桜子に冬吾たちの展覧会に行く許可がやっと出た。おなかもかなり大きくなっている桜子がベッドに腰掛けて外出を待っている。病院の廊下。車いすを運んでいく医者と達彦がいる。達彦に対して。前にも言っておいたが、これが最後かもしれんよ。ゆっくりと羽を伸ばしてきなさいと先生。
展覧会会場。桜子は車いすを押してもらいながら、マロニエ荘の仲間に囲まれて一つ一つ絵を鑑賞する。和之の絵の前。和之さんらしい明るくて元気な絵。ヤスジの絵。アメリカ兵の靴磨きをする少年の絵。筆を折ろうかと思っていたが、諦めずに書いていくことにしたとヤスジ。八重の絵。焼け野が原に一輪の花が咲いている絵。どんなに売れなくなっても、こういう絵を書き続けたいと八重。桜子見てごらんと達彦がある方向を指す。冬吾の絵。絵の前に移動する。この絵の前には人が集まる、この絵の中のあんたは輝いとるもんねと笛子。冬吾が会場に現れる。みんなが冬吾が来たことに驚いているのを見て、冬吾さん何かあったのと達彦。桜子はわかってるという顔で冬吾を見ている。笛子が冬吾が死にかけた時のことを説明する。真っ暗の川を泳いで、笛子と子どもたちの顔が浮かんできたというおかしな体験を冬吾が話す。とぼけた話をする冬吾に横っ飛びで体当たりをくらわす笛子。病み上がりをどつくなと冬吾。みんなに笑いが起きる。よかったねお姉ちゃん、冬吾さん。桜子、目に涙をためて、なんだかうれしくなっちゃって、みんなを見ていてもっと元気になれるような気がしてきた。頑張ってくださいと声がかかる。
昭和23年3月。桜子の病室。桜子はベッドに横になっている。いよいよ出産だねと医者。前にも言っといたが赤ちゃんは出産後別室で様子を見ることになる。抱いたりはできないと先生。先のことはこっちに任せて、安心して元気な子を産むことだ。医者は部屋を出ると今までの柔らかな表情から急に固い表情に変えた。
病室に一人桜子。五線紙ではなく、ノートに何か書いている。とても優しい表情。開けている窓から桜の花びらが入ってくる。
桜子の出産の日がやってきた。手術室に運ばれる途中の桜子を、達彦と笛子と杏子が囲んでいる。俺がついとるからと達彦。桜子大丈夫と笛子。そんなに心配しんで、産むのはあたしなんだからと桜子。そこに東京から磯が駆け付ける。桜ちゃんの赤ちゃんが生まれてくるところを真っ先に見たいからと。安産のお守りを桜子に持ってきた。それを枕の下に入れる。ありがとうおばさんと桜子。がんばって。
手術室の前。赤いランプがついている。赤ちゃんは帝王切開で取り出されることになっていた。みんなは心配しながら待っている。磯は自分に言い聞かせるように大丈夫大丈夫とみんなに言っている。
達彦がさっきまで桜子が寝ていた誰もいない病室にやってくる。ベッドの上には表紙に何も書かれていない一冊のノートが置いてあった。最初のページを開くと、桜子が考えていた子どもにつける名前がいくつも並んでいた。その後のページに、「まだ見ぬあなたへ」とタイトルがあり、お母さんの人生をあなたに知っておいてもらいたいとこのノートを書いた動機が書いてあって、そのあと桜子の人生について何ページも書かれていた。達彦は涙ぐみながらをそれを読んでいった。ノートだけでなく、楽譜もあった。「まだ見ぬ子へ」、「輝ける日々」....。そこに杏子が病室にやってきた。達彦が言う。あいつこんなこと書きためとったんです。見てください。曲もこんなに作って。何もかも覚悟しとったんです。こんなにして毎日刻みつけるようにして。
手術室の前。ランプが消える。みんながあっと叫ぶ。ドアが開き、目を閉じている桜子が出てくる。達彦が大丈夫か桜子と心配そうに声をかける。眠っているだけですよと看護婦。ほうだわねとみんなほっとする。桜子が看護婦に運ばれるのを見送った後、赤ちゃんはと笛子。すると、手術室から赤ちゃんを抱えて看護婦が出てくる。男のお子さんですよ。達彦が赤ん坊を抱く。いい子だ。お父さんだよと達彦。よく頑張ったねと笛子。よく産まれてきたと杏子。元気そうな赤ちゃん、桜ちゃんよく頑張ったねと磯。桜ちゃん目が覚めたら見せにいかんとね。すると、それはできんのですと達彦。子どもは抵抗力が弱いから。桜子は承知しております。
桜子が寝ている病室。達彦がやってきて、おめでとうと言うと、桜子が目を開ける。よく頑張ったなと達彦。赤ちゃんは?と桜子。元気だよ。男ん子だ。可愛い顔しとった?髪の毛は生えとった?結構ちゃんとしとるよ。達彦さんに似とったでしょう、見なくてもわかるんだと微笑みながら桜子。名前輝一にしようと達彦。輝くに数字の一。いいね輝一、きいっちゃんとやさしく名前を呼ぶ桜子。
有森家の部屋で笛子が輝一の面倒をみている。冬吾は輝一をモデルにスケッチをしている。輝一は有森家に引き取られ、笛子は冬吾とともに岡崎に残った。
闘病中の桜子の様子。達彦の献身的な看病にもかかわらず、出産後の病状は一進一退を繰り返していた。
有森家のピアノの部屋。達彦がピアノの前にいる。その後ろに笛子が輝一を抱いて座っている。お母さんがお前のために作った曲だと達彦。弾き始めると、その曲はこのドラマのテーマ曲。
その音楽の流れる中。病室で幸せな顔をして眠っている桜子。ナレーション「桜子は幸せな夢を見ていました。わが子をわが胸にかき抱く夢を」。
つづく。