2011年02月21日

Googleブックスを使って《プリマヴェーラ》のことを調べてみた(2)

前回、《春の寓意》、つまり《Allegoria della Primavera》やその訳語の名前が、1853年に、この絵がアカデミー美術館に移されたあたりから出版物の中に現れるようになったのがわかりました。電子化された本という限定付きですが。

今回は、それ以前には何と呼ばれていたのかを調べてみます。

1850年以前でもこの作品のことを示した記述はいくつか見つけられます。調べてみると、英語で書かれた画家の人名辞典のようなものいくつか出てきますが、そこでは固有名詞ではなく説明的な呼び方で紹介されています。必ず《ウェヌスの誕生》と対で語られています。

1849 Michael Bryan
"His principal works at Florence were a Venus Anadyomene, and Venus attired by the Graces;”

1810 John Lempriere
”His Venus rising from the sea, and his Venus adorned by the Graces were much admired.”

1805 Matthew Pilkington, Johann Heinrich Fussli
”a Venus rising from the sea, and also a Venus adorned by the Graces;”

どれもヴァザーリの書いた画家列伝の記述が元になっているのが分かります。あまりに簡潔すぎて、本物を見ていなくても書けるものです。この変遷は当時の人々が使っていた呼び名を反映しているのかもしれませんが。

検索された中には本物を知っていそうな記述がされた本も出てきます。

Reale Galleria di Firenze
これは、フィレンツェで1817年に出版されたフィレンツェの美術館や芸術家のことを詳しく説明してある本です。たくさんのイラストも含まれています。イタリア語の本です。その154ページには、次のようなボッティチェリの作品に対する記述があります。

Ha la Galleria di Firenze più di un saggio dell'abilità di Sandro nelle rappresentazioni poetiche; come la Venere Anadiomène , e la Venere con le Grazie, due quadri di figure quanto il vero,

作品の説明は簡潔で、上記の辞書のものとあまり変わりありませんが、Galleria di Firenze (ウフィッツ美術館) に本物があると書いてあります。ウフィッツ美術館が編纂している本ですから、書いている人は展示されている名前を知っている可能性がありますし、かなりの可能性で実際見ているでしょう。それなのに、そういう固有名を使わないのですから、この頃はわざわざ本に書くような決まった名前がなかったのでしょう。憶測でしかありませんが。

また、次のような記述の本もあります。

Galerie impériale et royale de Florence
これは1844年に出版されたウフィッツ美術館が編纂した本です。次の引用は、この中にあるボッティチェリについての解説です。

Alexandre Botticelli, qui a imité le vieux Lippi', né à Florence en 1437 mort en 1515. Le tableau, dont les figures sont de grandeur naturelle, représente la Naissance de Vénus. La Déesse sort d'une coquille au milieu de la mer. A' gauche sont figurés deux Vents qui volent sur les ondes et poussent la Déesse vers le rivage ; à droite est une jeune personne sous le symbole du Printems.

この文章は、一見するとヴァザーリの書いた二つの作品を説明する文章のフランス語による要約かと思います。特に最後の文だけ見るとそう思えてしまいます、しかし、実際は、《ウェヌスの誕生》だけを説明する文章です。ヴァザーリの二つの作品を説明する文章を踏まえながら、ヴァザーリの文章よりも的確に一つの作品を説明する表現になっています。右にいるホーラが春を表しているのは内容的には間違っていないでしょう。これを書いた人は本物を見てからこれを書いているのが分かります。貴重な記録です。

1850年以前には、《ウェヌスの誕生》に関しては、それなりに注目されており、形式化された名前に分類されたり、このような貴重な例外もあったりしましたが、《プリマヴェーラ》に関してはヴァザーリの作品に関する説明文を元にした、あまり代わり映えのしない説明的な表現ばかりでした。

追記:
最後の引用はどこかで見た内容だなと思ったら、ヴァールブルクの書いた《ウェヌスの誕生》の論文の最初の方に出てくる、ウフィツィ美術館のイタリア語のカタログからの引用部分と同じでした。このカタログは1881年のものです。

La nascita di Venere. La Dea sta uscendo da una conchiglia nel mezzo del mare. A sinistra sono figurati due Venti che volando sulle onde spingono la Dea presso la riva; destra e una giovane che rappresenta la Primavera.

見比べてみると、完全に同じ内容です。



posted by takayan at 03:50 | Comment(0) | TrackBack(0) | プリマヴェーラ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック