2012年02月19日

《ヴィーナスとマルス》 もう一つの典拠(3)

これからは、新しい解釈だけをしていきます。

nam tu sola potes tranquilla pace iuvare mortalis,

まず、この文にあるpaceの見出し語形はpaxですが、その意味を調べると、peace(平和)の意味だけでなく、concord、harmony(調和)の意味もあることが分かります。最初に見つけた典拠だけを用いた解釈では、右下で這っている蛇のような子どもが、晩年の姿から、マルスとヴィーナスの娘ハルモニア(Ἁρμονια)であるとしましたが、ἁρμονίαの英語での意味がまさにconcord、harmonyであることから、paxという言葉は女神ハルモニアを指し示せることになります。

namは接続詞です。ここでは「実のところ」とします。tu potes mortalisがひとまとまりになっているとし、potesは通常は、英語でcanに相当するpossumの二人称単数現在ですが、ここではpoto(飲む、酔っ払う)の接続法二人称単数現在と考えます。mortalisは形容詞で主格単数で、主語を修飾しているとします。つまり「死人のようなあなたは酔っ払っているのでしょう。」となります。接続法なのでこの場合可能性を示しているとします。

そしてsola tranquilla pace が一つにまとまっていると考えます。形容詞sola(一人)は奪格単数女性、形容詞tranquilla(静かに)も奪格単数女性とみなし、女性名詞paceの奪格を修飾しています。そしてこのまとまりで動作が行われている場所を表しているとします。これは、まさに他の三人の子どもたちとは隔離されて一人だけいるハルモニアの記述になります。絵では彼女は鎧の中に閉じ込められています。この理由ですが、彼女も三人の男の子たちと一緒で、その本性はやんちゃなのでしょう。それを鎧に閉じ込めることでtranquiioな状態にしている描写だと考えられます。

iuvareが残りますが、これはiuvo(支える、喜ばせる)の不定法現在で、これの処理が難しいです。今回は絵で左手で棒が倒れないようにしている様子だと考えます。ハルモニアが何かの実を押さえている仕草そのものも「支えている」と言えなくもないですが、paceの格では動作の主体を示すのことができないので、mortalisを修飾する形で、マルスの行為とします。

このように考えると、この行は全体で次のようになるでしょう。

実のところ、一人大人しくしているハルモニアのところで、(棒を)支えながら死人のようにしているあなたは酔っ払っているようです。

次の行は、本来とは違うところで区切ります。本来はregitの後ですが、これをgremiumの直後まで延します。

quoniam belli fera moenera Mavors armipotens regit in gremium,

接続詞quoniamは通常は理由を示すものですが、まれな使い方の「〜したあとに」という意味で訳します。

belliは本来は「戦争」を意味する中性名詞bellumの属格単数として解釈するのですが、ここでは「花、特にヒナギク」を意味する女性名詞bellisの奪格単数とします。そのあとの形容詞ferus(野蛮な、野生の)はこのbellisを修飾している単数女性奪格と考えてます。

次のmoeneraは中性名詞moenus(munus)の複数対格とします。これは義務や機能などの意味なのですが、これを前回出てきたように、技巧的に別な意味にします。つまり、イタリア語訳の一つであるprodottoのさらに別の解釈「伸びた、長い」とします。マルスの持っている長いものは、腰の布と、左手の先にある棒の二つです。ちゃんと複数です。

Mavors armipotensは本来の解釈と変えていません。ここは男性主格単数の名詞と形容詞で「勇敢なマルスが」という主語になります。regitは動詞regoの三人称単数現在で、いろいろな意味がありますが、ここではイタリア語訳のfissare(取り付ける)の意味で解釈します。つまり、ここまでの意味は、「勇敢なマルスが長いものを野生のヒナギクの所から取り付けている。」となります。

この絵をよく見ると、長いもの一つであるマルスが腰に掛けている布の端に、キク科の葉を持つ植物が描かれています。つまり「belli fera(野生のヒナギクから)」の描写となります。

bellis

この布の行き先ですが、この記述は最後にあるin gremiumにあります。gremiumは中性名詞gremiumの対格単数で、inの補語が対格になるので、inは方向を示します。gremiumの意味は「膝、胸、内部」などですが、この場合単に膝と考えます。この布の行き先を見るとマルスの右腕で隠れていますが、ちょうど右端のサテュロスの膝があるところへと向かっています。

gremium

長いものは複数です。もう一つについても説明できなくてはいけません。

棒はまっすぐに布の始まり付近に付けられて立っています。このくらいの距離ならばヒナギクの所と呼んでもいいでしょう。次にその上部がどこにあるかです。この棒の上部はマルスの左手の中指で支えられています。近くを見回しても誰の膝もありません。代わりにこの後ろには深淵が描かれています。マルスの体の下にある鎧があって、その上にバラ色の敷布が掛けられていますが、その布と鎧の隙間があるところにこの棒の上端があります。

harmonia

この棒は一見、完全な垂直となっているように見えますが、実はマルスの体の方に斜めに傾いています。どうして、このような分かりにくい描き方になっているのでしょう。おそらく、明確な矩形領域を描くことによって、強制的にハルモニアを大人しくさせていることを示すためではないかと思われます。

二番目の文をまとめると次のようになります。

それに先立って、勇敢なるマルスは野生のヒナギクのところからgremium(膝、入り込んだ所)へ伸びた(二つの)長いものを固定しています。

つづく





posted by takayan at 17:39 | Comment(0) | TrackBack(0) | ヴィーナスとマルス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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