今回は第17行から第20行までです。
Denique per maria: ac monteis: fluviosque rapaces:
Frondiferasque domos avium: camposque virenteis
Omnibus incutiens blandum per pectora amorem
Efficis: ut cupide generatim secla propagent.
denique per maria: ac monteis: fluviosque rapaces:
frondiferasque domos avium: camposque virenteis
ここは2行まとめて解釈します。まず各単語について。deniqueは副詞「ついに、その後は、結局、さらに」。perは対格支配の前置詞「を通って、を越えて、を横切って」。mariaは中性名詞mare「海」の複数主格/呼格/対格、もしくは形容詞marius「男性の」の女性単数主格/呼格/奪格か中性複数主格/呼格/対格。acは接続詞atque「そして」。monteisは男性名詞mons「山」の複数主格/呼格/対格。rapacesは形容詞rapax「略奪的な、貪欲な、抗しがたい、狂暴な」の男性/女性複数主格/呼格/対格。frondiferasは形容詞frondifer「葉の茂った」の女性複数対格。domosは女性名詞domus「家」の複数対格。aviumは中性名詞avium「鳥」の単数主格/呼格/対格か複数属格。camposは男性名詞campus「平原、地面」の複数対格。virenteisは動詞vireo「緑色をしている、青々としている」の現在分詞単数属格。
ここは前の文を受けてウェヌスが導く場所を一つ一つあげています。deniqueは「さらに」と訳します。per mariaは海を越えて現れることを示しています。acは同様にの意味の接続詞で、そのあとにperの対象となるものを並べています。つまりperが省略されているとして、「山々を越えて」とあります。次は-queで併記されているfluvios rapacesです。意味は「略奪していく川」となります。次の行も同様に、frondiferas domos aviがperの対象になります。中心にあるのは名詞のdomosで、それに形容詞のfrondiderと名詞の属格aviusがて修飾しています。この意味は「葉の茂った鳥の家を越えて」となり、森のことを言っているとされています。次はcampos virenteisで、分詞virenteisがcamposを修飾しています。意味は「緑色をした草原を越えて」となります。全部をまとめると、「さらに、いくつもの海を越え、山を越え、略奪していく川を越え、葉のしげった鳥の住処を越え、緑なす草原を越えて」となります。
では次は絵に合わせます。perは英語のthroughの意味で「〜を貫いて」とします。この絵に描かれている山や川や草原は槍を抱えているサテュロスたちの向こう側に描かれています。それらが槍のようにサテュロスたちの体を貫いて描かれていると表現できるからです。さらにマルスの右膝もちゃんと山と川と草原の手前に描かれています。そこでmariaを形容詞marius「男性の」の変化形だと考えて、それを名詞化して「男性たち(の体)」とすると、denique per mariaは、「さらに男たちを貫いて」となります。その後に男たちの後ろに描かれているものの羅列になります。解釈の方針をこのようにします。
文法的につじつまが合うように考えて、denique per maria ac monteisを一つの句と考えます。そしてacを、少し後ろ過ぎますが、前の行との接続詞とします。monteis を感嘆の対格とし、monteis per mariaを一つの意味のまとまりとします。そうすると、この部分の意味は「男たちを貫く山々よ!」となります。
同様に考えて、次のfluvios rapaces per mariaを解釈します。先日解釈して分かったことですが、草原として描かれている下半分は川です。しかしこの川を形容する言葉としてrapaxは合っていません。他の意味を辞書で調べてもどうも合いません。そこでfluviosが他の意味に解釈できないかを考えます。するとイタリア語でcorrenteという訳が気に掛かります。通常は「流れ」という意味がありますが、これには別に「水平梁」という意味もあります。rapaxの意味をtravolgente「抗しがたい」とすると、これは「抗しがたい梁」となります。この言葉ですぐに思いつくのが、サテュロスたちの持っている槍です。サテュロスたちに水平に持たれている様子が梁のようであり、クピドの武器である点で抗しがたい存在でもあります。この槍はそれぞれのサテュロスたちの体の一部分の下を通っています。マルスの膝は残念ながら槍には届いていません。かわりに槍の先端がマルスの頭の後ろに届いている可能性があります。したがって、「男たちを貫く抗しがたい梁よ!」となります。
次は、frondiferas domos aviumです。frondiferas domosはそのまま「葉の茂った住処」という意味で使えます。この絵には二組の家族が描かれています。マルスたちがくつろいでいるこの茂みに囲まれたこの場所と、木の中に作られている蜂の巣が、この言葉で表現されている住処と考えます。残るaviumですが、この絵には鳥が描かれていないので、ちょっとひねる必要があります。aviumは形容詞avius「辺鄙な」の男性/中性複数属格か男性単数対格、中性単数主格/呼格/対格とも解釈できます。ただし属格として使わないと、他の単語とは組み合わせられないので、複数になります。まず一つ目は形容詞aviusを名詞化した「辺鄙な土地」でいいでしょう。遠景の山の麓に町並みらしいものが描かれているので、ここは辺鄙な場所だと言えます。次に名詞avisの意味はイタリア語でuccello「鳥」ですが、この絵には鳥はいません。イタリア語かラテン語で蜂を鳥と呼ぶ用法があれば、いいのですが手元の辞書にはありませんでした。代わりにuccelloには「陰茎」という意味があります。陰茎の描写は先ほど左側の茂みの中で見つけたので、これが使えます。茂みの枝は、それぞれの男の体を貫くような描写になっているので、これもper mariaになっています。したがって「男たちの体を貫く辺鄙で陰茎のある葉の茂った複数の住処よ!」となります。
そしてcampos virenteisです。これは全部そのまま使って良さそうです。緑色は層状に描かれているので、それは先日川の描写と解釈したところですが、それを複数と見なすことができます。これも四人の男たちそれぞれの後ろに描かれています。意味は「男たちを貫く緑色の草原よ!」です。全部まとめると次のようになります。
そしてさらに男たちを貫く山々よ!抗しがたい梁よ!辺鄙で陰茎のある葉の茂った複数の住処よ!緑色の草原よ!
and finally mountains through the men! and irresistible beams! and leafy houses of penis and of remote! and green plains!
omnibus incutiens blandum per pectora amorem efficis: ut cupide generatim secla propagent.
これは複文なので二行まとめて解釈します。omnibusは男性/女性名詞omnes「すべての人々」の複数与格/奪格。incutiensは動詞incutio「打つ、吹き込む」の現在分詞単数主格/呼格か中性対格。blandumの形容詞blandus「こびへつらう、魅力的な」の中性単数主格/呼格/対格か男性単数対格もしくは副詞「魅力的に」。前置詞perは英語through、during、byなどに相当。pectoraは中性名詞pectus「胸、心臓、心」の複数主格/呼格/対格。amoremは男性名詞amor「愛」の単数対格。efficisは動詞efficio「生み出す、引き起こす」の二人称単数現在。utは接続詞、ここでは接続法propagentを伴い目的を表す副詞節を導いています。cupideは形容詞cupidus「望んでいる」の男性/中性単数呼格、もしくは副詞cupide「熱心に、不公平に」。generatimは副詞「種類によって、一般に」。seclaは中性名詞seculum「世代、種族」の複数主格/呼格/対格。propagentは動詞propago「増殖する、成長させる、延長する」の接続法三人称複数現在。
まず主文の方から。omnibusは与格で間接目的語とします。意味は「すべてのものに」となります。形容詞blandumは男性単数対格で、名詞amoremを修飾しています。合わせた意味は「魅力的な愛を」です。per pectoraは現在分詞incutiensを修飾する語句で、合わせると「心を通して吹き込んでいる」となります。ここまでで、「すべてのものに魅力的な愛を心を通して吹き込んでいる」となります。これが動詞efficio「引き起こす」の目的語になります。utから後が目的を表す副詞節になっています。cupide、generatimは副詞、名詞seclaは中性複数対格となり、意味は「彼らが熱心に種族によって世代を増やすために」です。副詞節の主語はウェヌスによって愛を与えられているすべての者たちです。まとめると、「あなた(ウェヌス)はすべてのものたちに魅力的な愛を心を通して吹き込むことを引き起こす。彼らが熱心に種族毎に世代を増やすために。」になります。
今度は絵に合わせて考えます。まず、amor「愛」はクピドの別名でもあるので、その意味で解釈できないか、これをとっかかりに解釈を始めます。動詞efficisは二人称なので、主語は今まで通りマルスとします。動詞inctioのイタリア語の意味の中には槍lanceaに由来するlanciareがあります。これから現在分詞incutiensを「槍で攻撃する者」と解釈します。こうすると、incutiens amorem efficisは「あなた(マルス)はアモル(クピド)を槍で攻撃する者にしている。」とできます。以前から槍を持って兜を被っている子どもをクピドとしていましたが、ここに文章としてその事実が明らかにされました。残りの単語は次のようになります。omnibusはここでは奪格として、ここにいるすべての人物像を表し、「みんなのところで」という意味とします。形容詞blandum「魅力的な」はincutiensを修飾して、美しい装飾の兜を身につけている様子を表しているとします。per pectoraはincutiensを修飾していて、「胸を貫いて」とします。主文をまとめると、「あなた(マルス)はみんなのところでアモル(クピド)を複数の胸を貫いて槍で攻撃する魅力的な者としています。」となります。
次は後半の副詞節の解釈です。seclaの意味には「種族、家族」があります。これは並んでいるサテュロスという種族のものたちのことを表しているとし、格は主格とします。そして動詞propagoの意味は「延長する」とします。そうすると、secla propagentは「同族の者たちが延長している」と解釈できます。そうするとこれは右端のサテュロスが槍の先端付近に法螺貝をくっつけているようにみえる描写を表していると解釈できます。右側のサテュロスだけだと主語は複数になりませんが、左側のサテュロスがまず槍を持たなくては始まりませんし、中央のサテュロスが前の見えない左端のサテュロスの補佐をして、両手で右端の口元の方向に向けていなくては成り立ちません。さらにマルスも自分の頭を使って、槍を延長していると見ることもできます。seclaを同族ではなく、家族と考えればこの解釈も成り立ちます。副詞cupideの意味にはcon parzialita「不公平に、不完全に」があります。これが法螺貝、マルスの頭による奇妙な延長を表しているとします。また蜂の巣に届いていない点でも不完全な描写です。次に副詞generatimの意味です。これをper specie「複数の種類によって」と解釈すると、槍と法螺貝と頭という違う種類を組み合わせていることを表せます。副詞節をまとめると、「家族の者たちが不完全に複数の種類によって延長するために」となります。
最後にマルスがクピドを槍で攻撃する者とした根拠を考えてみます。そういう命令をマルスが意識が朦朧とする前にクピドに行った可能性もありますが、それよりもはっきりしているのはクピドがマルスの武具である兜と槍をを身につけていることです。つまり武具を使うことを許しているマルスのせいで、クピドは槍を持ち攻撃する者になったわけで、その意味でマルスがクピドを槍で攻撃するものにしていると言うことができるでしょう。まとめると次のようになります。
家族のものたちが不完全に複数の種類によって延長するために、あなた(マルス)はみんなのところでアモル(クピド)を複数の胸を貫いて槍で攻撃する魅力的な者にしています。
you (Mars) make Amor (Cupid) the charming spearman through the hearts at the everybody so that the family men extend it partially by kinds.
マルスが何故膝を立てているのかの理由も見つかりました。これはマルスの体の後ろに山と草原を描き、彼の体を貫かせ、他の男性の描写と合わせて、per mariaという語句の表現をこの絵の中に描き込むためです。また槍の先端に重ねるように法螺貝を配置していることにも意味がありました。これは動詞propagentの表現となります。しかし、今回解釈した部分で一番大きいのは、槍で攻撃している者がクピドだと解釈できる語句incutiens amorem efficisが見つかったことです。