地味な映画。ナチスの台頭の中、幼い頃別れた父を捜すユダヤ人女性の物語。英仏合作。クリスティーナ・リッチ、ジョニー・デップ、ケイト・ブランシェット出演。
国籍や民族によって翻弄される人々。同時に自らが何者であるかを背負うが故に必然的にその生き方を選びながら生きる人々。
ジョニー・デップは、ジプシーの青年役。舞台で馬を操る係。主人公のスージーは彼に対し迫害される異邦人という境遇に共感を覚えやがて恋仲になる。馬でねぐらに帰る彼の後を、彼女が自転車でびゅんびゅん追いかけるシーンは、彼女の抑えがたい感情を率直に描写していて、なかなかいい。
ケイト・ブランシェットは、スージーの先輩の踊り子。スージーの才能を認め、二人で部屋を借り共同生活をする。豊かな生活を得んがため、女であることを利用して生きる。自分がそんな生き方をするのも、スージーの才能を世に認めさせるためだと自分に言い聞かせようとしている。その献身は真実でもあるが、自分の生き方の都合のいいいいわけでもある。彼女の最後のシーンでは、とても悲しい姿で泳いでいる。顔は見えないのに、プールの水が全て彼女の涙であるかのような悲しい風景で終わる。
全般的に解説のない簡潔な演出ですすんでいく。父譲りの歌の才能を現し、いじめられるだけだった女の子が周りに認められ、自立した女性になっていく様子が、わずかなカットで表されている。ナチによるパリ陥落などは、ザックザックという軍靴の響きだけだったりする。ヨーロッパの人々にとっては、もうそれだけで理解できることかもしれないけれど、予備知識のない日本人にはそれがなんなのか分かるだろうか。ユダヤ人や、ジプシーの背景も、もちろんイタリアとドイツの関係とか予備知識があった方がいい。大家のおばさんがどこに連れて行かれるのかも。
知らなくても、なんとなく分かるようにできているのが映画だけどね。
最後はしんみりと終わる。映画館ならばいい余韻をあじわえただろうなという感じで。