ひぐらし亭。オープンの日。あわただしく準備をしている。でも若狭は何もすることがない。みんな気を遣って若狭に仕事をやらせてくれない。手伝わせたら草々にどつかれるとも言われてしまう。
すると、「わかさちゃん」と誰かが声を掛けてくる。誰だか分からずにきょとんとする若狭に、若者が「せをはやみー」と落語の一説を唱えてみせる。これですぐに若狭に分かった。僕も分かった。兄弟子の草原の息子の颯太だ。落語をやめて量販店の店員をしていた草原兄さんが一門に戻ってくるエピソードの時に出た。草原宅に居座っていた草々が落語の練習するのを聞き覚えて、「せをはやみー」と言うようになった。そのときはとても小さかったけれど、芸歴13年の若狭がまだ入門する前の出来事だから、ここまで大きくなっていても不思議じゃない。あの頃耳について離れなかったこの台詞が、ここで出てくるとは。
兄弟子たちと座って話をしている場面。草原の横には颯太がいる。バイトの照明係として呼んだのだ。颯太は今は二十歳の大学生で、落語の研究をしてる。草原は今はなんともないのだが、店員の時も実演でかみまくり、落語に戻っても高座でかみまくりで、落語家として大きな欠点をもっていた。この颯太も、自己紹介の時に親譲りの見事なかみっぷりを披露する。こういう積み重ねられた話を踏まえた演出は、最後の最後まで楽しませてくれる。
若狭は草々に、師匠たちに気を遣わせるので表に出るなと釘を刺されてしまう。役に立ちたいのに何もできない若狭はかわいそすぎる。ひぐらし亭では何もできないので、若狭は「寝床」にやってきてお弁当の準備を手伝っている。箸はエーコのところの若狭塗り箸。エーコは商売上手。いろとりどりのお弁当を見ながら、自分の学生時代のお弁当について話しだす若狭。夕べの残りの茶色い弁当がいやだったというと、熊五郎が料理人らしい、いいことを言ってくれる。この弁当は一日限りだから凝ったことができる。でも毎日の弁当は早く確実に作らないといけないので、そうもいかない。それよりも毎日のお弁当は体のことを考えて作るのが第一。そんな弁当を毎日続けることはそれだけで凄いことだよ、と教えてくれる。回想シーンとして、糸子がせっせと二人の子供のお弁当を作る様子が映し出される。ドラマタイトル「ちりとてちん」という落語が食べ物を題材に出したものだけに、そして塗り箸が大きな役割を演じているわけだし、このドラマでは食べ物も重要なものになる。
ひぐらし亭の一室。師匠たちと糸子が楽しそうに話をしている。そこにお弁当を運んで若狭がやってくる。師匠たちがお母さんは面白い人だと喜ばれる。師匠たちがふたを開けるとおいしそうなお弁当だと言われるが、一膳お箸が足りなかった。そりゃ師匠にこんな失礼をしたら大変なことだろう。お母ちゃんが機転を利かせて師匠たちに、お父ちゃんから聞いた箸の話をし始める。無くなって初めて箸のありがたみが分かる。いつもは食卓の脇役だけど、どんなごちそうがあってもお箸がないと食べられない。まるで、晴れの舞台に出られない若狭へ向けた言葉なのだけれど、若狭はそれどころではないようだ。
若狭は颯太君のいる照明ブースにもお弁当を届ける。晴れの舞台に少しでも参加できるように、照明を一緒にしませんかと言われるが、若狭には学園祭の暗い思い出が頭をよぎってしまう。
夜、ひぐらし亭、いよいよオープン。客席には、糸子、エーコ、小次郎、奈津子、緑さん、「寝床」のみんなの顔も見える。東京から散髪屋もかけつける。天狗芸能の会長も来ている。脇の部屋には師匠たちもいる。お囃子の演奏の中、奥では、草若師匠の遺影の前で出番前の一門が神妙な顔をしている。照明ブースには若狭と颯太がいる。
若狭のスイッチでぱっと舞台が明るくなる。草若一門が出てくる。兄弟子たちに加えて小草々もいる。客席が拍手で出迎える。師匠の夢だった念願のこのときなのに、照明ブースの若狭は今自分がいる状況に、全く同じ状況の学園祭の暗い体験がまたよぎってしまう。
中央にいる草原がまず「ようこそのお運び...」と挨拶をし、ひぐらし亭の名前にはいろんな意味が込められていると、それに絡めて、順にひとりひとりオープンの言葉を述べていく。若狭がそれぞれにスポットライトを浴びるようにスイッチを切り替えていく。「その日暮らし」の未熟な落語家でも高座に出られるようにと草々。蝉のように土の中に長く修行をしてと小草若。一日中という意味もあるので一日いても飽きない落語家とお客の場所としてと四草。そして小草々が若狭塗り箸の話。小草々は若狭の代わりで出ているのだろう。幾重にも塗り重ねる若狭塗り箸のように、稽古を積み重ねて精進していく所存と、一番若い彼が言う。そして草原に戻って、ぎょうさん笑うていただきますようと、皆で礼をして締めくくる。すると客席が拍手でそれに応える。立ち上がって拍手をしている。いつもは強面の天狗芸能の会長も満足そうな顔でみている。
晴れの舞台を迎えている一門の仲間たちの幸せな顔を見ながら、若狭にもほんの少し笑みが出る。順ちゃんの言葉を思い出す。主役になるのはスポットライトが当たっている人ばかりではない。人にライトを当てるのは素敵な仕事だと。
音楽がオープニング曲のゆっくりしたハミングに変わる。若狭は照明ブースの隙間から、喜んで拍手を送っているお母ちゃんの笑顔を見ている。若狭自身はまだ晴れない顔をしている。でもお母ちゃんの顔見ているうちにかすかに何かに気付いた表情を見せて、お腹を優しく抱きしめる。自分でもつかみきれない思いがこみ上げてきましたと上沼恵美子のナレーション。今日はそれでおしまい。あと残り二回。
以前、「純情きらり」のことを書いていたときには、そんなに時間がかからなかったのに、久しぶりにあらすじを書こうと思ったら、時間がかかるかかる。最終週だから、いままでの場面もいろいろ浮かんでくるから。簡単にまとめられなくなる。あらすじなのに文章も長くなる。
そういうわけで三連投。