2009年10月16日

「チンパンジー、見返りなくても仲間手助け」

前回のヒトの進化について扱った投稿の後、似たような話題のナショナルジオグラフィックの番組「人間とチンパンジー:DNA2%の相違」というのを見て、そうか類人猿は見返りのない協力はしないのかと思っていたのだが、その二日後にこのニュースをやっていた。チンパンジーにも利他行動があるのか。NHKの夜のニュースでも時間を割いて報道していた。新聞でも取り上げていた。興味ある分野だし、画期的かもしれないけれど、そこまで大きく扱わなくてもいいのにとも思ったけれど。

新聞はネットで読み比べてみたが読売新聞の記事が良く書かれていて、分かりやすかった。
以下その記事の引用
チンパンジー、見返りなくても仲間手助け…京大チーム解明
 チンパンジーも相手の気持ちが理解できる? チンパンジーが、見返りがなくても仲間が要求すれば手助けをすることを、田中正之・京都大野生動物研究センター准教授と山本真也・東京大研究員らが初めて明らかにした。人間が、互いに助け合う現在の社会を作り上げる過程の解明につながりそうだ。米科学誌プロスワン(電子版)に発表する。

 山本研究員らはチンパンジーにステッキを使ってジュースの入った容器を引き寄せたり、ストローを使ってジュースを飲んだりする訓練を、京大霊長類研究所で実施。2頭のチンパンジーを透明なアクリル板で仕切った隣同士の部屋に入れ、ジュースの容器を片方は手の届かない所に、他方は壁に固定し、ステッキやストローがないと飲めない状態にして、それぞれに逆の道具を与えた。

 母子、大人の雌同士の計6ペアについてそれぞれ、1週間で24回実験した結果、全体の59%で四角い穴から道具の受け渡しがあり、そのうち、相手の要求で渡したケースが75%でみられた。自発的に渡したり、奪ったりしたのは少なかった。片方だけに道具を与えた場合でも、相手が要求すれば道具を渡すことが多かった。

 東京大総合文化研究科の長谷川寿一教授(動物心理学)の話「チンパンジーは、他者の気持ちがわからないとされていた。しかし、お願いされれば断れないことから、ある種の共感や同情、思いやりといった感情のベースとなるものを備えていることが明らかになった」
チンパンジー、見返りなくても仲間手助け…京大チーム解明 : 科学 ピックアップ : 経済 科学 : 関西発 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)

(2009年10月14日 読売新聞)

この記事を読んで、制限時間はあったのだろうか、チンパンジーには順位があるのに考慮していないのは問題があるんじゃないのかと思って、プロスワンを調べてみたら、ちゃんと論文の方には書いてあった。

論文(英語)へのリンク:PLoS ONE: Chimpanzees Help Each Other upon Request

Table1でDとSと書いてあるのが、それがそれぞれ上位と下位のこと。数字だけ見ても明らかに差が出ている。ペンデーサとプチの間では従属関係があるのにほとんどやり取りが無いが、下位のマリは上位の二匹の要求には対して従順に従っているようにみえる。上位の者が下位の者に与えるときは稀にしかないが、それは自発的な場合に限られている。逆に見ると上位の者へは怖くて要求やましてや奪取なんてできないよということだろう。この3者は血縁関係がない組み合わせだけど、母子という血縁関係がある場合はほぼ対等にやり取りが成立している。自発的な行動はやっぱり稀だけど、意外に子供が自発的に親に渡すことのほうがその逆より多くなっている。


いろいろ疑問に思うこともある。ストローが必要な時とステッキが必要な時とでの違いはどれくらいあったのだろうか。自分には役に立たないステッキを外から取るきっかけは遠くに見えるジュースと関係があるのか、単にいつもご褒美と関係があるステッキが手の届くところにあるから手に取ってみただけなのか。檻が透明なので自分が渡したことで相手にだけ利を与えてしまうことが分かるので、その経験が増えると行動は変化したのだろうか。もしジュースが相手から見えないところにあって、ステッキを渡すことが何の役に立つかが理解できない状況ではどうなるのだろうか。そうなると自発的にステッキを渡すことはないだろうが、手を差し出されたから機械的に渡してしまうということはないのだろうか。相手がリクエストしてきた場合の成功率は8割もあるので、状況とは切り離して手を欲しそうにステッキに伸ばしてきたから機械的に渡してしまったということはないのだろうか。つまりリクエストする側のジュースはリクエストを起こすための単なるきっかけでしかないと考えることもできるのではないだろうか。8割の成功率があるのは、単に要求をしたから応えてくれたではなく、相手が要求に応えてくれるという確信が社会的な順位や信頼により既にあるから実行していると考えられるのではないか。上位者の下位者への奉仕は、心理的に余裕のある上位者の方が他人のことを思いやれるからだろうか。一つ一つの実験の順序関係も知りたい。上位者の奉仕は、前回の相手の行動の返礼という意味合いはチンパンジーでは考えられないのだろうか。そういう間接的な上位の者の返礼が社会的な信頼につながったり群れのルール作りに作用するということはチンパンジーにはないのだろうか。ピント外れかもしれないけれどそんなことを考えた。

実験に出てくるチンパンジーは京都大学霊長類研究所の次のページで紹介されている。
チンパンジーたちの今日このごろ

この分野も興味深い。今後も注意して見ていこう。

タグ:





posted by takayan at 19:56 | Comment(0) | TrackBack(0) | サイエンス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。