2006年10月12日

コスモスの由来

先日秋桜の写真を撮った後、葉月さんのコメントもあって、コスモスの由来を探してみた。だけど日本語のページは出典がよく分からない情報ばかりなので、ネットで深く調べてみた。そしてやっと最終的に、『Icones et descriptiones plantarum 』という書物に行き着いた。
コスモスはメキシコで採取され海を渡り、スペインのマドリッド王立植物園で栽培され、そしてこの文書が作られた1791年に命名されたということが、この文書から分かる。

この文書はバレンシア大学でPDF化されていて、オンラインで閲覧することができる。おそらくOCRを使ってテキスト化もしてあるが、ときどき文字の誤認識が見つかる。
Cavanilles_Icones_1_Media.pdf ... 全六巻の最初の一巻目


(2012.06.11 リンク切れになっていたので、リンクを打ち消し、google books からの引用を追加。画像をクリックすると、google booksで他の部分も読めます。)

『Icones et descriptiones plantarum 』(Madrid, 1791-1801)はコスモスだけを研究した書物ではない。メキシコやフィリピンなどの新スペイン(ヌエバ・エスパニョーラ)から運ばれた多くの植物についての解説と植物画が掲載されている書物である。番号を数えると712の植物と、600の植物画が記載されている。かなりの大著である。ここではコスモスは大量の植物の中のただの二つの植物に過ぎない。

この書物を書いたのは、マドリッド王立植物園の アントニオ・ホセ・カバニエスAntonio Jose Cavanilles(1745-1804)である。書物のタイトルにある『IOSEPHI』はJoseのラテン語つづり。
Antonio José de Cavanilles - Wikipedia(es)
Antonio Jose Cavanilles (1745-1804) - Madri+d (スペイン語) 注意 エンコードをヨーロッパの言語にすること。

以後、スペイン語のページのだいたいの内容を知りたいときは次のページ翻訳をどうぞ。「Spanish to English」で。
Babel Fish Translation - AltaVista

この『マドリッド王立植物園』は現在も続いており、公式サイトもある。
Real Jardin Botanico de Madrid - 公式(スペイン語)
※ このサイト内の『Jardinero Virtual』で、コスモスについての情報があるか調べたが見つけられなかった。10月の植物にあるダリアについては詳しく書いてあるのに。

(参考)スペイン語Wikipediaによるマドリッド王立植物園の解説。左メニューの「Otros idiomas」で短いが英語版も読める。
Real Jardin Botanico de Madrid

『Icones et descriptiones plantarum 』での植物の命名は、植物学者リンネの命名法を踏襲してある。つまりラテン語を使った二名法である。

コスモスについては次のように命名されている。
● コスモス     cosmos bipinnatus
● キバナコスモス  cosmos sulphureus

この『Icones et descriptiones plantarum 』でコスモスが記述されている場所はというと、第一巻のPDF文書で、p.12([10])に『cosmos bipinnatus』(=コスモス)、同様にp.58([56])に『cosmos sulphureus』(=キバナコスモス)の記述がある。はっきりと両者とも生息地はメキシコだとラテン語で書いてある(Habitat in Mexico.)。ただしメキシコという地名の範囲は18世紀末と現在とは違っている可能性がある。またここから植物画の番号が分かり、p.88にtab.14『cosmos bipinnatus』(=コスモス)、p.153にtab.79『cosmos sulphureus』(=キバナコスモス)の絵がある。残念ながら、この画像は濃淡が無い白か黒かの二階調画像である。下記のリンクにあるとても小さいが階調のある画像で見ると、本来はもっと美しい植物画だとわかる。

花葉23号(2004) - 花葉会
※ これは『花葉会』が発行する雑誌『花葉』のPDF版である。この文書のp.26(雑誌『花葉』のページ上ではp.24)。ここに園芸研究家 岩佐吉純氏が連載していた植物関係の古書を解説した『園芸古書の解説U』があり、画像付きで『Icones et descriptiones plantarum』が取り上げられている。


(2012.06.11 google books よりcosmos bipinnatusの画像を引用)


名前の由来を考えてみる。上記のcosmosはラテン語だが、これはギリシャ語κοσμος由来の言葉である。このcosmosという単語には多くの派生した意味があるため、そのうちのどの意味を込めてつけられたのかは、この資料からは特定できない。『秩序』、『調和』、『美』、『世界』、『宇宙』など。

種小名の bipinnatus は『二回羽状の』、sulphureusは『硫黄のような』を意味する。後者のキバナコスモスのsulphureusはすぐに花の色からだと分かるが、bipinnatusはわかりにくい。cosmos bipinnatusのラテン語による解説を読むと、花についてではなく、細い葉の形が二度分岐している形状からの言葉(植物学の用語)だと分かる。キバナコスモスの解説でも『二回羽状』という用語の記述がある。

ふと思ったが、コスモスという言葉は、花の美しさではなく、この細い葉の整然とした姿に着眼して『cosmos=秩序』なのかもしれない。ただ花の解説の部分には、大きく美しい(magni, speciosi)という表現もちゃんと使っているので(つまり著者も美しいと感じていたわけだから)、そこから一般的な解釈である『cosmos=美』を導けなくもない。でもこの葉や枝の付き方説も意外にいいかもしれない。cosmosの原義に近いというのもいい。

(参考)葉の形に関する資料 次のページの8章に『二回羽状』の図が載っている。
植物の形態に関する解説 - 青葉山植物ガイドブック


『Icones et descriptiones plantarum 』には、メキシコから植物の種を送った人物の名前も書いてある。詳しい辞書がなかったのでラテン語の意味を詳しく訳しきれなかったが、単語だけ見ると、二ページ目に下の方に、『新スペイン nova Hispania』、『植物 plantarum』、『種 semina』、『マドリッド王立植物園 Hortus Regius Matritensis』という単語が出てくる。新スペイン側の人物として、Vincentius Cervantes(Vicente Cervantes)、Iosephus Longinos(Jose Longinos Martinez)、Iosepho Antonio Alzate(Jose Antonio Alzate)の三人の名前も書かれている。
※ 2006年10月16日0:30追記「コスモスの由来2」にこの部分の訳を書きました。

このメキシコ側の人物の一人『ビンセンテ・セルバンテス』を調べるには以下のリンク。
このページの中にちゃんと残りの二人の名前も出てくる。上記のラテン語人名の横の括弧の中の名前はここを参考にして書いた。
Vicente Cervantes - Wikipedia(es)

この記事の中に書かれている『Real Expedicion Botanica a la Nueva Espana』という探検はマドリッド王立植物園サイトの次のページにも出てくる。読んでいくと、当時の雰囲気がなんとなく伝わってくる。
Expedicion al Virreinato de Nueva Espana - 王立植物園(スペイン語)


今回は、メキシコからスペインに渡った部分について調べたことをまとめてみた。日本に渡ってきてからについてのまとめは、また後日。
※ 2006年10月16日0:30追記「コスモスの由来2」に書きました。



posted by takayan at 21:06 | Comment(6) | TrackBack(0) | コスモス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
わぁ.すごい!詳しく調べられたのですね。cosmosという名前の由来が、花そのものからではなく、もしかして葉や枝の形からきているのかもしれない…なんて、思いも巡りませんでした。そうなのかもしれませんね。それにしても、マドリッド王立植物園というところに行ってみたくなりました♪
Posted by 葉月 at 2006年10月14日 00:11
きっかけを与えてもらってありがとうございます。
名前の由来はこの書物からは分からないというのが結論なんだけど、面白い考えが浮かんだんで書いてみました。
スペインは行ってみたい国です。
Posted by takayan at 2006年10月15日 01:39
はじめまして、突然お邪魔します。
コスモスの名前の由来、イマイチ「cosmos=美」というのがしっくりこなかったんですが(もちろん美しいですが)、こちらの説、かなり説得力があると感じました。(^^
興味深いお話、ありがとうございます。
Posted by 大空を自由に舞う小鳥 at 2010年10月26日 19:15
大空を自由に舞う小鳥さん、コメントありがとうございます。
僕以外にもコスモスという言葉の意味に疑問を持った人がいたのですね。とてもうれしいです。
ただ、この新大陸の植物カタログにある草花を眺めた主観的な印象でしかないので、根拠としては薄いのが自分でも残念です。
Posted by takayan at 2010年10月27日 02:08
こにちは♪
常々、不思議に思ってて、他の皆様と同じく、
調べてみなかったんですが、(何となく
ですが、頭状花からと思ってたんで)葉の形
由来説、すごいピッタリだと思いました。
筒状花の一つ一つが集まってるところと、葉っぱ
の形状が、一つの植物の中にあるという・・・

このような記事を書いて下さって有難う。感謝
調べてみてよかったです。^^

Posted by あなぐま at 2012年06月06日 13:54
あなぐまさん、コメントありがとうございます。
これを書いてから、かなり時間が経っていますが、残念ながら、この説は進展していません。ただ、このときラテン語でいろいろ調べたことが、よい経験になりました。懐かしい記事を思い出させてくれて、ありがとうございました。
Posted by takayan at 2012年06月11日 02:23
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック
×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。