Windows 8 の Consumer Preview 版が公開されました。操作法が一新されるらしいという Windows 8 は、視覚障害者の方々にとって使いやすくなるのかとても興味があったので、実際に触れて試してみました。あらかじめ言っておきますが、ここに書いた情報は、視覚障害者のかたが単独で使うには、まだ不十分だと思います。とりあえず、現在触ってみて確かめられたものが書いてあります。
配布している場所は、Windows 8 Consumer Preview です。今回は実機ではなく、VirtualBox に入れてみました。試したのは32ビット版と64ビット版の両方です。
◆ Haruka 確認!
Windows 8 の Consumer Preview には、最初から Haruka Desktop という名前の合成音声が入っていました。何の追加インストールも無しに日本語音声で喋ってくれます。これは画期的なことです。実際に製品版ではどうなっているかわかりませんが、これは大いに期待できます。
Windows 8 にも Windows 7 と同様なコントロールパネルがあり、そしてやはり同じように、音声合成のプロパティがあって、音声合成タブがあります。そこを開くと選択できる音声として「Microsoft Haruka Desktop – Japanese」とあります。
以前作った aozoraVoice は Windows 8 でもどうやら動くようですが、これでも Haruka Desktop は音声として選択可能でした。aozoraVoice は Microsoft Speech Platform と SAPI5 両方の音声を利用できるようにしてあるので、念のためスクリプトをいじって確認してみると、ちゃんと、"Speech.SpVoice"ではなく、"SAPI.SpVoice"の音声として Haruka Desktop がありました。つまり、Haruka Desktop は SAPI5 の音声でした。
それから、Microsoft Speech Platform の Haruka も Windows 8 CPでも動きました。今までのWindowsと同じ方法でインストールできます。聞き比べてみるとすぐに分かりますが、同じ声でした。
◆ 新しいナレーター
Windows には以前から ナレーターという簡易的なスクリーンリーダーが入っていました。しかし、いままでは標準で日本語音声が入っていなかったため、誰でも簡単に利用できる状況ではありませんでした。今回のWindows 8 Consumer Preview には Haruka Desktop が入っているので、即このナレーターを利用できます。さらに、ナレーターそのものもかなりの機能拡張が行われています。
・ナレーターの起動
ナレーターの起動はとても簡単です。Windowsキーを押しながら、エンターです。これでHarukaが喋り出します。なお、Windows 7 で起動させようとすると、 Windows + U のあと、ALT + N とする必要がありました。今回もこの方法は使えます。
・コマンドの実行
ナレーターは画面上の情報を読みあげてくれるのですが、どこを読むのか、どう読むのかは、利用者がキーの組み合わせで指示をします。これをコマンドと言います。Windows 8 CP では、基本的にコマンドはWindows キーとALTキーを同時に押しながら、文字キーという組み合わせになっています。たとえば、Windows+ALTを押しながら左右矢印キーで、項目を移動します。その項目に決められた動作を実行するには、Windows+ALTを押しながらスペースキーです。
Windows+ALTを押さえたままで操作するのも面倒なので、コマンドが連続するときは、ナレーターキーをロックして、文字キーだけで操作する方法も用意されています。このナレーターキーをロックするコマンドは、Windows+ALTとZキーです。この状態にしておくと、たとえば、左右の矢印だけで、項目を移動できるようになります。このナレーターキーのロックを解除するには、同じコマンド、つまりZキーを押します。
ナレーターには数多くのコマンドが用意されています。ナレーターの設定ウィンドウにあるコマンドのリストを書き出すと次のようになります。60もあって覚えるのが大変ですが、最初の20ぐらい覚えておけばいいでしょう。注意することは、空白がアクションの実行で、エンターが検索だということです。
読み上げを停止する | Ctrl |
1次的なアクションを実行する | Windows+Alt+空白 |
次の項目に移動する | Windows+Alt+→ |
前の項目に移動する | Windows+Alt+← |
含まれる領域に移動する | Windows+Alt+↑ |
含まれる領域の最初の項目に移動する | Windows+Alt+↓ |
コマンドの一覧を表示する | Windows+Alt+F1 |
現在の項目のコマンドを表示する | Windows+Alt+F2 |
検索モードを切り替える | Windows+Alt+Enter |
読み上げを開始する | Windows+Alt+円記号 |
ナレーターを終了する | Windows+Alt+Esc |
ナレーターキーをロックする | Windows+Alt+Z |
キーをアプリケーションに渡す | Windows+Alt+X |
キーボード操作のアナウンスを切り替える | Windows+Alt+F12 |
フレーズを繰り返す | Windows+Alt+V |
音声の音量を上げる | Windows+Alt+PageUp |
音声の音量を下げる | Windows+Alt+PageDown |
音声のスピードを速くする | Windows+Alt++ |
音声のスピードを遅くする | Windows+Alt+- |
項目を読み上げる | Windows+Alt+D |
Read item advanced | Windows+Alt+F |
Read item spelled out | Windows+Alt+S |
ウィンドウを読み上げる | Windows+Alt+W |
含まれる領域のすべての項目を読み上げる | Windows+Alt+R |
マウスモードを切り替える | Windows+Alt+NumLock |
タッチモードを切り替える | Windows+Alt+F11 |
ナビゲーションモードを切り替える | Windows+Alt+A |
含まれる領域の最後の項目に移動する | Windows+Alt+Q |
ナレーターカーソルをシステムカーソルに移動する | Windows+Alt+G |
ナレーターカーソルをポインターに移動する | Windows+Alt+T |
フォーカスを項目に設定する | Windows+Alt+~(チルダ) |
1項目に戻る | Windows+Alt+BackSpace |
リンク先項目にジャンプする | Windows+Alt+Insert |
現在の行ヘッダーを読み上げる | Windows+Alt+F10 |
現在の列ヘッダーを読み上げる | Windows+Alt+F9 |
現在の行を読み上げる | Windows+Alt+F8 |
現在の列を読み上げる | Windows+Alt+F7 |
ナレーターが存在する行と列を読み上げる | Windows+Alt+F5 |
先頭からカーソルまでテキストを読み上げる | Windows+Alt+] |
テキスト属性を読み上げる | Windows+Alt+0 |
ドキュメントを読み上げる | Windows+Alt+H |
現在のページを読み上げる | Windows+Alt+U |
次のページを読み上げる | Windows+Alt+J |
前のページを読み上げる | Windows+Alt+N |
現在の段落を読み上げる | Windows+Alt+I |
次の段落を読み上げる | Windows+Alt+K |
前の段落を読み上げる | Windows+Alt+M |
現在の行を読み上げる | Windows+Alt+O |
次の行を読み上げる | Windows+Alt+L |
前の行を読み上げる | Windows+Alt+, |
現在の単語を読み上げる | Windows+Alt+P |
次の単語を読み上げる | Windows+Alt+; |
前の単語を読み上げる | Windows+Alt+. |
現在の文字を読み上げる | Windows+Alt+[ |
次の文字を読み上げる | Windows+Alt+' |
前の文字を読み上げる | Windows+Alt+/ |
テキストの先頭に移動する | Windows+Alt+Y |
テキストの末尾に移動する | Windows+Alt+B |
ドキュメントの読み上げ中に巻き戻す | Windows+Alt+Home |
ドキュメントの読み上げ中に高速で早送りする | Windows+Alt+End |
これらのコマンドのキーの組み合わせ(キーボードショートカット)は、ナレーターの設定ウィンドウから変更することができます。他のソフトとキーボードショートカットが競合するときは、これで回避します。文字キーは必ず修飾キー(WindowsやCtrlキーなど)と組み合わせる必要がありますが、ファンクションキーとテンキーは単独でも指定可能です。
◆ Metro UI
ログインすると最初に現れる画面、タイル状のボタンでシンプルにデザインされたユーザーインターフェイスは、Metro UIと呼ばれています。
画面上には、単色で塗られた正方形とその倍の幅の長方形のタイルが、グループごとに並んでいます。タイルの色は何種類かありますが、タイルに描かれているアイコンや文字などの情報はどれも白です。画像が描かれたタイルもありますが、基本はとてもシンプルなデザインです。
この四角のボタンをマウスでクリック、タッチパネルなら指で触れることで、そのボタンに結び付けられているアクションを実行します。では音声ガイドを聞きながら、キーボードだけで操作するにはどうすればいいのでしょうか。
上下左右の矢印キーを動かすと、この四角いボタンを上下左右に動いて選択してくれます。しかし、この四角いボタンの形は、正方形と長方形の二種類あるので、長方形の下に正方形が横に二つ並んでいる場合などは右側の存在に気付かずに移動してしまう可能性があります。
そのため、このボタンを選ぶときは、ナレーターコマンドのWindows+Alt+左右矢印キーで移動させます。この方法で動かすと、スタート画面のボタンを一つずつ進んでいきます。右矢印を押すと、右にボタンがある場合にはそれに、もう右に何もないときは、下の段の左のボタンに、下のボタンがなければ、次の行の一番上に移動します。とにかく、Windows+Alt+左右矢印キーですべてのボタンをたどることができます。そうやって、一つ一つのボタンを移動していきます。
ボタンの数が多くなると、左上から離れているボタンにたどり着くのに、かなりの打鍵数が必要になってしまいます。この場合は、ボタンのグループを作っておき、分類しておくと便利になります。しかし残念ながら、キーの操作だけで新しいグループを作ったり、タイルを移動する方法がわかりません。
◆ 新しいショートカットキー
ナレーター以外のWindows 8 Consumer Preview のWindowsを使った新しいショートカット キーは以下の通りです。この表は「[Win8CP] Windows 8 Consumer Preview のショートカット キーの機能」で公開されているものを加工して貼り付けました。Windows+というのは、Windowsキーを押しながらという意味で使っています。Windows+Enterは既に紹介しましたが、特に覚えておいた方がいいのが、Windows+Cでしょう。これを押すと画面の右端に[検索]、[共有]、[スタート]などの項目が並ぶので、その下に続くいくつかのショートカットを覚えなくても何とかなります。なおマウスの場合は、右上か右下にカーソルを持っていくだけでチャームが薄く表示されるので、それぞれのボタンの上にカーソルを移動させて、クリックします。
チャームと時計を表示する | Windows+C |
[設定] チャームを開く | Windows+I |
[デバイス] チャームを開く | Windows+K |
[共有] チャームを開く | Windows+H |
設定を選択して [検索] チャームを開く | Windows+W |
ファイルを選択して [検索] チャームを開く | Windows+F |
アプリを選択して [検索] チャームを開く | Windows+Q |
言語または入力方式を切り替える (複数の言語または入力が有効である場合) | Windows+Space |
現在のアプリケーションのコマンドまたはオプションを開く (アプリケーションで複数定義されている場合) | Windows+Z |
ナレーターを開く | Windows+Enter |
画面上の通知を切り替える | Windows+V |
マルチ モニター環境で [スタート] 画面を左のモニターに移動させる | Windows+PageUp |
マルチ モニター環境で [スタート] 画面を右のモニターに移動させる | Windows+PageDown |
画面の向きのロックのオン / オフを切り替える (PC に画面方向の切り替え機能がある場合) | Windows+O |
アプリケーションを片側にスナップするときに、画面上のアプリケーションのフォーカスを切り替える | Windows+'(SHIFT+7) |
アプリケーションを片側にスナップするときに、スプリットを右に移動させる | Windows+. |
アプリケーションを片側にスナップするときに、スプリットを左に移動させる | Windows+Shift+. |
他に便利なショートカットとして、Windows+Xでデスクトップでのコンテキストメニューが出ます。また、Ctrlと+/-でスタート画面のズームイン、ズームアウトができます。 これはキーボードだけでグループの名前を付けるときに利用します。
◆ ログイン画面
ログイン画面でも音声ガイドを有効にするには、次のようにします。
とにかくログインして、Windows+U でコンピュータの簡単操作ウィンドウを出します。
そして、左端にある、ログイン状態の設定をクリックして、「ログオン設定の変更」ウィンドウを開きます。
開いた「ログオン設定の変更」ウィンドウで、「支援技術」にある最初の項目「画面が読み上げられるのを聞く(ナレーター)」の右端にある「ログオン」のチェックボックスをチェックにします。このとき、「デスクトップ」のチェックボックスもチェックしておくと、ログインした後も、ナレーターが起動するようになります。その他の支援技術も必要に応じてチェックします。そしてOKで閉じます。
◆ 終了方法
キー操作だけで、シャットダウンもしくは再起動する方法は次の通りです。
「Windows+I」 で、設定チャームを開いて、
「上矢印キー」で、電源ボタンに移動して、
「エンターキー」を押し、メニューを出します。
ここで「上矢印キー1回」だと再起動項目、「上矢印キー2回」だとシャットダウン項目に移動となり、
「エンター」で実行です。
◆ 感想
漢字変換がまだ読みあげに対応していません。これは是非とも製品版では実現してもらいたい機能です。NVDAを使ったり、発売日に合わせて出てくるだろう有料のスクリーンリーダーを使えばうまくいくでしょうが、これこそOSの機能としてそなえておくべきもののはずです。よろしくお願いします。
ナレーターのコマンドは、左右が項目の移動、上下が階層の移動となっています。これは今までスタートメニューやアプリのメニューバーで左右がメニューサブメニューの移動、上下が項目の移動となっていたものからの90度回転なので、意外に戸惑いました。体で覚えているせいか、なかなか切り替えができません。でもこれは慣れるしかないでしょう。
とりあえず使ってみた感想ですが、Windows 8 はかなり使いやすいものになりそうです。これは大いに期待できます。10年以上使ってきた方法と全く違う、スタート画面という新しいインターフェイスでの操作を覚えるのは、はっきり言って苦痛かもしれません。でもこの変化はとても良い変化だと思います。
そして、Windows 8の登場で、今後このOSの思想を取り入れたアクセシビリティに配慮のあるソフトが増えてくれることを望みます。おそらくそうなっていくでしょう。
コメント欄で a さんから教えてもらった情報をたどると、NVDA日本語版に関わっている西本さんが、既に Consumer Preview における Haruka Desktop の存在やNVDAやナレーターの動作についてツイートされていました。それからWindows 8 の64ビット版上ではNVDAでこの Haruka は使えないようです。こちらで確認したら、確かに使えませんでした。ただMSPのHarukaは使えるので、対応されるまではそちらを使えばいいでしょう。
◆ 参考にしたページ
・Microsoft の新日本語合成エンジン? - 電脳スピーチ blog
・アクセシビリティ対応 - Building Windows 8 - Site Home - MSDN Blogs
・[Start] (スタート) 画面のデザイン - Building Windows 8 - Site Home - MSDN Blogs
・[Win8CP] Windows 8 Consumer Preview のショートカット キーの機能
・Windows 8 Consumer Preview のショートカット キー: 世の中は不思議なことだらけ
・[Windows 8]シャットダウンはどこ? - Microsoft Officeのリボンのカスタマイズ情報が満載 - 初心者備忘録
など
こんにちは。
私は、青森市内に住む、生まれつき全盲のものです。
Windows8がついに発売開始となったのを受けて、なにか参考情報がないか、WEB検索して、たまたまこの記事を見つけ、興味深く拝読しました。
一般には、タブレットPCとしての機能性に注目した情報が多く、タッチ操作との関連で、視覚障害者には使いにくいものになるのでは?と懸念していました。
でも、この記事のように、確実にキー操作が保障されているそうなので、安心しました。
最初から、それも日本語に対応した読み上げツールが、8では使えるとは!
有料スクリーンリーダーは、低所得者には負担になっている現状を考えると、これは画期的でありがたいことだと思います。
では、失礼します。
細かな部分で、ナレーターだけでは読み上げてくれないところも分かってきました。アプリの検索では文字入力を読み上げないので、アプリを探すのに困ります。
それから、ここに書いている情報は製品版では変わっています。例えばナレータのコマンドの修飾キーはCTRL+ALTになっています。