寺島由次役の仲代達矢がいい。のんびりと田植えをしたり、遠い昔に別れた息子のことで身もだえしたり、事件に際しては新聞記者としての魂は今も健在という表情をみせたり、この由次という人はとても複雑な役なのだけどちゃんとそれを一人の人間の中におさめている。このドラマは「男たちの大和」での戦艦大和の生き残りの役以上に、仲代達矢の近年の代表作になったのではないかと思う。
佐藤江梨子は、実のところ期待していなかったんだけど、これもいい。若くて無鉄砲で常識を知らなくて、そういうのがとてもよく出ててた。決してけなしてるわけじゃない。いまの若い女優で、代わりが思いつかない。うまいと感じさせてしまったら役柄としての未熟さ感じられないし、きれいで人気があっても演技ができない棒読み女優では駄目だし、なかなかいい配役だったと思う。体当たりで演じてるって感じがいい。上手くもなく、ドラマを台無しにしてしまうほど下手でもなく。決してバカにしてるわけではない。そう言えば小池栄子も義経ではよかった。
ドラマは、由次という元新聞記者であり、ある過去を背負った男の物語である。根底にあるのは、「翼ある船は」から来ている物語なのだろう。ときどき「翼ある船は...」と詩を唱える。サトエリ演じる姉の孫マリエが持ち込んでくる事件につきあってなんかいられないくらいなのだけど、この若い新聞記者の成長を願い、しっかりと導こうとしている。
マリエが持ち込む事件は、「人間交差点」から来ている物語だろう。いわゆる人情話。泣かせる話。でも分かっていても泣けてしまう。人の想いというのが心を揺さぶり伝わってくる。
マリエが事件を取材し行き詰まる。由次の昔書いた記事を読む。由次とともに由次の記事の関係者のその後を取材する。さらに新たな事実を知る。そして現在の事件の本質をついた記事を書く。二話はこんな展開。おそらく第三話は違うだろう。
第一話は「引退記者のファイル」。血のつながらない母親と子どもの話。拾った子猫を飼うように無責任に若い女性が迷子の少女と一緒に暮らしていた。このことで怒りを感じるマリエに、自分が発表できなかった連載記事「人間交差点」のある記事を見せる。
第二話は「赤ひげの歳月」。若い大学の医師が地方の病院にとばされたことを恨んで、贈収賄があったとその院長を訴える。実はその医者は由次が昔取材した情熱ある青年医師だった。
この話では、昔の白い巨塔で里見先生を演じた山本學が嫌な医学部の教授役で出てくる。絶対この配役狙ってるんですよね。
三回だけというのは何かもったいない感じもするが。この二話は、老人と若者の世代を超えた交流、老人の過去の話は今の若者にとっての現実味のないただの物語ではなく現在にしっかりとつながっているんだという最終回を向かえるための意味のある、別の物語からの挿入なのだと思う。このドラマはNHKのドラマとしても、久しぶりの名作になったと思う。さて今夜最終回どうなるのか。
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