protinus accedunt Charites, nectuntque coronas何か分かるのではないかと、自分でこの2行を訳してみることにした。素人の訳なので間違っている可能性も高いが、既に完成された日本語訳も英語訳もあるので、とても楽な翻訳でもあるけれど。
sertaque caelestes implicitura comas.
protinus が「すぐに」という副詞。accedunt が「加わる」という意味の動詞の能動態直説法現在の三人称複数。次の Charites というのが三美神カリスたちのことで、これが主語。ちゃんと主語と動詞の数が一致している。ここまでで、「すぐに三美神が加わる。」の意味となる。nectuntque というのは、動詞 nectunt に、接続詞 -que がくっついているもので、ラテン語では -que がくっついてる言葉がその前に接続していることを示す。nectunt は「編む」という意味で、さっきの動詞と同じ能動態直説法現在の三人称複数。目的語として、次の 名詞 coronas をとる。これは太陽のコロナの語源となる言葉で、王冠、花環、リースといった意味がある。活用は複数対格。対格というのは英語における直接目的語。ここまでで、「すぐに三美神が加わって、花冠を編む。」という意味になる。次に sertaque 。これにも 接続辞 -que がある。serta も、リースや、花環といった意味の名詞。この接続の仕方に小一時間悩んだ。前の-queと対になっているんじゃないだろうか、でもそれだと、品詞が違うもの同士で対になる。そんなことなんてあるのだろうか。単純に考えて、名詞 coronas と並列であるとし、これも nectunt の目的語だと考える。serta の語尾は対格の可能性もあるので、辻褄が合う。この場合 serta は、中性名詞 sertum の複数対格と見なす。原文二行目の単語の関係が分かりにくいので、このまま単語だけを調べていく。次の caelestes は「神々しい、神々の」という意味の形容詞か「神」という名詞。この語尾は複数で、主格か呼格か対格か。implicitura は「包む、一緒にする」という意味の動詞の能動態未来分詞。格はこれもいくつかの可能性がある。最後の単語 comas は、この単語だけで考えるといろんな可能性があるけど、文脈から可能性が一番高いのは、女性名詞「coma 髪」の複数対格。二行目のそれぞれの単語の意味が分かったので、単語の関連を考えていく。implicitura は格を対格と考えて問題ないが、性数は女性単数の場合と、中性複数の場合がある。それを踏まえて周りの名詞を見比べると、中性複数の serta を修飾し、女性複数の comas を目的語に取るのがわかる。残った caelestes はどうなるか。この格は対格と見なせるが、性は中性にも女性にも解釈できる。だから、中性名詞「sertum 冠」も女性名詞「coma 髪」も修飾できる。ここでは距離の近い前者にしてみる。coronas と serta のニュアンスの違いが分からないが、全体は「すぐに三美神が加わって冠を編む。髪に結いつける神々の花冠を編む。」となる。
訳しながら思いついた。corona という単語のイメージ。この冠を編む行動は、『プリマヴェーラ』では三美神のダンスが表しているんじゃないだろうか。つまり、花冠のダンス。三人が手をつないで輪になって踊っている様子で、花を編んでいることを比喩的に表しているのではないか。座り込んで実際に花を編む姿を描くよりも、いつものように踊っている三美神の姿のままでも表現できる。前回の解釈だと、季節女神ホラの記述が絵の描写を十分に表していた。でも、もう一方の三美神の記述は絵での描写を何も表していなかった。けれど、彼女たちが手をつないで輪を作っている姿そのものがこの文章を描写していると考えるとうまくいくように思う。
話は変わるけど、三美神の説明として、ヴィーナスの従者だということがよく書かれている。その根拠が分からなかった。で、探してみるとすぐに、英語版の三美神の記事の中にホメロスがそう書いてあるとあった。実際、イーリアスとオデュッセイアの英訳の中を検索してみたら、the Graces という三美神の英語名のそばに Venus と書かれている箇所がいくつかあって、ちゃんと従者らしい行動をしていた。通常、三美神は、フローラにではなくヴィーナスに結びつけられている。ホメロスの作品にそう書いてあるならば、それは一般的な常識としてはそうなるだろう。
関連資料:
The Iliad by Homer - Project Gutenberg
The Odyssey by Homer - Project Gutenberg