この絵の人物たちの奇妙な描写が、古典ギリシャ語の言葉遊びによって解釈できるのではないかということを書いてみました。この作品がルキアノスの文章をもとに書かれているのは昔から知られていましたが、さらに、絵の描写として使われていない文を、文法はちゃんと守りながら意味をわざと間違えて訳すと、いままで文章とは関係ないと思われていた奇妙な描写にも対応させることができました。
この絵にはまだ分からないことがあります。人物たちの背景にあるものです。つまりこの絵の中央に並んでいる彫像、そして壁や天井にある浮き彫りです。どう考えても、これほど細かく描き込まれているのに、これらに意味がないわけがないでしょう。これについて調べてみることにしました。
しかし、日本語で書かれた背景についての資料を探してみると、ほとんど見つかりませんでした。たいてい、寓意を表す人物たちがどんな意味であるかを解説するだけです。そして絵から離れて、ボッティチェリが心酔したサヴォナローラの処刑の話や本人の不遇な晩年をこの絵に重ねてしまいます。
日本語で書かれた解説本で、背景について触れてあるのは、それほど詳しくありませんが、ロナルド・ライトボーンの翻訳本『ボッティチェリ』でした。タッシェン社の『ボッティチェリ』にもほんのちょっと書いてあります。他にあるかもしれませんが有名な本ではこんなところです。
日本語に限定せず、もっと詳しいものはどれかというと、これもなかなかないのですが、Herbert P. Horne の 『BOTTICELLI PAINTER OF FLORENCE』 というのがあります。これは1908年に出版された本ですがかなりの内容です(手元にあるのは1980年の復刻版ですが)。
そういうわけで、この本に書かれている内容を中心に、まとめてみようと思います。(つづく)