2008年08月06日

『ミクロの世界へ大冒険!』 アンコール放送予告

今年の3月に教育テレビで放送されたナイジェル・マーヴェン氏の冒険が再放送。

前回見ました。この冒険は無謀です。危険が多すぎる。考えただけでもぞっとする。
でも恐竜たちに追いかけられてもちゃんと生き延びてきたナイジェル・マーヴェンならやってくれる。今度は何をするのかといえば、体を縮めて庭にいる虫たちの直接観察。

「ミクロキッズ」というとっても小さな体で庭をさまよう映画があったけれど、あれを思い浮かべればいい。あれより倍ぐらい大きめだけど。時間旅行で恐竜や様々な生物に会いに行ってきた彼が、今度は助手のローラ、運転手で森林警備隊タグを引き連れて、虫たちの野生の世界へと向かう物語。23時間以内に元の大きさに戻らないと心臓麻痺で死んでしまうというタイムリミット付きの大冒険。

もう、虫好きにはたまらない、虫嫌いにも別な意味でたまらない映像の連続。あたりまえに小型のカメラを使って虫たちの生態を観察するだけでも興味深い生態が見られておもしろいのだけど、それだけでは決して味わえない生々しい臨場感で伝えてくれる。だって気を抜くとヒキガエルやネズミに食われるんですよ。

そんな危険を十分理解してながら、好奇心に任せて突き進んでいくナイジェルさん。この人の楽しそうな姿を見てると、「好奇心バンザイ」と叫びたくなる。アブラムシ(アリマキ)のおしりから出てくる甘露を手にとって飲んじゃったりするのは、やっぱりこの1.3cmの大きさになってるからできること。ただのカメラの映像だけでなく、生身の人間の五感を通じて伝えてくれる虫たちと等身大な世界像は、すばらしい。

これは教育テレビ「地球ドラマチック」の番組として放送されたけれど、今回は、定時(水曜19時)の放送ではなく、「地球ドラマチック・選」として8月7日と8日の午前10時から放送される。

番組紹介ページは次のアドレス
地球ドラマチック|『ミクロの世界へ大冒険!』 (前・後編)


チャンネル:教育/デジタル教育1
放送日  :2008年 8月 7日(木)
放送時間 :午前10:00〜午前10:40(40分)

チャンネル:教育/デジタル教育1
放送日  :2008年 8月 8日(金)
放送時間 :午前10:00〜午前10:35(35分)

原題:Micro Safari: Journey to the Bugs
制作:Granada Bristol / イギリス / 2006年


なお、NHKでの番組名は『ミクロの世界へ大冒険!』だけど、すでに発売されているDVDでのタイトルは原題のカタカナ表記を入れて『マイクロ・サファリ -ナイジェル・マーヴェン in ミクロの世界へ大冒険!-』になっている。


■ 関連リンク

・日本語公式ページ
マイクロ・サファリ

・ナイジェル・マーヴェン公式サイト(英語)
Nigel Marven

・そのサイト内の『ミクロの世界へ大冒険!』(Micro Safari: Journey to the Bugs)の紹介ページ
Micro Safari: Journey to the Bugs (2007)



■ ナイジェル・マーヴェン関連DVD
(この『ミクロの世界へ大冒険!』はDVDでは『マイクロ・サファリ・・・』)


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2009年09月22日

海生哺乳類を調べてみる

前回のプライミーバルでは未来の海生哺乳類がでてきたけれど、Wikipediaなどで現実の海生哺乳類を調べてちょっとまとめてみた。

アザラシやジュゴンとかいろいろいるのだけど、最近の分類で整理するとこんな感じになる。他の資料だとまた別の分類の流儀があるかもしれないが。
ジュゴン目(海牛目) − アフリカ獣上目 近蹄類 テティス獣類
クジラ目 − ローラシア獣上目 鯨偶蹄目 鯨反芻亜目 鯨凹歯類
鰭脚類(アザラシ上科) − ローラシア獣上目 ネコ目 イヌ亜目 クマ下目

ジュゴン目に、ジュゴン科とマナティー科の2科があって、それぞれにジュゴン、そして各地のマナティが属している。マナティは海域だけでなく淡水域にも生息している。テティス獣類というのは太古のテティス海周辺で進化し繁栄した種のグループ。クジラ目は言わずと知れた水生哺乳類。たいていは海生だが淡水に棲むものもいる。ハクジラ亜目とヒゲクジラ亜目があり、ハクジラ亜目の中にはイルカやカワイルカの種類もいる。鰭脚類には、セイウチ、アザラシ、アシカ、トド、オットセイなどが含まれる。細かく分けると、鰭脚類にはセイウチ科、アザラシ科、アシカ科の3科があって、さらにアシカ科にはアシカ亜科とオットセイ亜科の2つある。トドはアシカ亜科に含まれる。

絶滅種ではアフリカ獣上目 近蹄類 テティス獣類に属する束柱目がある。これにはパレオパラドキシアデスモスチルスが含まれる。1000万年以上前に絶滅したものだが、どちらも日本で化石が発掘されている。

また、海を生活の場としている個別の生物種として、ホッキョクグマ(ローラシア獣上目 ネコ目 クマ下目 クマ上科 クマ科 クマ属)とラッコ (ローラシア獣上目 ネコ目 イヌ亜目 クマ下目 イタチ上科 イタチ科 カワウソ亜科 ラッコ属)がいる。

海生哺乳類の歴史については以下の項目で記述されている。
原クジラ亜目
鰭脚類 # 鰭脚類の起源
アシカ科 # 海生哺乳類の中での位置づけ

リンク先に書いて海生哺乳類の歴史を簡単にまとめると、海に君臨していた魚竜などの爬虫類が絶滅したあと、草食性のジュゴン類、肉食性ないし雑食性の祖先をもつ鯨偶蹄類のクジラ類がその生態的地位(ニッチ)を占めるようになった。クジラの祖先は当初沿岸で水陸両棲であったが、次第に海での生活に適応するものも現れた。やがて始新生と漸新世の境界における環境の激変で現在のクジラにつながるものを除いて死滅してしまった。この絶滅で空いた沿岸部における食肉性の生物のニッチに食肉目のクマに近縁な種が進出し鰭脚類へと発展し、現在に至る。
生物の生態を考えるときは、ニッチというのがかなり重要になってくる。その地域において限られた資源を生物が利用する場合、最終的に同種の生物がその資源を独占してしまう傾向がある。同じ場所で同じ資源を共有しているように見えるものも、タカやフクロウのように時間帯がずれていたり、よく見るとそれぞれが別々のニッチを占めていると分かることが多い。

以上が、海生哺乳類についてのまとめ。


以前、同じように動物種に関して興味を持って調べたことがある。

takayanの雑記帳: 「ゾウの祖先は水生動物」説 2007年03月09日
takayanの雑記帳: 地球ドラマチック「知られざるカバの世界」 2007年03月15日

この頃カバとクジラが近縁だと分かって、詳しいことを知ろうとWikipediaの記事を面白く読みまくっていたのだけれど、当時鯨偶蹄目という用語は載っていなかったし、知りもしなかった。この鯨偶蹄目(Cetartiodactyla)は偶蹄目とクジラ目の合成語。従来クジラ目と偶蹄目は姉妹目であると分類されていたが、近年の遺伝子による研究の結果としてクジラが偶蹄目のカバ
と近縁であることが明らかになったため、クジラ目を従来の偶蹄目の中のカバのそばに配置し全体を新たに鯨偶蹄目と呼ぶようになった。
たった二年前なのにこういう変化が起きている。気を抜くと、すぐに取り残されてしまう。哺乳類 # 真獣類分類・系統研究の動向
WikipediaのこのページではSINE法による解析で明らかになったと紹介されているが、そのSINE法による解析の概要は東工大岡田研究室のクジラと偶蹄類の系統関係の解明で簡単に説明されている。
素人考えでは生命の設計図であるDNAを調べれば簡単にいきそうなのだけれど、SINE法を使わないとそう単純にはいかなかったことも書いてある。

絶滅種のデスモスチルスに関しては復元についての動画を見つけた。サイエンスチャンネルの(7)絶滅哺乳類の復元〜デスモスチルスの謎〜。束柱目(デスモスチルス目)と海牛目(ジュゴン目)は同じテティス獣類として分類されているが、同じテティス獣類にはゾウ(長鼻目)も含まれる。
海生哺乳類からは離れるが、ゾウは「ゾウの祖先は水生動物」説のときに書いたけれど胎児の段階で水生生物と似た特徴が現れる。これがどれくらい前の祖先の特徴を反映したものかまでは分からない。関連する情報を探してみると、知恵袋に「ゾウの精巣が脚の間ではなく背中の方にあるのはなぜですか?そこでも冷却されるは...」があった。質問者は水中生活に否定的で、ベストアンサーの回答者は水生に対して理解があるというちょっとしたねじれがあるけれど。回答の中には次の論文へのリンクが載っている。
WHY THE ELEPHANT HAS INTRA-ABDOMINAL TESTES(英語PDF)

別の回答者がハイラックスはどうなっているか比較対照になると書いてあるが、実際どうなっているかまでは書いてなかった。検索してみると、日本語での詳しい説明はなかったが、ブログNoteBook 動物園実習レポート〜第九日目〜に、ハイラックスの解剖を見せてもらったときハイラックスの精巣が腹腔の背中側についていたという記述がある。ハイラックス(岩狸目)はゾウと同じアフリカ獣上目 近蹄類には属しているが、テティス獣類には属してはいない。近蹄類は岩狸目の祖先が基本にあって、まず重脚目(絶滅種)が分化し、その後テティス獣類の長鼻目、海牛目、束柱目が分かれたと考えられている。そのハイラックスの精巣の位置がこの場所にあるということは、ゾウの精巣の位置だけでは原始のゾウの水生の根拠にはならないということになるだろう。ただもしハイラックスの他の臓器もゾウのように水生の痕跡があるのならば、テティス獣類と分化する前のハイラックスの祖先には水生の時代があって、そしてその子孫のテティス獣類は体の内部構造から水生の生活になじみやすかったのではないかと推測することができる。このくらい既に研究してそうだけど、ネット上には日本語で読めるものは見つからなかった。

不正確な情報もあるかもしれない Wikipedia で調べているので、正確な情報が必要な人はそれなりに裏を取ってください。


posted by takayan at 23:47 | Comment(0) | TrackBack(0) | サイエンス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年09月30日

LHCの再開予定

去年の今頃のこと。楽しみに待っていたLHC(大型ハドロン衝突型加速器)がいよいよ稼働開始。でもめでたく動き出したと思ったら、その数週間後に故障のニュース。もうこのときはとてもがっかりした。あれから1年経つけれど、まだ動いていない。

次の記事によると、今年の11月に再開が予定されている。ただし最初は半分のエネルギーで。
セルンでLHCの修理進む。 - swissinfo


■ LHCの近況を知るためのページ

LHCアトラス実験オフィシャルブログ
・・・アトラス実験の現場に関わっている素粒子物理学者からの最新情報。ブログ移転したばかりで現在の記事はイラスト入りで気合入ってる。

Swissinfo科学技術・環境ニュース- swissinfo
・・・スイスの情報を世界に発信しているスイスインフォ、その科学ニュースの日本語ページ。LHCに関しての記事も多い。現地の情報を詳しく日本語で読むことができる。

CERN (CERN) on Twitter
・・・CERNのTwitterページ。英語だけど、フォローしておくと最新情報が流れてくる。現在最新のつぶやきは「フラッシュフォワード」のインタビューについて。

YouTube - CERNTV さんのチャンネル
・・・YouTubeのチャンネル。ニュースを動画で見ることができる。お勉強動画もある。でも言語は英語とフランス語。


それはそうと、CERNのTwitterページにある「FlashForward」についてのリンクをたどっていくと、「FlashForward」はアメリカでドラマになっていて、現在放映中なのか!
LHCが舞台でなくなっていたり、連続ドラマ向けに設定がかなり変更されているみたいだけど。
出来はどうなのだろう。これは日本でいつ見られるようになるのだろう。
ABC.com - FlashForward - Home


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2009年10月12日

地球ドラマチック「遺伝子ゲーム〜変異がもたらす進化のプロセス〜」

10月8日の遺伝子による進化を扱った「地球ドラマチック」で放送された番組がとても面白かった。ツールキット遺伝子やここ数年の進化について発見が分かりやすくまとめられていた。
そういうわけで、要約と資料をまとめてみた。

■ 基本情報
地球ドラマチック
遺伝子ゲーム
〜変異がもたらす進化のプロセス〜
放送日時 NHK教育 2009.10.08(土) 19:00-19:40


NHKの番組情報:
http://www.nhk.or.jp/dramatic/backnumber/177.html
地球ドラマチック「遺伝子ゲーム〜変異がもたらす進化のプロセス〜」


10/12現在、NHKオンデマンドで見逃し番組として公開されている(有料)
https://www.nhk-ondemand.jp/index.html

原題:How to build a better being
ナショナルジオグラフィックの番組ページ(英語):
http://channel.nationalgeographic.com/episode/how-to-build-a-better-being-3863
短いが動画も置いてある。
※オリジナルは46分くらいのものだが、NHK版は地球ドラマチックの枠に入れるためか40分にカットされている。

■ 番組内容
シムシティなどのゲームデザインで有名なウィル・ライトが、今回開発中の進化をテーマにしたゲーム「Spore」を作る途中で、進化についてより深く知りたいと思い、それについていろんな研究者に話を聞いていくという形で番組が進んでいく。

触角の代わりに足が生えた突然変異のハエの研究から、「ツールキット遺伝子」と呼ばる8つの遺伝子が発見された。ツールキット遺伝子は、体の構造の決定や胚の発育の制御などを担っている遺伝子である。本来とは違った場所で遺伝子のスイッチがオンになることで、このような突然変異が起きてしまう。さらに、このツールキット遺伝子はハエだけでなく人間を含めた動物が共通に持っていることが分かってきた。ヒトに特別多く遺伝子があるわけではなく、ヒトもハエもネズミもゾウも遺伝子そのものはほとんど同じで、それを使ってまったく異なる生物の部品を作っているにすぎないのだ。生物に共通するこのツールキット遺伝子の発見は種の間の深いつながりを示し、動物が共通の祖先をもつというダーウィンの重要な考えを裏付ける証拠にもなる。

カンブリア紀には、カンブリア紀の爆発と呼ばれる様々な生物が出現する現象が起きたが、この多種多様な生物の出現はこの頃内海が作られたり生物が生息できる環境が多様になったことと関係しているのではないかと考えられる。新しい体を作る能力が飛躍的に進歩し、それらの生物の中からヒトにつながるものもおよそ5憶3千万年前に枝分かれしてきた。生物は左右対称の体、そして次に体節構造を獲得していった。

生物の体ではひとつひとつの体節が独自の性質を持っている。特定の遺伝子が特定の体節を作っていき、どんな動物でも遺伝子が体節をつくるという方法で体の構造がレイアウトされていく。遺伝子が体を上と下、前と後ろに分け、臓器や手足などの位置も遺伝子の働きで決められる。この過程で遺伝子のスイッチが早かったり遅かったり入らなかったりすることで突然変異が起きる。

ツールキット遺伝子によって遺伝子のネットワークが少し変更されることで進化が起こる。形態の進化とは古い遺伝子に新しい技を教えることである。遺伝子が計画し、環境が運命を定める。遺伝子のセットは安定したものではなく、遺伝子のスイッチを入れる場所と切る場所は絶えず変わる。新たな特徴が有利に働くかどうかは、周りの環境によって決まる。

古生物学者ニール・シュービンが2007年4月に北極圏で発見した「ティクターリク」(大きな淡水魚の意味)は、3億7千前5百万年前に生息した魚と両生類の中間の生物で、首と手首を持った最初の魚だ。形はもちろん違うが既にヒトの手首と対応する骨を持っている。ティクターリクの手首は、水の底でも干潟でも、地面の腕でも体を支えられる構造をしている。生物は、大きくなる、鎧を身にまとう、その場から離れるといった生き残る戦略を行うが、ティクターリクはヒレを変化させ、危険な水の中を避ける三つ目の戦略をとった。

ティクターリクのDNAは得られないので、それに近い現存のガンギエイのものを使って、変化が起きた仕組みを調べてみる。ガンギエイとヒトの祖先は4億年以上前に分岐したのに、やはりツールキット遺伝子はヒトとほとんど同じものが使われている。発育中のガンギエイに対して化学薬品による処理を行うと、遺伝子の一つに対し間違った場所でスイッチが入る。その結果ヒレが変化し、ティクターリクの手首と似たような骨ができる。

生物が陸上で活動できるようになると、次々に新しいデザインが生み出されていった。そして生物の活動で重要な心臓も進化していった。心臓の起源を遡っていくと、5億年以上前に棲息していた原始的生物の単純な管に行きつく。この単純な管も、ツールキット遺伝子の働きによって心室心房の数が増えより複雑なものになっていった。数が増えればそれだけ血液と酸素をより高い濃度で流せるようになる。そうしてより多くのエネルギーを生み出し、高いレベルの活動が可能になった。

ツールキット遺伝子が心臓の進化に果たした役割を調べるために、脊椎動物の祖先に近いホヤが研究された。細胞が百個のときツールキット遺伝子は2個の細胞を頭部に移動させ、心臓の筋肉を作るように指示を出す。このとき間違いが起き、4個の細胞が頭部に移動することがあり、その結果として心室と心房を一つずつ持った心臓ができる。このような果てしない遺伝子の実験によって、脊椎動物はホヤのような原始的な動物から最強の捕食者へと進化していった。

現在の人の体につながる最も重要な変化は比較的最近起こったものだと考えられている。

多くの哺乳類は光を感知する細胞を二種類しか持っていないが、5千万年程前、一部の霊長類がもうひとつの光を感知する細胞を手に入れた。これにより食べられる木の葉や果実などを探すのに役立ち、生存競争に有利になった。

人類は二足歩行となったことで、後ろ脚が長くなり、前足と肩は縮んだ。握りこぶしで歩いていた手はより精密な動きができるようになり、毛でおおわれていた皮膚はすべすべになり、脳の大きさは3倍になった。全ては遺伝子の変化によってもたらされた。チンパンジーとヒトはDNAの98.9%が同じだが、残りのわずか1.2%が大きな違いを生んでいる。科学者たちはヒトの進化を決定付けた遺伝子を突き止めようとしている。

ハーバード大学の研究チームは皮膚をすべすべにする遺伝子について研究している。私たちに近いはずの霊長類では、私たちと違い少し走っては喘いでいる。厚い毛皮のせいで犬のように口から熱を発散しなくてはならないからだ。一方人間の皮膚は剥き出しで、毛はずっと細く汗もかきやすい。他のどの哺乳類よりも効率よく熱を発散できる。生物学者のパルディス・サベティは、ヒトの遺伝子の配列を分析して、魚の鱗を作る古代の遺伝子を発見した。魚の鱗を制御する遺伝子群と同じ遺伝子群が進化の過程で、ヒトの毛や汗、歯を制御するようになったと考えられる。こうしてヒトは激しい運動の最中でも体温を調整することが可能となった。これは大きな獲物を仕留めるのに理想的な能力だ。現代でもカラハリ砂漠に住み人々は銃を使わずにレイヨウを狩っている。彼らは獲物が疲れきって動けなくなるまで執拗に追跡する。

二足歩行になった人類は手で物を自由に扱えるようになり、道具を作り出すようになった。ヒトと他の霊長類との最大の違いは知能であるが、どのような進化によって脳の大きさが三倍になったのか長い間謎に包まれていた。最近、それに対し次のような仮説が出てきた。

筋ジストロフィーの治療法を研究していたハンセル・ステッドマンはミオシンを作る遺伝子の突然変異を見つけた。ミオシンとは筋繊維を作るたんぱく質だ。その突然変異はあごの大きさと筋肉の大きさを変えるものだった。強力なあごの筋肉を持っているチンパンジーなどヒト以外の霊長類ではミオシン遺伝子に突然変異は無く、人類だけがその部分のDNAから2つの塩基が無くなっている。この突然変異によってヒトのあごの筋肉は縮小した。頭の大きさは限られているので、外側に大きな筋肉を備えるか、内側に大きな脳を収容するかどちらか一方しか選べない。ゴリラは頭蓋骨を取り巻く部分のほとんどが外側のあごを閉じるための筋肉だが、ヒトは逆で内部の大きな脳で占められ縮小したあごの筋肉は端の小さな穴に付着しているだけだ。あごの筋肉を縮小させた遺伝子はさらに頭蓋骨のつなぎ目が閉じる時期を遅らせた。チンパンジーは頭蓋骨が3歳で完全に閉じるが、ヒトの頭蓋骨は30年間もしなやかなままで、脳の成長も可能となる。あごの筋肉が小さくなったから単純にヒトになったわけではないが、筋肉を小さくしたことで進化の歯止めとなっていたものが解除され、脳が成長を続けられるようになったと考えられる。

進化の仕組みを解明できる動物は人類だけであるが、人類は進化の梯子の一番上に立っているのでも、母なる自然が作った最高の部品によって組み立てられているわけでもない。進化をもたらすツールキット遺伝子はヒトだけでなく、様々な生物のデザインも手がけている。ツールキット遺伝子の独創性は果てしなく、生物の世界は驚くほど多様性に満ちている。人間の体とは似ても似つかない例えば棘皮動物のヒトデの何百本もの管足やアワビの機械みたいな歯舌もツールキット遺伝子が作り上げた見事な創造物である。

人類は遺伝子のあらゆる仕組み解明し、やがて進化を自分たちでコントロールする日が来るかもしれない。人類は肉体の代わりに機械を使って能力を拡大し、さらにDNAを操作することで自分たちの体そのものを変化させる技術まで手に入れようとしている。そこには倫理的な選択の問題がある。

今回の探求で分かってきたのは、全ての動物が基本的に同じ遺伝子のセットを持っているということだ。一見どんなに違った姿をしていてもそれを形作る物は変わりない。生物の歴史は古代の遺伝子を目的を変えて使いまわしてきた物語である。私たち人類もその物語の一部であって、人とつながりのある様々な生物の痕跡が今も私たちの体の隅々に残されている。

■ 資料
この番組に出てくる人たちの紹介ページ:
ゲームデザイナー ウィル・ライト Will Wright http://www.mobygames.com/developer/sheet/view/developerId,4217/
遺伝学者 マイケル・レビーン Michael Levine http://mcb.berkeley.edu/index.php?option=com_mcbfaculty&name=levinem
古生物学者 二ール・シュービン Neil Shubin http://pondside.uchicago.edu/oba/faculty/shubin_n.html
発生生物学者 クリフ・タビン Cliff Tabin http://genepath.med.harvard.edu/~tabin/index.html
遺伝学者 ニーパム・パテル  Niepam Patel http://patelweb.berkeley.edu/
人類学者 ダン・リーバーマン Daniel E. Lieberman http://www.fas.harvard.edu/~skeleton/danlhome.html
生物学者 パルディス・サベティ Pardis Sabeti http://sysbio.harvard.edu/csb/research/sabeti.html
ペンシルベニア大学 ハンセル・ステッドマン Hansell Stedman http://www.med.upenn.edu/apps/faculty/index.php/g5165284/p7723
海洋生物学者 ティアニー・ティス Tierney Thys http://www.nationalgeographic.com/field/explorers/tierney-thys.html


関連本としては次のようなものがある:








この番組はシムシリーズで有名なゲームデザイナーのウィル・ライトのゲーム「Spore」を軸に話が進んでいくのだけど、そのゲームの日本語版のページは次のアドレス:
http://www.japan.ea.com/spore/index.html


次回もちょっと面白そう。
10/15 NHK教育19:00〜
「メガファウナ〜巨大動物 繁栄と絶滅の歴史〜」
オーストラリア大陸でかつて繁栄した巨大動物について話。
原題:The Death of megabeasts
ナショジオの番組ページ(英語)
http://channel.nationalgeographic.com/episode/death-of-the-megabeasts-3626


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2009年10月16日

「チンパンジー、見返りなくても仲間手助け」

前回のヒトの進化について扱った投稿の後、似たような話題のナショナルジオグラフィックの番組「人間とチンパンジー:DNA2%の相違」というのを見て、そうか類人猿は見返りのない協力はしないのかと思っていたのだが、その二日後にこのニュースをやっていた。チンパンジーにも利他行動があるのか。NHKの夜のニュースでも時間を割いて報道していた。新聞でも取り上げていた。興味ある分野だし、画期的かもしれないけれど、そこまで大きく扱わなくてもいいのにとも思ったけれど。

新聞はネットで読み比べてみたが読売新聞の記事が良く書かれていて、分かりやすかった。
以下その記事の引用
チンパンジー、見返りなくても仲間手助け…京大チーム解明
 チンパンジーも相手の気持ちが理解できる? チンパンジーが、見返りがなくても仲間が要求すれば手助けをすることを、田中正之・京都大野生動物研究センター准教授と山本真也・東京大研究員らが初めて明らかにした。人間が、互いに助け合う現在の社会を作り上げる過程の解明につながりそうだ。米科学誌プロスワン(電子版)に発表する。

 山本研究員らはチンパンジーにステッキを使ってジュースの入った容器を引き寄せたり、ストローを使ってジュースを飲んだりする訓練を、京大霊長類研究所で実施。2頭のチンパンジーを透明なアクリル板で仕切った隣同士の部屋に入れ、ジュースの容器を片方は手の届かない所に、他方は壁に固定し、ステッキやストローがないと飲めない状態にして、それぞれに逆の道具を与えた。

 母子、大人の雌同士の計6ペアについてそれぞれ、1週間で24回実験した結果、全体の59%で四角い穴から道具の受け渡しがあり、そのうち、相手の要求で渡したケースが75%でみられた。自発的に渡したり、奪ったりしたのは少なかった。片方だけに道具を与えた場合でも、相手が要求すれば道具を渡すことが多かった。

 東京大総合文化研究科の長谷川寿一教授(動物心理学)の話「チンパンジーは、他者の気持ちがわからないとされていた。しかし、お願いされれば断れないことから、ある種の共感や同情、思いやりといった感情のベースとなるものを備えていることが明らかになった」
チンパンジー、見返りなくても仲間手助け…京大チーム解明 : 科学 ピックアップ : 経済 科学 : 関西発 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)

(2009年10月14日 読売新聞)

この記事を読んで、制限時間はあったのだろうか、チンパンジーには順位があるのに考慮していないのは問題があるんじゃないのかと思って、プロスワンを調べてみたら、ちゃんと論文の方には書いてあった。

論文(英語)へのリンク:PLoS ONE: Chimpanzees Help Each Other upon Request

Table1でDとSと書いてあるのが、それがそれぞれ上位と下位のこと。数字だけ見ても明らかに差が出ている。ペンデーサとプチの間では従属関係があるのにほとんどやり取りが無いが、下位のマリは上位の二匹の要求には対して従順に従っているようにみえる。上位の者が下位の者に与えるときは稀にしかないが、それは自発的な場合に限られている。逆に見ると上位の者へは怖くて要求やましてや奪取なんてできないよということだろう。この3者は血縁関係がない組み合わせだけど、母子という血縁関係がある場合はほぼ対等にやり取りが成立している。自発的な行動はやっぱり稀だけど、意外に子供が自発的に親に渡すことのほうがその逆より多くなっている。


いろいろ疑問に思うこともある。ストローが必要な時とステッキが必要な時とでの違いはどれくらいあったのだろうか。自分には役に立たないステッキを外から取るきっかけは遠くに見えるジュースと関係があるのか、単にいつもご褒美と関係があるステッキが手の届くところにあるから手に取ってみただけなのか。檻が透明なので自分が渡したことで相手にだけ利を与えてしまうことが分かるので、その経験が増えると行動は変化したのだろうか。もしジュースが相手から見えないところにあって、ステッキを渡すことが何の役に立つかが理解できない状況ではどうなるのだろうか。そうなると自発的にステッキを渡すことはないだろうが、手を差し出されたから機械的に渡してしまうということはないのだろうか。相手がリクエストしてきた場合の成功率は8割もあるので、状況とは切り離して手を欲しそうにステッキに伸ばしてきたから機械的に渡してしまったということはないのだろうか。つまりリクエストする側のジュースはリクエストを起こすための単なるきっかけでしかないと考えることもできるのではないだろうか。8割の成功率があるのは、単に要求をしたから応えてくれたではなく、相手が要求に応えてくれるという確信が社会的な順位や信頼により既にあるから実行していると考えられるのではないか。上位者の下位者への奉仕は、心理的に余裕のある上位者の方が他人のことを思いやれるからだろうか。一つ一つの実験の順序関係も知りたい。上位者の奉仕は、前回の相手の行動の返礼という意味合いはチンパンジーでは考えられないのだろうか。そういう間接的な上位の者の返礼が社会的な信頼につながったり群れのルール作りに作用するということはチンパンジーにはないのだろうか。ピント外れかもしれないけれどそんなことを考えた。

実験に出てくるチンパンジーは京都大学霊長類研究所の次のページで紹介されている。
チンパンジーたちの今日このごろ

この分野も興味深い。今後も注意して見ていこう。

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2009年10月17日

「人間とチンパンジー:DNA2%の相違」メモ

そういうわけで、ナショナルジオグラフィックチャンネルでヒトと類人猿を比較していた番組のまとめ
いろいろ調べるとこの番組の初回の放送はアメリカで2008年だった。日本でも既に去年から放送されているようだ。
ということは先日紹介した「遺伝子ゲーム」とほぼ同じくらい。最後の方で同じ研究が紹介される。
この番組の中で協力テストのところが、チンパンジーは協力はするが、見返りのない協力は無いことを示す実験。

まず、番組情報
「人間とチンパンジー:DNA2%の相違」
原題:Human Ape

放送中ずっと左上に、来週の「遺伝子の旅」の告知が張り付いていた。
これは、次の番組のことで、
遺伝子の旅 〜先祖が歩んだ道〜
原題:The Human Family Tree
多くの協力者の頬の内側の細胞のDNAを採取して、その情報を使って祖先をたどっていくプロジェクト。現在、世界中の35万人以上のDNAサンプルが集まっているそうで、このプロジェクトはかなり楽しみにしている。
それはそれで楽しみにしておいて、この人間とチンパンジーの話。

世界中の様々な研究所が行っている実験の様子を具体的に示しながら、類人猿と人類についての違い一つ一つの能力について検証していく。アイとアユムで有名な京大霊長類研究所の松沢教授の実験も紹介される。アメリカで研究されているボノボのカンジも出てくる。カンジは簡単な人間の言葉を理解するというので以前NHK特集で紹介されたこともある。

空間認識、問題解決、道具作りのテストなどに関しては、類人猿もその能力を持っている。

しかし以下のテストでは大きな違いが出てくる。

・計画性テスト
計画性は類人猿には短期的なものだけはあるが、長期的なものはもってはいない。

・習慣と伝統のテスト
学習は類人猿もできるが、その方法には大きな違いがある。大人のチンパンジーは積極的には子供に教えない。子供は見て、まねて覚える。チンパンジーは多数の習慣と伝統は持たない。

Victoria Horner博士の実験。二つの特殊な箱を用意する。二つとも同じ仕組みでご褒美の食べ物が出てくる。しかし一方は中身の見えないブラックボックス、もう一方は中身が透明で、食べ物が出てくる仕組みがはっきりとわかる。まず、ブラックボックスで食べ物のとり方の手本を人間の教師が教える。人間の子供もチンパンジーも、多少人間の方が要領がいいが、教師と同じような手順を繰り返しご褒美を得る。今度は、その手順を覚えた後に透明ボックスを渡してみる。実はさっき教えた前半の手順は意味は無く、後半の動作だけがご褒美をとるのに必要な手順である。透明なので人間の大人ならばすぐに前半の動作が無意味なものだったことが分かる。しかし人間の子供は、律義にさっき覚えた教師の手順を全て繰り返し続ける。一方チンパンジーは前半は行わず後半の手順だけでご褒美を得る。人間の子供は無駄なことをしているように見えるが、この忠実にまねる能力が人間らしさを作っている。この習性によって多くの習慣を受け継ぐことができたと考えられる。

・物理学のテスト
坂の途中にあるリンゴを、上からボールを転がして落とさせる実験。ボールは重いものと軽いものがあり、軽い方では勢いが弱すぎてリンゴを落とすことができない。人間の子供は1歳半の子供でも、重いボールを選べばうまくいくことが予想できる。しかしチンパンジーは何回も経験しなければ重いボールが有利なことが理解できない。そして最後まで理由を理解できていない。この実験から人間の子供は早い段階から、物の動きや作用を理解していることがわかる。

不安定なブロックを立たせる実験。L字ブロックを逆さに立てさせる。人間の子供もチンパンジーも慎重にブロックを扱ってちゃんと立てることができる。途中で錘を埋め込んだブロックにすり替えて、絶対立てられない状況を作る。そうすると人間の子供はブロックが変だと気付き理由を探しを始める。一方チンパンジーはいつまでもそのブロックを立て続けようとしてしまう。

大人の人間の脳は、類人猿の脳の大きさの三倍もある。記憶力は人間が一番だと思われているが、必ずしもそうではない。

・短期記憶力テスト
京都大学霊長類研究所、タッチパネル付きのモニターに数字をランダムに配置し、チンパンジーに小さな順に指さしさせる実験。最初の数字を指さした瞬間に残りの数字が消えて四角に変わる。あとは記憶を頼りに選んでいく。この実験により、チンパンジーは短期記憶力は人間よりもすぐれていることが分かる。野生では餌のありかや、敵を見分ける能力は特に必要である。人間とチンパンジーの共通の祖先には、この能力があったのではないだろうか。

・言語テスト
もう一度松沢教授が登場。チンパンジーの声を実現してみせる。野生のチンパンジーには30種類以上の声がある。アメリカの研究所には70語の図形を区別できるオランウータンがいる。またのアイオワの研究所には人間の言葉の2000語以上の英単語を聞き分けるボノボがいる。しかし人間は10代後半までに六万の語彙が使えるようになる。高度な言語能力は類人猿にはない。

・協力テスト
人類は協力して共に働く能力を持っている。チームでスポーツをしたり、極端な例としては国でまとまり戦争までやってしまう。チンパンジーも協力して実行する映像が撮影されている。オスのチンパンジーの群れが、特殊部隊のようにひっそりと前進し、別の群れの縄張りに入り、敵の群れのオスを一匹集団で殴り殺した映像が記録されている。またチンパンジーは仲間と連携して猿を捕獲して食べることも知られている。

Alicia Melis博士の実験。檻の前に長い板を柵に平行に置く。その板は手の届かない距離にある。板には左右と中央に餌を入れる箱と、紐をかける棒が数本垂直に固定してある。板の両端にある棒に長い一本の紐をかけて、紐の両端を檻の中に入れておく。両方の端は一匹が同時に引けないくらい距離がある。檻の中から片方の紐だけを引くと、紐はするりと板の棒を抜けてしまい板は動かない。板を引き寄せるには、紐の両端を同時に同じ力で引かなくてはならない。つまり二匹のチンパンジーが協力しないと餌は手に入れられない。一匹のチンパンジーを板の前の檻に入れ、もう一匹をチンパンジーをそこにつながっている隣の檻に入れる。二番目の檻と一番目の檻をつなぐ扉には一番目の檻のチンパンジーからしか開けられない簡単な鍵がかけてある。つまり板の前のチンパンジーが自ら協力が必要だと判断したときにそのチンパンジーの手によって扉は開けられる。
最初、板の両端にそれぞれ餌を入れて、実験開始。板の前のチャンパンジーは、協力が必要だということが分かり、鍵を開け、もう一匹を呼び込む。そして一緒に紐を引き餌を手に入れる。両端に餌があるので、二匹ともにご褒美がある。この状況では助け合う。
今度は板の中央に餌を置いて実験を行う。最初、両端に餌が置かれているときと同じように協力して、板を引き寄せる。しかし餌が手の届くところに来ると、順位が高い方の最初のチンパンジーが独占してしまう。下位の者には一切分け前はない。そのあと同じ二匹を使って同じ実験を行うと、鍵を開けてもその檻から出てこなくなる。協力関係は失われる。

チンパンジーが協力するのは見返りがあるときだけ、協力相手を道具とみなしている。人間の協力関係とは違う。

逆さにしたコップのどれかに食べ物を入れる。チンパンジーの目の前で人間が中身が入っているコップを取るそぶりをすると、チンパンジーはそれに餌があるに違いないと思い餌を獲得できる。しかし人間が取るそぶりではなく、指さしに仕草を変えるとチンパンジーの正答率が低くなってしまう。これはチンパンジーには役に立つ情報を相手に教えることが理解できないからだと考えられる。チンパンジーは常に自分本位で行動する。協力するのは見返りが得られるときだけでしかない。一方、人間の子供は他人は皆、親切だと思っている。相手の意図を信頼して行動している。見返りのない協力は類人猿にはない。

これらのテストで分かってきた違いの理由として、2つの遺伝子に関する研究が紹介される。顎の筋肉の遺伝子の突然変異と、言語に関係するFOXP2遺伝子の突然変異だ。顎の筋肉遺伝子に突然変異が起きたのは、240万年前だと推定される。この変異により、顎の筋肉が弱くなり、頭蓋骨を囲んでいた筋肉が取り除かれ、脳が大きくなることの制限がなくなった。またFOX2P遺伝子に突然変異が起きたのは、20万年前から30万年前だと推定される。この変異により舌と唇に言葉を話すために必要な神経が結合し、ヒトの祖先は話すことができるようになったと考えられる。

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2009年10月18日

昆虫の翅の起源

進化にはいろいろな解明されていない謎があるが、その一つに昆虫の翅(はね)の起源がある。
それについて、今どんなことが分かっているのか調べてみた。

生命誌研究館の1999年に書かれた次の特集は、発生のメカニズムや翅の形づくり仕組みなど興味深いが、起源そのものについては書いていなかった。生命誌の他の論文もとても面白いのだけど、今回の目的とはちょっと違う。
Special Story:「翅」が語る生命誌-BRH - JT生命誌研究館

次の東城幸治氏の記事も1999年のものだがとても興味深いものだった。まず顎や触角が脚を起源としていることを胚の電子顕微鏡写真を使って示している。そして、古生物学的な翅の気管鰓起源説を踏まえて、原始的なカゲロウ類を用いてこの説の検証ができるかもしれないという可能性を述べている。
自然科学のとびら5巻3号―生命の星・地球博物館

そして、気管鰓をキーワードに次の町田龍一郎氏が書かれた二つのページを見つけた。
翅の獲得に至ったシナリオ(PDF)
筑波大学生物学類 未来の科学者養成講座 このページの2番目の質問への回答

前者は、シナリオという名前通り、翅を獲得するまでのシナリオが、1ページちょっとの文章の中に難しい用語を羅列しぎっしり描かれている。分かりやすいのが、後者。とはいっても、ちょっと難しい。これは未来の生物学者を目指す小中学生向けに書かれた文章なのだが、前提とする子供たちのレベルをかなり高く設定してあるようだ。それでも前の文章に比べれば十分分かりやすく書かれている。見てすぐわかる図や写真も添えられている。

勝手に分かりやすい言葉に置き換えたりして内容をまとめるとこんな感じになるだろう。
昆虫の種類がどのように分かれていったのかを調べていくと、翅を持っている昆虫(有翅昆虫)の祖先はカゲロウに近い姿をしていたのではないかと考えられる。カゲロウは幼虫の時期、水の中ですごす。この幼虫は、空気を取り込むために、各体節の両側に葉っぱのような形の鰓をもっている。これは気管鰓と呼ばれる。この気管鰓の根元には筋肉がついていて動かすこともできる。現在のカゲロウの仲間にはこの鰓で水を掻いて泳いでいる種類もいる。石炭紀の地層から出てきたカゲロウの祖先の化石には胸の部分の鰓が発達したものも見つかっている。このことから、翅をもつ前の昆虫の祖先はこの鰓を大きく発達させ、水の中を飛ぶように泳いでいたのではないだろうか。最初はそのように水の中を泳ぐために発達させてきた大きな鰓だったが、成虫になったとき水上に出てきて、その鰓を使って飛ぶようになったものが現れたのではないだろうか。これが昆虫の翅の鰓起源説と呼ばれる考えだ。昆虫の翅には翅脈と呼ばれる筋が走っている。これは昆虫の鰓の中を走っている気管という筋と同じものだ。このことからも鰓起源説は正しいのではないかとされている。

またこの文章では、側背板起源説も紹介されているが、これだと途中段階のまだ役に立たない翅がかえって邪魔になり生存を不利にさせたのではないかと指摘される。この点、鰓起源説は進化の途中にある翅を持っていても邪魔にはならず、かえって元々泳ぎに使っているので生存を有利にし、さらにその発達を促進させたことが説明できる。

昆虫の翅の起源はこの説で確定しているわけではないようだけど、かなり合理的なものだと言える。


ここから先は資料に書いていないことなので推測なのだけど、最初の頃の飛翔は十分な揚力を生み出せるほど強力なものではなかっただろう。自然に吹く風の力を利用して、より広範囲に広がることができれば充分だったろう。まだ空を飛ぶ捕食者はどこにもいないので、そんなのんびりした飛翔だろうと何も問題ない。遠く離れたところでペアになり、より多くの場所で子孫を残せれば、それだけ種全体の生存率が高くなる。運が良ければ、まだ捕食者が進出していない川や沼地にたどりつくこともできただろう。こうして有翅昆虫の祖先は爆発的に地上に広がって行く。やがてトンボのような高度な飛行能力を持ち、成虫になってからも餌を食べエネルギーを補給できる種が現れる。またセミのように幼年期の水中生活を捨てた種や、そしてその中からハチやチョウのように完全変態を行い、蛹の中で立派な翅を作り上げる種まで現れる。このようにして有翅昆虫は現在も地球上を飛び回り大繁栄をしている。

この昆虫の進化という分野もとても面白いと思う。もちろんこの分野も遺伝子の研究が中心なので、施設を持った専門家たちにしかその謎は解けない。探せば論文もいろいろあるのだけど、その最新の成果を一般人が読めるくらい分かりやすく書いたものがとても少ないのは残念だ。せめて英語のWikipediaの記事を翻訳してくれる専門分野の人たちはいないだろうか。


posted by takayan at 11:55 | Comment(0) | TrackBack(0) | サイエンス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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