異だ。顎の筋肉遺伝子に突然変異が起きたのは、240万年前だと推定される。この変異により、顎の筋肉が弱くなり、頭蓋骨を囲んでいた筋肉が取り除かれ、脳が大きくなることの制限がなくなった。またFOX2P遺伝子に突然変異が起きたのは、20万年前から30万年前だと推定される。この変異により舌と唇に言葉を話すために必要な神経が結合し、ヒトの祖先は話すことができるようになったと考えられる。
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