2009年10月18日

昆虫の翅の起源

進化にはいろいろな解明されていない謎があるが、その一つに昆虫の翅(はね)の起源がある。
それについて、今どんなことが分かっているのか調べてみた。

生命誌研究館の1999年に書かれた次の特集は、発生のメカニズムや翅の形づくり仕組みなど興味深いが、起源そのものについては書いていなかった。生命誌の他の論文もとても面白いのだけど、今回の目的とはちょっと違う。
Special Story:「翅」が語る生命誌-BRH - JT生命誌研究館

次の東城幸治氏の記事も1999年のものだがとても興味深いものだった。まず顎や触角が脚を起源としていることを胚の電子顕微鏡写真を使って示している。そして、古生物学的な翅の気管鰓起源説を踏まえて、原始的なカゲロウ類を用いてこの説の検証ができるかもしれないという可能性を述べている。
自然科学のとびら5巻3号―生命の星・地球博物館

そして、気管鰓をキーワードに次の町田龍一郎氏が書かれた二つのページを見つけた。
翅の獲得に至ったシナリオ(PDF)
筑波大学生物学類 未来の科学者養成講座 このページの2番目の質問への回答

前者は、シナリオという名前通り、翅を獲得するまでのシナリオが、1ページちょっとの文章の中に難しい用語を羅列しぎっしり描かれている。分かりやすいのが、後者。とはいっても、ちょっと難しい。これは未来の生物学者を目指す小中学生向けに書かれた文章なのだが、前提とする子供たちのレベルをかなり高く設定してあるようだ。それでも前の文章に比べれば十分分かりやすく書かれている。見てすぐわかる図や写真も添えられている。

勝手に分かりやすい言葉に置き換えたりして内容をまとめるとこんな感じになるだろう。
昆虫の種類がどのように分かれていったのかを調べていくと、翅を持っている昆虫(有翅昆虫)の祖先はカゲロウに近い姿をしていたのではないかと考えられる。カゲロウは幼虫の時期、水の中ですごす。この幼虫は、空気を取り込むために、各体節の両側に葉っぱのような形の鰓をもっている。これは気管鰓と呼ばれる。この気管鰓の根元には筋肉がついていて動かすこともできる。現在のカゲロウの仲間にはこの鰓で水を掻いて泳いでいる種類もいる。石炭紀の地層から出てきたカゲロウの祖先の化石には胸の部分の鰓が発達したものも見つかっている。このことから、翅をもつ前の昆虫の祖先はこの鰓を大きく発達させ、水の中を飛ぶように泳いでいたのではないだろうか。最初はそのように水の中を泳ぐために発達させてきた大きな鰓だったが、成虫になったとき水上に出てきて、その鰓を使って飛ぶようになったものが現れたのではないだろうか。これが昆虫の翅の鰓起源説と呼ばれる考えだ。昆虫の翅には翅脈と呼ばれる筋が走っている。これは昆虫の鰓の中を走っている気管という筋と同じものだ。このことからも鰓起源説は正しいのではないかとされている。

またこの文章では、側背板起源説も紹介されているが、これだと途中段階のまだ役に立たない翅がかえって邪魔になり生存を不利にさせたのではないかと指摘される。この点、鰓起源説は進化の途中にある翅を持っていても邪魔にはならず、かえって元々泳ぎに使っているので生存を有利にし、さらにその発達を促進させたことが説明できる。

昆虫の翅の起源はこの説で確定しているわけではないようだけど、かなり合理的なものだと言える。


ここから先は資料に書いていないことなので推測なのだけど、最初の頃の飛翔は十分な揚力を生み出せるほど強力なものではなかっただろう。自然に吹く風の力を利用して、より広範囲に広がることができれば充分だったろう。まだ空を飛ぶ捕食者はどこにもいないので、そんなのんびりした飛翔だろうと何も問題ない。遠く離れたところでペアになり、より多くの場所で子孫を残せれば、それだけ種全体の生存率が高くなる。運が良ければ、まだ捕食者が進出していない川や沼地にたどりつくこともできただろう。こうして有翅昆虫の祖先は爆発的に地上に広がって行く。やがてトンボのような高度な飛行能力を持ち、成虫になってからも餌を食べエネルギーを補給できる種が現れる。またセミのように幼年期の水中生活を捨てた種や、そしてその中からハチやチョウのように完全変態を行い、蛹の中で立派な翅を作り上げる種まで現れる。このようにして有翅昆虫は現在も地球上を飛び回り大繁栄をしている。

この昆虫の進化という分野もとても面白いと思う。もちろんこの分野も遺伝子の研究が中心なので、施設を持った専門家たちにしかその謎は解けない。探せば論文もいろいろあるのだけど、その最新の成果を一般人が読めるくらい分かりやすく書いたものがとても少ないのは残念だ。せめて英語のWikipediaの記事を翻訳してくれる専門分野の人たちはいないだろうか。


posted by takayan at 11:55 | Comment(0) | TrackBack(0) | サイエンス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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