語り「待ちに待った演奏会まで二週間になりました。」
マルセイユの前。演奏会のポスターが貼ってある。通りがかった客がポスターに気をとめる。そこにすかさずマスター・ヒロ、中にチラシもありますよ。場所は変わって、とある食堂の前。達彦もお願いしますと、食堂の店員にチラシを渡している。
山長ではある異変が進行していた。職人頭の仙吉が荷物を担ごうとして、ひっくり返ってしまう。野木山が助けおこす。寄る年波にはかてんなと仙吉。野木山と顔を見合わせて笑う。そこに職人がやってきて、蔵で嫌なにおいがする。カビが生えているじゃないかと知らせに来る。
店の玄関。味噌が一桶腐っているんだってと桜子。大将、女将さん、申し訳ございませんでしたと仙吉が頭を下げる。この蔵を任されてはじめてのこと、責任とって辞めさせてもらおうと思います。そんなこと言わないでくれと達彦。しかし仙吉は、しばらく前から考えとったことですと言う。野木山も他人事ではない真剣な顔で仙吉の申し出を聞いている。昭和15年を最後に本物の八丁味噌を造っていない。戦争を挟んで、人の好みは変わってしまった。若いものに道をゆずる時期が来たと仙吉。桜子は悲しい顔で聞いている。
夜。桜子と達彦。達彦にお茶を出しながら、桜子が話を切り出す。ここのところ八丁味噌作れてないが、みんな忘れているわけがない。戦争が終わって急にきれいな着物を着て歩く女の人たちが増えた。そんなふうにみんな無いから我慢しているだけで、みんな忘れていないのではないか。そうなれば仙吉さんも辞めたいとは言わんのではないか。名古屋からも本物の味噌を求めに来た人もいた。名古屋の料亭はどうだろうかと桜子が提案する。達彦も需要を探ってもいいだろうと話に乗る。演奏会が近いので達彦は止めようとするが、桜子も地元を回ってみると言い出す。
とある料亭。女将と桜子が話をしている。八丁味噌が今あるんですかと女将が聞く。桜子はまだ無いという。何年先になるかもわからんことを、直にできるわけないでしょうと乗り気ではない女将。それでも桜子は、ここは百年も続く老舗、食通のお客さんならば本物の味を覚えているはず、こちらを優先的に売らせていただきますから、女将に予約の表にお名前を。そうすれば大豆の配給も増やしてもらえるかもしれません、お願いしますと言うと、女将署名をしてくれる。ありがとうございますと桜子。
外を歩く桜子、蝉の声、空にはまぶしい太陽が輝く。
山長の帳場。料理屋さんの予約の書面だといい達彦が仙吉に見せている。仙吉さんに店におってもらいたいと達彦が説得する。そこに桜子がただいまと店に戻ってくる。帳場にあがると、そのまま桜子も私ももらってきたと書面を並べる。私からもお願いしますと桜子。仙吉がこれもらうの何軒の店回られましたと二人にきく。わしのようなもののために。ここまでしてもらって心苦しいです。わしは幸せもんです。そういう仙吉に対して、考え直してくれるかと達彦。仙吉が答える。二人を見ていて、安心しました。自分が気をもまんでもお二人なら八丁味噌を復活させてくれると。そして未練、出てきましたと。そのときまで山長でお二人のそばで一緒に見届けたいですと仙吉。そうしてくれと達彦。はいと仙吉、頭を下げる。桜子はほほえみ達彦とうれしそうに顔を見合う。
よかったと話しながら二人部屋にやってくる。すると突然桜子よろめいてしまう。大丈夫かと達彦。このところ井ぞがしく、暑い中歩いて日にあたりすぎたからと桜子。達彦が両方やるのは無理じゃないかと言うと、桜子は自分はこの店に嫁に来た身だからと店は手伝わないといけない言う。今回のことでつくづく思ったと。しばらくはピアノ頑張るが、その後は店をちゃんと手伝うと桜子。先のことは考えなくていい、音楽だけを集中しろと達彦。
ピアノの部屋。桜子がピアノの練習をしている。達彦が西園寺先生から電話だと知らせに来る。桜子電話に向かう。帳場に来て座って電話に出ると、西園寺先生は演奏会当日きてくれることを伝えてくれた。桜子ますます頑張らないとねと練習に向かうために桜子が立とうとする。しかし立てずに倒れ込む。達彦が支える。大丈夫か。
病院の廊下。達彦が座って心配そうに待っている。看護婦が出てきて、家族のかたですか。達彦が心配そうに返事する。すると看護婦は「おめでたですよ。三ヶ月に入ったところですよ」。驚きながらも、ありがとうございますと達彦。診察室のドアを開けると桜子が横になっている。体大丈夫か。看護婦にきいたんだけど。ほほえみながらうなづく桜子。桜子の手を握りしめながら、よかった、ほんとによかったと達彦。桜子と、達彦は最高の喜びをかみしめていた。
つづく
(昼の再放送も見たら、いつも以上に嘘書いてた。今日は五分前に起きて寝ぼけてた。)