2012年01月02日

元日は Dixit

2012年になりました。
今年が良い年になりますように。

さて、元日は甥っ子たちと久しぶりにボードゲームをして遊びました。遊んだのは Dixit(ディクシット)。去年、Amazon.deで絵画関連の資料をいろいろ購入したとき、これが2010年のドイツゲーム大賞を取ったというので、ついでに注文したものです。評判通りとても面白いゲームでした。

小学生もいましたが、すぐにルールを覚えてくれました。箱には八歳以上と書いてあります。たいていのゲームは年齢が高いほうが極端に有利になってしまいますが、このゲームは大人も子どもも幅広い年齢層で一緒に楽しめます。

 

面白かったので、ルールの紹介をしてみます。

これは、84枚の幻想的な絵の描かれたカードを使い、それぞれについての「言葉」を考えていくゲームです。

84枚をよく混ぜて、一人に6枚ずつカードを裏向きに配ります。プレイヤーはそれぞれ6色の中から自分の色を決めてもらって、その色の点数を数えるためのウサギの駒と、同じ色の投票用の数字の書かれた票も配ります。残りのカードは裏返して山札として場に置きます。それぞれのウサギを点数ボードの0点の場所に並べて、準備完了です。そして一人が語り部(親)になり、以下のターンが繰り返されます。

ターンの最初で、語り部となった者が自分の手札の中の一枚を決めて、そのカードについての言葉を考えます。このときの言葉は、声にすることができればなんでもよく、単語でも文章でも、擬音でもいいです。その言葉を言いながら、他の誰にも内容を見られないように裏返してそのカードを場に出します。

他のプレイヤーも、その言葉を聞いて、自分の手札の中から一枚のカードを決め、そのカードを内容を見られないように場に出します。全員が出し終わったら、語り部が全部のカードを受け取って、順番が分からないように混ぜて、場に表にして並べます。並べられた順にカードは番号で呼ばれます。

そして、語り部以外のプレイヤーが、並べられたカードの中から語り部の出したカードがどれか投票して当てるわけです。これがこのゲームの中心です。票は裏にして目の前に置き、みんなが出し終わったら表にし明らかにして、その絵の上にのせます。もちろんこのとき自分自身が出したカードに投票することはできません。

単純に考えると、他のプレイヤーが語り部の言った言葉とかけ離れたイメージのカードを出せば、語り部のカードを当てやすくなってきます。語り部も分かりにくい言葉を言えばいいことになります。しかし、点数の付け方で、そう簡単にならないようになっています。

つまり、こうです。語り部のカードが当てられたとき、語り部自身と当てた人に3点入ります。これが語り部は当ててもらおう、そして残りのプレイヤーはそれを当てようとする動機付けになります。しかし条件があって、全員が当ててしまうと、語り部には点数が入ってきません。また誰も当ててくれなかったときも点数が入ってきません。そして、そういうときは逆に他のプレイヤー全員に2点入ってしまいます。そのため、語り部は難しくもなく、かといって易し過ぎもしない、ほどよく分かりやすい言葉を言わなければいけなくなります。語り部以外のプレイヤーも、それほど語り部の言葉と、かけ離れたカードを出さない方が有利となる配点になっています。自分のカードが語り部のカードと間違われたときは、自分のカードへの投票数がそのまま自分の点数になるからです。

そうやってカードを出し、投票をした後、語り部の答えを聞いて、点数ボードの各自のウサギを動かします。それから各自カードを6枚になるように1枚補充して、左隣に親を交代して、ターン終わりです。新しい語り部がこれを繰り返します。山札の最後の一枚が引かれたときに一番点数の多い人が勝者になります。

 

言葉だけで説明すると小難しく聞こえますが、配点のルールや理屈は実際に数ターンやってみるとすぐに覚えます。普通ゲームは勝つための戦略を考えるものですが、これは絵と、それを見た人の気持ちを考えることが中心になります。正直、人の感性は面白いと感じます。

小さい子だとストレートな言葉しか思いつかないかもしれないけれど、選ぶ言葉がシンプルなだけに他のカードにも共通する言葉になっていることも多く、意外に当てにくいです。分かりやすいときでもたいてい誰かが間違えてくれます。感性が人それぞれ違うことを利用したゲームなので、うまくできています。ゲームが終わっても、勝った負けたでギスギスすることはなく、みんなで楽しいひとときを過ごせたといういい印象が残ります。

そのあと、「ハゲタカのえじき」で気分転換をした後、以前から評判が良くて、みんな時間があれば是非やりたいと言っていた「カタンの開拓者」をしました。これもやっぱり必携の名作です。ちなみに10年前のカプコン版カタンです。でもこれは、高校生と小学生が同じテーブルで勝負すると、どうしても差が出てしまい、終わった後、これが一番好きなゲームだと言ってくれていた姪っ子がご機嫌斜めになってしまいました。

 

Dixit には続編があって、さらに84枚の絵を追加して遊べるDixit 2や、12人でも遊べるようにする Dixit Odyssey もあります。来年はこれを用意しておこうかな。

公式サイト:
http://www.libellud.com/en/games/presentation/dixit.html
ダウンロードページにはフランス語、英語、ドイツ語の公式ルール(箱に入っているのと同じもの)や印刷用の得点ボードの画像(折りたためるので旅行に便利)、そして壁紙があります。



2012年01月22日

バラの花

Jubile_du_Prince_de_Monaco

久しぶりに花の写真。殺風景な寒い空の下、一つだけ咲いています。



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2012年01月24日

《ヴィーナスの誕生》アフロディーテ讃歌の翻訳(1)

最近は古典ギリシア語の復習をしていました。中途半端なところを短期間で補うのはやっぱり無理でしたが、その過程で便利なプログラムができました。

Perseusの辞書は便利ですが、いちいち一つ一つの単語を調べるのも面倒なので、ダウンロードしたデータを使って、ギリシア語のテキストを与えると可能性のある単語の一覧を出力するスクリプトを書いてみました。これがあると翻訳の作業がかなり、はかどります。

今回、それを使ってホメーロス風讃歌にあるアフロディーテ讃歌2の翻訳をしてみます。これは直接もしくは間接的にボッティチェリの《ヴィーナスの誕生》の元になったとされる文章です。既に、沓掛良彦氏の『ホメーロスの諸神讃歌』に翻訳があるのですが、あえて自分で訳してみます。

ホメーロス風讃歌には、アフロディーテを謡ったものは三つあります。それぞれの詩の長さは並べられた順に293行、21行、6行で、海から上がるヴィーナスの描写があるのは二番目の長さのものです。もちろん今回訳すのはこれです。

Εἲς Ἀφροδίτην
αἰδοίην, χρυσοστέφανον, καλὴν Ἀφροδίτην
ᾁσομαι, ἣ πάσης Κύπρου κρήδεμνα λέλογχεν
εἰναλίης, ὅθι μιν Ζεφύρου μένος ὑγρὸν ἀέντος
ἤνεικεν κατὰ κῦμα πολυφλοίσβοιο θαλάσσης
ἀφρῷ ἔνι μαλακῷ: τὴν δὲ χρυσάμπυκες Ὧραι
δέξαντ᾽ ἀσπασίως, περὶ δ᾽ ἄμβροτα εἵματα ἕσσαν:
κρατὶ δ᾽ ἐπ᾽ ἀθανάτῳ στεφάνην εὔτυκτον ἔθηκαν
καλήν, χρυσείην: ἐν δὲ τρητοῖσι λοβοῖσιν
ἄνθεμ᾽ ὀρειχάλκου χρυσοῖό τε τιμήεντος:
δειρῇ δ᾽ ἀμφ᾽ ἁπαλῇ καὶ στήθεσιν ἀργυφέοισιν
ὅρμοισι χρυσέοισιν ἐκόσμεον, οἷσί περ αὐταὶ
Ὧραι κοσμείσθην χρυσάμπυκες, ὁππότ᾽ ἴοιεν
ἐς χορὸν ἱμερόεντα θεῶν καὶ δώματα πατρός.
αὐτὰρ ἐπειδὴ πάντα περὶ χροῒ κόσμον ἔθηκαν,
ἦγον ἐς ἀθανάτους: οἳ δ᾽ ἠσπάζοντο ἰδόντες
χερσί τ᾽ ἐδεξιόωντο καὶ ἠρήσαντο ἕκαστος
εἶναι κουριδίην ἄλοχον καὶ οἴκαδ᾽ ἄγεσθαι,
εἶδος θαυμάζοντες ἰοστεφάνου Κυθερείης.
χαῖρ᾽ ἑλικοβλέφαρε, γλυκυμείλιχε: δὸς δ᾽ ἐν ἀγῶνι
νίκην τῷδε φέρεσθαι, ἐμὴν δ᾽ ἔντυνον ἀοιδήν.
αὐτὰρ ἐγὼ καὶ σεῖο καὶ ἄλλης μνήσομ᾽ ἀοιδῆς.

これを先ほど紹介したスクリプトで処理すると次の内容が出てきます。

https://neu101.up.seesaa.net/etc/ToAphrodite2.pdf

たった21行についての情報ですが、16ページになります。一緒に書かれている単語の英訳は簡易的なものだと思った方がいいです。でも見出し語形が分かるので手元の辞書で調べ直すのも楽でしょう。リストの最後にある「unknown words」というのはデータベースに見つからなかった単語です。これはアクセント記号や気息記号が本来のものと向きが変わってしまっているだけのこともあります。

それでは、以後しばらくこの情報を使って、アフロディーテについての文章を翻訳していきます。



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2012年01月26日

《ヴィーナスの誕生》アフロディーテ讃歌の翻訳(2)

冒頭から細かく、調べていきましょう。

Εἲς Ἀφροδίτην

これはこの章のタイトルです。εἰς はここでは英語のinto、for、aboutなどの意味を持った前置詞で、後ろに対格をとります。確かに、後ろのἈφροδίτηνは対格の形をしています。これだけで「アフロディーテに」という意味になります。日本語訳では通常分かりやすく「アフロディーテ讃歌」と呼ばれています。

さて本文が始まります。

αἰδοίην, χρυσοστέφανον, καλὴν Ἀφροδίτην ᾁσομαι,

まず最初に形容詞が三つ連続します。どれも後ろのἈφροδίτηνと同じ対格をしていて、並列してこの語を修飾しているのが分かります。Ἀφροδίτηνが対格なのは、それがその後ろの動詞ᾁσομαιの目的語だからです。ᾁσομαιはἀείδωの一人称単数中動態直説法未来と考えます。意味は英語のpraiseで、「賞賛する、詩などで讃える」となり、讃歌の冒頭らしい言葉となります。この讃歌を謡う者本人が主語で、これからのことを表現しているため、時制が未来になっています。

では形容詞の意味を調べます。αἰδοῖοςは通常「尊敬すべき」という意味で訳されますが、この言葉にはもう一つの意味のグループとして「内気な、恥ずかしがり屋の」もあります。この意味を知ったとき、もしかするとこの文章もボッティチェリの絵に合わせた解釈ができるのではないかと思ったわけです。これは裸の彼女が手で体を隠している仕草を表している形容詞と言えるでしょう。

次の形容詞χρυσοστέφανοςは、二つの言葉χρυσός(黄金)とστέφανος(王冠、輪)の合成語です。通常はそのまま「黄金の冠をかぶった」と訳されます。しかし冠をかぶるという表現は、比喩的なものとして、頭の方を囲んでいるとか、飾っているという表現として考えることが可能です。つまりこの形容詞もこの絵に合わせて解釈すると「黄金で頭を囲んだ」つまり金髪の描写を表す言葉になります。

そして最後の、美しいという意味の形容詞καλόςですが、これはまさに魅力的な彼女自身の描写そのものとなります。

まとめると

「恥ずかしがり屋の、黄金の髪をした、美しいアフロディーテを讃えよう。」

という意味の文章になります。こうなるとボッティチェリの絵を表す文章の冒頭に相応しい始まりに思えます。

これから先の文章もこの絵の描写の元になる意味に解釈は可能なのでしょうか。

ἣ πάσης Κύπρου κρήδεμνα λέλογχεν εἰναλίης,

ἥはここでは、関係代名詞の主格女性単数となり、アフロディーテその人を表しています。これを主語とするこの節の動詞はλαγχάνωで、目的語はκρήδεμνονの対格となります。これにΚύπροςの属格がくっついて、残りは二つの形容詞πᾶςとἐνάλιοςのそれぞれの属格で、これらがΚύπροςを修飾しているという構造になります。

πᾶςとἐνάλιοςとΚύπροςの三つの単語で「完全に海に囲まれたキプロスの」となり、まとまってκρήδεμνονを修飾しています。この名詞はベールとか蓋とか胸壁とか、いろいろ意味があるのですがよく分かりません。仕方が無いので既存の訳を参考にして「城壁」、そしてそこに囲まれた町そのものを表しているとします。動詞λαγχάνωの意味もいろいろありますが、目的語が町となれば、「治める」がいいようです。

そうするとこの節全体は、「彼女は完全に海に囲まれたキプロスの城壁都市を治めている。」となります。従来の意味はこうなりますが、これを絵に合うように、うまく訳せないか考えてみます。

κρήδεμνονはイタリア語で意味を調べると、bastioneとなります。この説明をさらにイタリア語で調べると、土塁、土手、堤防の意味の言葉terrapienoが出てきます。土塁という言葉を知って、この言葉にぴったりなものが描かれていないかとボッティチェッリの絵を見てみると、アフロディーテとホーラの間にある海岸線の形に気がつきます。これは単に海岸線が入り組んでいるだけでなく、しっかりこんもりと盛り上がって描かれています。この描写は海に突き出した天然のbastioneを描いていると考えられます。

この海岸線に何かしているのは、アフロディーテではなく、ホーラの方です。本意ではないでしょうが、彼女はちょうどこの地形に対してローブを掛けるような仕草をしています。ここでまれな用法ですが、ἥを単なる指示代名詞とみなしてみます。アフロディーテではない女性名詞、つまりホーラがこの節の主語であると考えるわけです。

この行動に合うようなλαγχάνωの意味を調べてみると「守っている、保護している」という意味が見つかります。彼女がアフロディーテの体にローブを掛けようとしている姿は、それと同時に海辺のκρήδεμνονを守っている姿の描写となります。

この節をまとめると、

「彼女は海に接しているいくつもの土塁を保護しています。」

となります。地形をローブを掛けて保護するなんて変な訳ですが、でもまさにこの場面の描写としてはぴったりのものです。

冒頭の2行ちょっとを訳してみましたが、なんかいい感じで解釈できそうです。こんなふうにこの21行のアフロディーテ讃歌をボッティチェッリの絵に合った訳にできるかやってみます。

つづく



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2012年01月29日

《ヴィーナスの誕生》アフロディーテ讃歌の翻訳(3)

それでは再開です。見切り発車で書き始めた話題ですが、とりあえず内容の確認が終わりました。でもまとめるのがちょっと大変そうです。まだ一割しか公開してないのですが、このままギリシア語の文法や単語の意味を持ち出して、細かく説明を書いていくと、いつ終わるか分かりません。そこで方針を変更します。結論を書いてしまって、その理由をあとからゆっくり書いていきます。読む方も、役に立たない難しい文法の説明がダラダラ続くよりもその方が分かりやすいでしょう。

なお、遅くなりましたが、対象が性愛の女神アフロディーテなので、どうしても性的な表現が出てきます。避ける必要がある人は避けてください。

さて、この文章を元にボッティチェリが《ヴィーナスの誕生》を描いたのは確かなことだと分かりました。以前紹介したルキアノスの文章とともにこの絵の描写を作り上げています。

根拠となるのは、『アフロディーテ讃歌』から導き出せる次の事柄です。

・この絵で金色の描写が多用されているのは、この文章にχρυσός(黄金)やその合成語が多用されているから。
・ゼピュロスと一緒に飛んでいるのは有翼の勝利の女神ニケ。
・複数主格で記述されているホーラを文法的に与格単数とみなすことで一人にしている。
・曲がった白い波は精液(泡)を表している。
・アフロディーテの貝の下にある荒波が、アフロディーテを運んだ泡として描かれている。
・ゼピュロスとニケが息を出している描写は歌の喩えでもある。
・赤いローブには酔仙翁(Silene coronaria)が描かれている。
・赤いローブは金とオリハルコンで刺繍がされている。
・ホーラの服にはスミレ色の王冠が描かれている。
・ガマの穂と解釈できる言葉がある。
・アフロディーテの髪を束ねている白銀色の髪飾りについての記述がある。

以後投稿では、素直に読んでも出てこない、これらの事柄をどうやって『アフロディーテ讃歌』から導き出したのかを詳しく説明していきます。それにしても、いままでいろいろ考えてきましたがゼピュロスの隣の女神がニケだとは思いもよりませんでした。



posted by takayan at 04:07 | Comment(0) | TrackBack(0) | ヴィーナスの誕生 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする