2011年02月20日

Googleブックスを使って《プリマヴェーラ》のことを調べてみた(1)

ボッティチェリの作品《プリマヴェーラ》について、Googleの書籍検索を使って昔の出版物の中でどのように扱われていたのかを調べてみました。

起点とするのは、やはりヴァールブルクがいいでしょう。ヴァールブルクはこの絵のことを春という意味のドイツ語《Frühling》で呼んでいますが、1893年の論文の中で、先人たちの研究ではどれも《Allegoria della Primavera》という名前で呼ばれていたと語っています。このことからこの論文が書かれる以前この絵に対してイタリア語の《Allegoria della Primavera》という呼び名が広く使われていたことがわかります。まず、その名前がどのように使われていたのかを調べてみましょう。

この言葉を書籍検索すると、この言葉が使われた(デジタル化されたものの中で)最古のものとして1862年フィレンツェで出版されたガイド本が出てきました。フィレンツェの各美術館の目録が掲載されています。

Guida di Firenze e suoi contorni
この本の153ページに「Gallerie dell' Accademia delle belle Arti」の「Galleria di Quadri antichi」の24番としてボッティチェリの作品《Allegoria della Primavera》が明記されています。ちなみにこの本の中で《ウェヌスの誕生》はウフィツィ美術館にあると書いてあります。

イタリア語のウィキペディアには「Nel 1815 si trovava già nel Guardaroba mediceo e nel 1853 venne trasferita alla Galleria dell'Accademia per lo studio dei giovani artisti che frequentavano la scuola; con il riordino delle collezioni fiorentine venne trasferita agli Uffizi nel 1919.」というこの絵の過去の所在地の情報が書いてあります。1862年出版の本の情報と整合性が取れています。

《Allegoria della Primavera》で調べられる情報は1862年が限界でした。意外にそれほど遡れませんでした。念のため、今度は《Allegoria della Primavera》の英訳《allegory of spring》で調べてみましょう。

検索してみると、1850年のものが一番古そうなのですが、このヴァザーリの英訳本には"the Allegory of Spring [Primavera] "という当時では場違いなPrimaveraの表記があったり、どうやら年代データに誤りがあるようなので無視します。

気を取り直して探してみると、最古のものとして、ボッティチェリの作品"Allegory of Spring"が記載されている1858年の本が出てきました。この本は英国人が1857年にヨーロッパ大陸の美術館巡りをしたときの旅日記のようです。各地のカタログを手に入れてその情報も英訳して引き写しています。というよりその各美術館の所蔵目録のほうがメインのような本です。フィレンツェの場面では、先のフィレンツェのガイド本とほとんど同じ情報が英訳されて載っています。先のフィレンツェのガイド本は1862年の発行なので、時期的にこのガイドの第3版か、または似たような内容の別の目録をもとにしたと推測できます。

この本では"Allegory of Spring"は the Academia dele belle arte の Gallery of Ancient Pictures にあると書いてあります。、ちなみに、"birth of venus"は、THE UFFIZZI GALLEBYに所蔵されているとあります。先のガイド本の内容と同じです。時期的にも問題ないようです。

さらに念のため、フランス語の《Allégorie du Printemps》で検索すると、次の本が見つかりました。

Description de l'Imperiale et Royale Académie des beaux-arts de Florence
これはフランス語で書かれた Accademia di belle arti の目録です。1852年版と1854年版の二つを合わせたものになっています。この2つのうち《Allégorie du Printemps》 が記載されているのは1854年版だけでした。《春》が1853年にこの場所に移されたとする情報と辻褄が合います。置いてある場所は、GALERIE DES ANCIENS TABLEAUXの26番です。これは1862年の資料の24番と違っています。

もっと前のフランス語で書かれた目録を探してみると次のものが見つかりました。

Galérie impériale et royale de Florence
これは1812年にフィレンツェで出版された目録です。この本の198ページに以下のような《春》の記述があります。《Allégorie du Printemps》 という表記ではありませんでした。

Alexandre Botticelli. Un grand tableau; Venus, les trois Graces qui dansent, le Printemps ec.

この記述だけを見ると、ウェヌスと三美神といっしょに春という名の神も描かれているように読めます。この頃から既にヴァザーリの説明文から導かれたこととして、春の女神がこの絵に存在するという解釈があったと考えてもいいのかもしれません。

電子情報だけからの推測ですが、1853年にアカデミア美術館に移され、そのときにフランス語で《Allégorie du Printemps》、イタリア語で《Allegoria della Primavera》と名前が登録され、その名前の載った目録が出版され出回ったことが、この作品が各言語で《春の寓意》という名前とともに広く知られるようになった契機の一つと言えるでしょう。



posted by takayan at 04:37 | Comment(0) | TrackBack(0) | プリマヴェーラ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする