要約を書くと、こうなります。《La Primavara》に登場する神々で、Maiaマイア、Cupidoクピド、Mercuriusメルクリウスの三神以外の、Zephyrusゼピュロス、Floraフローラ、Horaホーラ、Charites三美神(Pulchritudoプルクリトゥード、Amorアモル、Voluptasウォルプタス)の六神はすべて、オウィディウスの『祭暦』の5月2日に描かれるフローラの結婚の物語に登場しています。そして、赤い色で区別された残りの三神は、三美神がそれぞれ何者であるかを指し示すための役割を担っています。つまり、マイアが女神自身の手のひらでプルクリトゥードを、クピドが炎の矢でアモルを、メルクリウスが刀の入った鞘でウォルプタスを指し示しています。
(英語WikipediaでのPrimaveraの画像に、三美神と周囲の神々の関係や、出典である『祭暦』第5巻の該当するラテン語の文章を書き込んでみました。クリックすると画像が拡大します。)
この解答には新プラトン主義や、メディチ家の複雑な人間関係も必要ありません。そういう理論や人間関係がこの絵の解釈に必要になったのは、中心をウェヌスとしてしまったためにこの絵の物語の出典を見つけられなくなったせいです。出典がわかり、すべての神々を説明できるならば、それら難解なものを持ち出す必要はありません。またそのような難解な理論を使っても、これほど的確にそれぞれの役割や描写の根拠を示せる解釈はないでしょう。解釈の材料も19世紀末のヴァールブルクの頃に知られていたものばかりですし、なんら特別な事実も必要ありません。この解釈で改めて分かったことは、Botticelli が神々の特徴をいかに誠実に描き込もうとしたのかということです。ここまで丁寧に描き込んでいたのに、ヴァザーリの誤謬のために、再発見されて200年近く、真相が分かるまでこんなに時間がかかってしまいました。
この結論に至るまでの試行錯誤は、カテゴリー:プリマヴェーラ を開くと書いてあります。ただし、整理されていないので読みにくいです。
追記(2011/04/13)
三美神の描写の元になっている文章についての記事を「《プリマヴェーラ》における三美神の典拠について」に書きました。