株札を調べていて、そのカブとは何だろうかと思った。株札で遊ぶ「オイチョカブ」というゲームがあり、それは第8札の名前「オイチョ」と第9札の名前「カブ」に由来するらしい。このオイチョはポルトガル語の8(オイトoito)から来ているのはすぐにわかるが、ポルトガル語の9はノブnoveなのでちょっと苦しい。スペイン語でもヌエベなので駄目だろう。
9の札はなぜカブと呼ばれるようになったのか。いろいろ考えてみる。
ポルトガル語でカブに似た語はないかと見回してみると、天正カルタやうんすんカルタでは騎馬武者をウマ、カバと呼ぶ。カバならばカブに変化してもおかしくないだろう。このカバはポルトガル語の馬札を指す cavalo(馬)に由来する言葉。騎馬武者は天正カルタで11の札。第11札はカブゲームでは使用しないので関係ないのではないか?でもこう考えるとどうだろう。天正カルタで第11札のカバは第12札のキリのひとつ前のカードになる。そこで株札でも最終札のひとつ前のカードということで9札をカバと呼んで、それが訛ってカブになったのではないだろうか。そのとき9の意味のノブに音が引きずられたりしたのかもしれない。騎馬武者を示すがカバと、ゲームを示すカバが違う概念となって発音の上でも区別されていったのかもしれない。この考え方はどうだろう。
では、ゲームの名前はどうしてカブと呼ばれるようになったのだろか。第9札の名前がカブだからという理由でもいいのだけれど、昨日紹介した山口吉郎兵衛著「うんすんかるた」の中では、p.39でCAVOというトランプの用語から来たのではないかと指摘している(どんな意味か忘れたけど)。でも、あえてその説はとらないことにする。検証しようにもCAVOについての情報がわからないからだ。
かわりにその本の中で紹介されている山口氏が由来がわからないとしている40枚カードセットの版木に目をとめる。p.34にある「岸本文庫蔵オウル紋40枚カルタ版木」の写真。僕はこのカードがあやしいと思う。このカードでは、スートがオウルつまり硬貨の丸い形だけになって、それが10ランク各4枚ずつとなる。着目すべきなのは10番目のカードにウマ札が使われていること。また天正カルタは日本各地で様々な独自の発展をしていくのだけど、その中に四国地方で使われていた「目札」というのがある(資料:目札-ギャラリー 花札)。このスートもオウル由来らしい丸い形が使われている。構成は10ランク各4枚+鬼札。この第10札は独特の抽象的な絵札になっている。これをよく見ると下の方に赤い線で四本の足らしきものがある。他の地方札と見比べると分かるが(資料:地方札-ギャラリー 花札)、この札は騎馬武者を抽象化して作られていった可能性が高いと思われる。これがいつ頃から使われていたのか。手本としたものは何であったのか。これを調べるのも面白いだろう。
天正カルタでカブをする場合、ロバイが描かれたエースと合わせて数字札は9までしかないので、絵札で10札を代用しなくてはいけない。順位からすると第10札の女性従者札になるのだけれど、ここでは騎馬武者札を使用して目札の元になる天正カルタのセットが作られたのかもしれない。もしかすると時代がたってから成立した目札などのセットだけでなく、天正カルタを使った最初のカブというゲームの成立時にもこういう組み合わせが行われていて、それの名残としてこのオウル紋40枚なのかもしれない。騎馬武者札で10を代用するというこの特徴が本来のカブという名前の由来になったのではないだろうか。ゲームの名前としてカブが定着すると、ゲームそのものには関係していない絵札の選択はそれほど重要ではなくなってしまって、順序通りの10札を使うことが一般的になったのではないだろうか。
山口氏の「うんすんかるた」には他にもゲームの名前の由来が書いてある。キンゴの語源はポルトガル語の15(QUINZE)キンズから来ているのではないかという示唆がある。またこの本の中で「うんすんかるた」のカードセット以前に天正カルタによるゲームとしての「うんすん」が存在したのではないかという指摘もある。これに近い指摘が「トランプものがたり うんすんかるたのウン・スンモ説」でも語られている。ただしこのページでは従来の「うん、すん」=「um一、summo最高」説とは違う、スペイン語の11onceオンセ由来説が書かれている。同じことだが、スペイン語にしなくても、ポルトガル語の11はonzeオンゼというので、オンゼカルタ由来でもいいような気がする。これも面白い説だと思う。だって「うんすんカルタ」ではキリが最終札ではなくちょうど11番目にあるからね。
※この投稿の写真は私物のうんすんカルタの一枚(オウルのカバ)