七夕が近いということで、先日携帯にこんなメールが送られてきた。
幸運を分けてくれようとしてくれた友人には感謝をしてやまないのだけど、天文好きの僕としては、一言も二言も言わずにおれないので、その友人にことわってこの記事を書く。
from NASA Hubbell Telescope. Make 7 wishes.ナサのハブル望遠鏡撮影。「7つの願いをこめて」「この写真はナサの天体望遠鏡で撮影されたもので、3000年に一度と言われている大変珍しい現象です。これは「神の目」と呼ばれています。この目を見つめる者には多くの奇跡が訪れるといわれており、見るものがこれを信じる信じないは関係なく、7つの願いが聞き届けられると言われています。とにかく試してみて、どのような変化があるか、見てみてください。」この知らせを、「そのかたの願いが叶いますように」と思いを込めて、たくさんの方にシェアして下さい☆自分だけで独り占めはしないこと。
実際、この画像はNASAの本物で、ハッブル宇宙望遠鏡のサイトで見ることができる。ただしこれはもともと一枚の写真ではなく、部分的ないくつものデータを合成し一枚にしたもので、肉眼でそう見えるのではなく、コンピュータによってこのように加工された画像である。しかしそれにしても、一緒に書かれている文章がどうしようもない。調べてみるとこの文面にはいくつかのバージョンがあるようだ。これはどれも、人の善意に寄生して増殖していく。画像をやりとりさせるという点でパケ代を浪費するという"実害"のある悪質なチェンメールだ。これには具体的には書いていなくても七という数字とシェアという言葉で7人への配布を暗示させている。はっきりと人数を指定してある物もあるようだ。
これが願いが叶えるかどうかということをほんとは誰も知らない。自分の願いが叶ったという感激とともに送るわけでも、また願いがかなったという事実とともに送られてきたわけでもない。チェーンメールという形態で伝わりだした時点で、もうそういう現実とは切り離されてしまう。
これはたちが悪い。与える方も人に幸せを分け与える気持ちになって、もらった方も幸せを分けてもらえたと勘違いして広げてしまう。こういう幸せな経験が積み重なって他のチェーンメールやネットワークビジネスに対する警戒心と罪悪感が薄れてしまい、いいカモが育っていくのだろう。美しくて面白い画像だが、メールで広めるのはやめた方がいい。見たければ「
ここ」でパソコンから高解像度な画像を思う存分見ればいい。
これは3000年に一度の天文現象などではなく、とても有名な惑星状星雲。らせん星雲というちゃんとした名前をもっている。天体を示す記号はNGC7293。英語ではHelix Nebulaという。位置はみずがめ座の方向にあり、地球から一番近い惑星状星雲である。以前から知られているものだが、昔は螺旋状の輪の部分だけの写真で有名だった。それが高度な観測のできるハッブル宇宙望遠鏡とコンピュータのおかげで、これほどまでに美しい画像を僕たちは手にすることができるようになった。この画像にはハッブルだけでなく、アメリカのキット・ピーク国立天文台のデータも使われている。

この画像が発表された当時の記事:
色鮮やかな宇宙のらせん 惑星状星雲NGC7293 ... アストロアーツ
Iridescent Glory of Near by Planetary Nebula Showcased on Astronomy Day May 9, 2003 11:00 AM (EDT) ... ハッブルサイト (英文)
Iridescent Glory of Nearby Planetary Nebula Showcased on Astronomy Day FOR IMMEDIATE RELEASE: May 10, 2003 ... NOAO (英文)
この星雲は恒星の死んだ残骸である。僕たちの太陽もいつかはこれとはまた別の美しい残骸を残して宇宙から消えてしまうのだろう。
このチェーンメールがいつ頃始まったかざっと調べてみた。
すると英語サイトだが都市伝説をあつかった二つのサイトにたどり着いた。
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Hubble Space Telescope Photo: 'The Eye of God' この記事によると、2003年7月27日には既に出回っていることが分かる(先のNASAの記事が公開されたのが2003年5月9日)。ただその文面には神の目という言葉は既に使われているが、願いが叶うという言葉は書かれていない。願いが叶った事実のもとにチェーンメールが始まったのではなく、チェーンメールとして伝わるうちにそのような尾ひれが付いていったことが想像できる。またこの記事にはないが、このチェーンメールにはヘブライ語で書かれたものまで登場する。日本で流れているものは、このヘブライ語の英語訳のさらに日本語訳になっている。たんにイスラエルで流行ったせいでできたのかもしれないが、そういう尾ひれが、見事に神秘性を演出してしまってる。
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Urban Legends Reference Pages: The Eye of Godこのページには2003年型と2005年型、2006年型の三種の文面が紹介されている。尾ひれが見事に育っている。
自分の願いを文章化し確認するということ、つまりそれが実現されることが幸せなことだと言葉を使って明確に思い描き意識することは、その目的を実現するためにとても意義のあることだろう。信仰心やスピリチュアルな存在に頼ることもなく、そういう意識の持ち方だけで、人は自分をその目的に向かって進ませてくれる。なぜなら人間はより明確な幸せへと、意識的にも無意識的にも向かおうとする存在だからだ。
だからこそ、作り話をきっかけにそういうことをしてほしくはない。偽薬を使って病気を治すようなことなのかもしれないが、見え透いた幻想に気分よく踊らされて、誰もが虚言をばらまいているという現実に目を向けようとしなくなることの方が恐ろしい。
願い事があるならば短冊に書いた方がよっぽどいい。今日は七夕。あいにくの雨の一日になるだろう。年に一度、七夕の短冊に願いを書くこと。もう子供の頃のようにそんなことしなくなったけれど、それはとても大切な儀式だったと思う。その願いが叶ってきただろうかと疑問は残るけれど、その願いを持ちながら生きている少年という生き方は、今となればとても素晴らしいものだった。こんなチェーンメールの、作られた迷信は早く消えてほしいと思うが、七夕飾りはずっとずっと続いてほしいと思う。
後続記事
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ヘリックス星雲
posted by takayan at 02:06
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