2007年02月26日

こうのとりのゆりかご

慈恵病院が発表した「赤ちゃんポスト」についてリポートした番組が金曜日九州のローカル枠で放送された。それについての概要メモ。

九州沖縄金曜リポート 平成19年2月23日(金)放送について  - NHK熊本放送局

放送情報:
九州沖縄金曜リポート「小さな命をどう守るのか〜熊本・赤ちゃんポストが問いかけるもの〜」
放送日時:平成19年2月23日(金) 午後7:30〜7:55 <九州ブロック>
メディア:NHK総合

ホームページに掲載された番組内容の引用
内容
赤ちゃんの命を守るために、ヨーロッパの多くの国で設置している、いわゆる「赤ちゃんポスト」。去年11月、このシステムを熊本県の病院が日本で初めて取り入れることを決めた。何よりも命を守ることを優先するのか、育児放棄を助長することになってしまうのではないか。この取り組みは、病院関係者をはじめ、全国の様々な人たちに波紋を投げかけている。番組では、熊本で始まった動きと海外の先進的な事例を追いかける。



■番組の概要


キャスター:岡野暁アナウンサー。

親が育てられない赤ちゃんを匿名で受け入れる赤ちゃんポスト。
熊本市にある慈恵病院がその赤ちゃんポスト「こうのとりのゆりかご」の導入をすすめようとしている。

最近半年の日本各地で起きた赤ちゃんが遺棄された三件の事件という現状。

慈恵病院とそれを進める理事長についてのリポート:
熊本市の慈恵病院。明治31年に開業。この病院で年間に650人の赤ちゃんが産まれている。
理事長 蓮田太二(71)氏は現役の産科医。去年11月設置をしたいとの記者会見を開く。「子どもを育てる気持ちがなければ、むしろあずけてもらったほうがいい。」

ドイツでの赤ちゃんポストの仕組みのリポート:
蓮田氏が参考にしたのはヨーロッパの赤ちゃんポスト。三年前(2004年)に視察に行ったドイツには80カ所の赤ちゃんポストがある。ドイツのベルリンにあるヴァルトフリーデ病院。人形を使った赤ちゃんポストのシステムの実演。赤ちゃんがポストに置かれると、センサが働き、常駐している複数の担当者がポストに駆け付ける。赤ちゃんのはその後、乳児院や里親を希望している人のところで育てられることになる。命に対する取り組みが強いと理事長がドイツでの印象を述べる。

記者会見の反響:
慈恵病院の取り組みが動き出せば日本で初めての試みとなる。会見の後、連日メールや手紙などの反響が届いた。その中では60%が賛成、25%が反対や慎重な意見である。賛成する人たちの多くは「命は最優先すべき」という意見。反対する人々は「子育てを放棄する風潮を助長するのではないかとの不安」を述べている。しかし理事長は反対や不安があってもできるだけ早く実現したいとの意向を示してる。

決意の背景:
おととし(2005)の12月に起きた二十歳の学生がトイレに子供を産み落とし死亡させた事件に理事長がショックを受けた(この事件は下記の新聞記事「連載(8)」を参照)。もっと早く取りかかっていたらと痛切に感じたと理事長が語る。以前から病院では電話相談を受け付けており、今後もこういう事件が起こる可能性は高いとみている。相談を通して追い込まれる女性の姿が浮き彫りになる。電話相談のいくつかの例。育てられないという女性からの電話。妊娠してしまった中二の女の子。出産に反対されている未婚の女性。悩んでいるうちに時が過ぎ頼るところもなく町を彷徨っているところを保護された女性。

現在の状況:
熊本市は判断を迫られている。赤ちゃんポストの設置は病院の改築になるので市の許可が必要になる。法律や制度が整っていないため自治体だけでの判断は難しい。放送の前日(2月22日)、幸山市長は厚生労働省に直接出向き、法律に違反するものではないとの見解をもらう。しかし同日、塩崎官房長官は子供の遺棄を助長する懸念があり是非を判断するのは難しいとの見解を述べる。

飯野奈津子NHK解説委員によるこの問題の指摘:
・産まれてくる子供の幸せにつながるのか?親に育ててもらえない子供が増えてはいけない。
・赤ちゃんポストが悪用される可能性もある。今後赤ちゃんを不当に扱うところも出てくるかもしれない。
・親が名のらずに子供を託すので子供本人が自分を産んでくれた親が誰なのかを知ることができない。自我の形成に影響を与えかねない。

ハンガリーのレポート:
ハンガリー共和国の取材。ハンガリーはヨーロッパ中部にある北海道ほどの広さの人口一千万人の国。赤ちゃんポストを11年前から。現在、五つの病院に設置してある。市民にもなじみ深いものとなっている。世界で初めて設置された「スチョップ・メレ・アゴスト病院」の赤ちゃんポストの映像(ドイツのものとは違い、狭い廊下に保育器が置いてある)。ここでは今までに23人の赤ちゃんが保護された。

今月三日、生後四日目の女の赤ちゃんがポストに預けられた。リリーと名付けられた。

保護された赤ちゃんの行き先:
健康に問題がなければ、一週間前後で里親の元に行く。里親と赤ちゃんを結びづけるために病院と行政が密接に連絡を取り合っている。児童福祉局に連絡される。里親は現在300組が登録されていて、三年以上待っている状態。

赤ちゃんポスト設置の背景:
1989年ハンガリーが民主化される。経済の自由化とともに貧富の格差が拡大した。10年前、殺された赤ちゃんがゴミ箱に捨てられたり、毛布でくるまれて焼かれたりする悲惨な事件が相次いだ。中世の修道院にも似たような施設があり、それをヒントに考えられた。この病院のガラム・ヴォルジ院長へのインタビュー。悲惨な事件が相次ぎ、なんとかしなければならないと強い思いがあったと院長。

三日後、児童福祉局が選んだ里親がやってきた。里親は毎日赤ちゃんとのスキンシップをしにくることになる。

母子保護プログラム:
ハンガリーでは赤ちゃんポストの設置と同時に母子保護プログラムも始めた。追い込まれる前に母親をサポートするシステム。このプログラムを利用した例の紹介。子供を産むべきか悩んだが、悩みを聞いてもらったり、子育てをしながら働くためのアドバイスを受けて、出産を決意できたと女性。母子保護プログラムには、より深刻な悩みに対処するためにクライシス科も用意されている。親に追い出された中絶できない時期の若い女性が心理学者からカウンセリングを受ける映像。入院の費用は無料で国が負担する。母親をサポートするために専門家がチームを組んで悩む女性たちに具体的な解決策を示す。ソーシャルワーカは就職や住む場所の相談を担当、心理学者は心のケアを、弁護士は相手の男性との調停などを。この三者が連携をとりながらサポートするシステムができている。現実的な選択肢を考える手助けをしていると心理学者。

六日目。リリーちゃん門出の日。赤ちゃんが里親の元に行く日は第二の誕生日と呼ばれている。

ハンガリーのリポートのまとめのナレーション:
命を救うための赤ちゃんポストとそれを利用する子を一人でも減らすための母子保護プログラム。この命を救う二つの柱があり、着実に社会に根付いている。

ハンガリーの院長の言葉:
赤ちゃんポストを設置するだけでは意味がない。赤ちゃんと母親をサポートする複合的なプログラムが不可欠である。赤ちゃんポストは赤ちゃんを生き延びさせる最後の手段である。

解説委員によるまとめ:
日本では病院や行政での個別の支援はあるが、それは総合的には支える仕組みがない。そういう窓口があることすら知らない人もいる。現在日本では、子供の虐待が取り沙汰されて、子どもを産んだ後の支援の体制はできてきているが、妊娠前の支援は十分ではない。
キャスタからの「小さな命を救うためのポイントはなんだろうか?」との問い。赤ちゃんポストを使わなくてもすみような状況にしなくてはいけない。その前の段階の支援を行っていく必要がある。望まない妊娠が何故増えているのかも考えるべきである。性行動の低年齢化もそのひとつで、子供たちと向き合って話していく必要がある。医療機関と行政の連携だけでなく、私たち一人一人がこの問題を考えていくことが大切ではないだろうか。

メモ終わり。


■慈恵病院公式
慈恵病院の公式ページ
「こうのとりのゆりかごについて」慈恵病院 理事長 蓮田太二氏


■慈恵病院の地元である熊本日日新聞の、赤ちゃんポスト関連オンライン記事

くまにち.コム「健康と医療 こども」内にある関連記事

連載「揺れるいのち 赤ちゃんポストのメッセージ」
(1)助産師の苦悩
(2)置き去り…名前すら授けず
(3)妊娠かっとう相談
(4)親の「事情」
(5)施設で育った子ども
(6)特別養子縁組
(7)里親制度
(8)男性不在
(9)性教育
(10)大阪大特任研究員・阪本恭子さんに聞く


慈恵病院「赤ちゃんポスト」計画
「赤ちゃんポスト」設置へ 親が養育できない新生児受け入れ
電話、メール…賛否殺到 HPアクセス 2日で4万件
年内開始めざす 施設の改修許可を熊本市に申請へ
[解説]幅広い「命」の論議を 受け入れ体制充実、課題に
助かる命、助けたい 「基金に協力支援を」 蓮田副院長インタビュー
「中絶よりいい」「捨て子奨励する」 識者から賛否の声
命の揺りかごか 育児放棄助長か 関係者 賛否さまざま
施設改修届け出先送り 熊本市の助言受け手直し
「赤ちゃんポスト」題材に道徳授業 命の尊さ 考え深める 熊本市の井芹中2年2組 賛否に分かれディベート
「赤ちゃんポスト」で知事 「命…救われたほうがいい」 (潮谷知事の記者会見映像あり)
赤ちゃんポスト設置申請 熊本市の慈恵病院 市「慎重に判断する」
赤ちゃんポスト許可申請 慈恵病院 他病院から設置相談も
赤ちゃんポスト 「総合的に判断したい」 熊本市が厚労省に相談
「勇気持って決断を」 設置申請の慈恵病院 熊本市の判断促す
赤ちゃんポスト 熊本市許可へ最終調整 22日厚労省と協議
赤ちゃんポスト許可へ 厚労省も「不許可理由ない」 熊本市
慈恵病院 厚労省見解に感謝 「命の尊さ理解」
赤ちゃんポスト 政府内に慎重論 高市氏ら「子捨て」懸念
首相「大変抵抗感じる」 厚労省容認姿勢に影響も
「赤ちゃんポスト」に首相反対 横やりに厚労省困惑
病院「ポストは必要」 事態急変に熊本市困惑
熊日「読者と報道を考える委員会」 赤ちゃんポストなど論議


こんなにみんなが真剣にこの問題を考えているのだから、安倍首相の見解により今回設置ができなくても、このとりくみがきっかけとなり世の中をいい方向に動かしていけるだろう。そうしていかなくてはならない。

いろいろ資料を読んで考えると、議論などしている場合ではなくすぐにでも設置して命を救わなくてはいけないという気持ちでいっぱいになる。一方で、行政側の準備が何もできていない状態で見切り発車してしまって取り返しのつかない暴走をしてしまうのではと不安を感じずにはいられない。

慈恵病院でのこの試みは動き出してみないとわからない。赤ちゃんの預かりを拒否しないといけないくらいに利用者が出るかもしれないし、これがあることで追い詰められずに相談するという選択肢を見つけることができ、ここを誰も利用しないですむかもしれない。

市長はやる気に見える。もちろん設置許可以外も取り組んでほしいし、そこまで考えているだろう。そちらこそが子供を捨てようとしている人に限らない全ての母子を支えることができる本来の取り組みになるだろう。


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2007年03月02日

イタリアの「赤ちゃんポスト」

「赤ちゃんポスト」という言葉はあまりいい響きではないが、日本の報道ではどうやらこの用語が一般的のようなので、ここでも仕方なくこの表現を踏襲する。「こうのとりのゆりかご」というのは慈恵病院で設置されるものを示すための固有名詞だと理解しているので、それを一般名詞として使用するのは避ける。この言葉についていろいろを調べてみた。

日本では4日前に伝えられたニュースだが、ローマに年末に新設された赤ちゃんポストに、24日そこへ初めての赤ちゃんが預けられたそうである。

ローマ東郊の総合病院が昨年12月に新設した「赤ちゃんポスト」に24日、男児が預けられ、1人目として保護された。26日付イタリア各紙が報じた。
 男児は生後3〜4カ月のイタリア人とみられ、24日夜、病院に隣接するプレハブ棟のベッドに置かれた。センサー式の警報が鳴ったため、医師らが駆け付けて保護した。
 同病院では育児が困難な若い母親を助け、赤ちゃんを受け入れようと、実験的に「ポスト」を設置。入り口には「捨てないで。私たちに預けて」と記されている。

赤ちゃんポスト:昨年末新設、男児を初保護 ローマの病院−ヨーロッパ:MSN毎日インタラクティブ(2007年2月27日)

これの現地での記事を探してみた。

ROMA - Un bimbo di circa quattro mesi e stato lasciato a Roma nella struttura del servizio 'Non abbandonarlo, affidalo a noi' del policlinico Casilino: la 'nuova ruota' per i bimbi abbandonati da mamme in difficolta . ......

引用元:BIMBO DI 4 MESI ABBANDONATO NELLA 'RUOTA' A ROMA 2007-02-25 19:24 - イタリア共同通信社(ANSA)

イタリア語は駄目なので英語への機械翻訳で漠然と意味を理解してみる。だいたい上記の毎日の記事と同じような内容のようだ。
「生後約四ヶ月の赤ちゃんが、ローマにあるpoliclinico Casilinoの『捨てないで、私たちに預けて』サービスの施設に置き去りにされた。その施設は困窮した母親によって捨てられる子供たちのために設置された「新しいruota」というものだ、ということが書いてあるみたいだ。

「(nuova)ruota」というのが、イタリア語の赤ちゃんポストだと分かる。nuovaは英語のnewで、ruotaは英語のwheelである。この記事のあとのほうを読むと分かるが、「ruota」は教皇インノケンティウス3世(Papa Innocenzo III 伊)によって12世紀に設置されたのが始まりとされる。それは19世紀まで続いた。この記事では最近のこれを刷新して設置しているものをnuova(new)をつけてと呼んでいるわけだ。

(余談だが教皇インノケンティウス3世は「教皇は太陽、皇帝は月」という言葉で有名な教皇である。また聖フランチェスカの純粋な生き様を描いた映画「ブラザーサン・シスタームーン」というイタリア映画に出てくる教皇であると言えば分かる人もいるだろう。)

「ruota」は「ruota degli esposti」もしくは「ruota dei trovatelli」の略。espostiとtrovatelliはどちらも捨て子という意味らしい。routa(wheel)は意味は分かるのだけど、よい訳が見あたらない(きっと日本語の専門用語があるのだろうが)。いろいろ調べてみると、阪本恭子氏の論文ひとは如何にして子どもを「捨てる」かの中で"中世ヨーロッパ「回転箱」"という言葉で引用されているものが(訳語は添えていないが)、同じものを指しているだろう。

「回転箱」という言葉を使った日本語で書かれた投稿がある。それを読むと、当時の雰囲気がよく分かると思う。イタリア人も遠い昔のこういう状況と比較して今回の「“新しい”回転箱」の設置を考えているのだろう。

イタリアでは捨て子はずっと昔からあったが、19世紀にピークを迎える。理由の根元は貧しさにあると思う。実際に、主に貧しい地域、貧しい家庭が子供を捨てていた。一種の口減らしで、これは日本にも見られた。貧しい家庭では養っていけない程子供ができると、子供を捨てていた。路上や裕福な人の家の前に捨てても、誰も引き取り手がなく、野犬に食いつかれたりして、さすがに社会問題となったようだ。そこで教会や孤児院で捨て子回収システムが確立される。私もローマで見たことがあるが、教会の壁に木製の大きな回転箱が埋め込まれ、親は夜にそこに来て、子供を箱に入れ、くるっと回転させる。すると、内部でチリンと合図の鈴か鐘が鳴って、夜勤の受付係が捨て子を受け取る。回転箱なので、親は顔を見られない。これがシステム化され、人々に知られるようになると、捨てられる子供の数が増える。そして実際増えた。

引用元:ピノキオと捨て子 - 今日も世界の片隅で

この回帰的なイタリアの赤ちゃんポストの設置について報告した英語の記事がある。Hospital to bring back abandoned baby wheel (September 07, 2005) - TIMES ONLINE

Many women abandon their babies in rubbish bins. In the past week alone three dead babies have been found in waste bins. Officially only 15 to 20 children are killed each year, but Signora Passeri said that the true figure was at least ten times that number.
The latest cases of abandoned infants --- one Chinese, one Ukrainian and one Nigerian --- came to light after the mothers arrived at hospital with birth injuries but no baby. Signora Passeri said that, until six years ago, “nearly all” the women abandoning newborn babies were Italian. “Nowadays the majority are immigrants, often illegal immigrants afraid to turn to the authorities .”


イタリアでは、ゴミ箱に赤ちゃんが遺棄されている。一週間に三人の死んだ赤ちゃんがゴミ箱から発見されたこともある。公式発表では毎年少なくとも15から20人の子供たちが殺されている。(中略) 六年前までは赤ちゃんを遺棄していたのはほとんどがイタリア人だったが、最近は移民が大多数を占めている。不法移民の人々が当局に頼ることを恐れるからだという。

Signora Passeri said that local councils had agreed to stick notices on municipal rubbish bins “in several languages” advising women about the scheme.


上の引用で各地のゴミ箱に複数の言語で書かれた警告を貼り付けるとあるが、これが先のイタリア語の記事にある「捨てないで、私たちに預けて」というスローガンを使ったキャンペーンになったのだろう。二年前の計画通り本当にゴミ箱に貼られたのかはわからないが、病院には貼られているようだ。

上のイタリア語の引用元の記事を開いた人なら、あの写真を見て衝撃を受けたと思う。あの大人の手のひらの上の非常に小さな赤ちゃんのポスターをよく見ると、一番上にイタリア語'Non abbandonarlo, affidalo a noi(捨てないで、私たちに預けて)'、写真の手の下にフランス語、そしてルーマニア語で同様の意味と思われる文が書かれている。

またこのキャンペーンを扱った別のイタリアの記事NON ABBANDONARLO! AFFIDALLO A NOI(19 Febbraio 2007-11:20)を見ると、同じ赤ちゃんを使った別なバージョンのポスターの写真が映っている。赤ちゃんの下に国旗とその国の言語による告知らしきものが書いてある。イタリア、フランス、イギリスの国旗に混じって、近年イタリアへの移民が急激に増えてきているという中国の国旗も描かれている。

この衝撃的なポスターを見ても、イタリアの本気ぐあいが伝わってくる。この現実を突きつけられれば、「赤ちゃんポスト」の必要性は誰もがやむを得ないことだと思うだろう。



「culla per la vita(命の揺りかご)」という言葉も「赤ちゃんポスト」として使われている。この区別がよく分からない。

次のようなローマに先立つ設置例の記事がある。

In Italy, drop-off windows for unwanted babies have been a last resort for desperate mothers since medieval times. Now they're getting high-tech help.
The Northern Italian town of Padua recently inaugurated a "cradle for life" (culla per la vita) hoping to curb incidents of babies dumped in trash bins, open fields and public bathrooms. The National Association for Adoptive and Foster Families, or Anfaa, estimates that 400 newborns are abandoned in Italy every year, with a 10 percent yearly increase. .....

引用元:Baby Drop Box Gets Tech Upgrade (02:00 AM Jan, 03, 2006) - Wired News

その日本語訳のページもある。

 イタリアでは中世以来、望まれずに生まれてきた赤ん坊を抱え途方に暮れた母親にとって、教会や孤児院の捨て子置き場が最後の拠り所だった。そんな母親たちに今、特別設計の装置が救いの手を差し伸べようとしている。
 北イタリアの町、パドバでは先頃、赤ん坊がゴミ箱や広場や公衆トイレに置き去りにされ、寒さで死んでしまうのを防ぐために、『命のゆりかご』が設置された。イタリアの『全国養家・里親協会』(Anfaa)の試算によると、イタリアでは毎年400人の新生児が捨てられていて、その数は毎年10%増加しているという。.....

引用元:捨てられた赤ん坊を救う特製の「捨て子窓口」(2006年1月3日 2:00am PT) - Hot Wired Japan

この記事の後半に次の記述がある。

 この装置は、人工妊娠中絶に反対する団体『命の活動』(Movement for Life)が2005年に寄贈した6台目のものとなる。この特別製のゆりかごの価格は6300ユーロ(およそ87万円)で、設計から設置まで約1年を要した。


この記事からすると、人工妊娠中絶に反対する団体『Movimento per la Vita(伊)』が寄贈している装置の名前が『culla per la vita(伊)』だということだろうか。Culla per la Vita - Italia Donnaにある「il Movimento per la Vita di Padova inaugurera a giorni la “culla per la vita”」という文章を眺めてみると、そう考えてよさそうに思う。


■各国での「赤ちゃんポスト」の呼び方
ドイツ語では赤ちゃんポストはBabyklappe、Babynest。Klappeは跳ねぶたのこと。英語では baby hatch、foundling wheels、revolving cribなどと呼ばれている。ポルトガル語ではroda dos expostos。rodaはイタリア語のroutaに相当する語である。

以下のページより
Babyklappe - Wikipedia(de)
Baby hatch - Wikipedia(en)
Hospital to bring back abandoned baby wheel (September 07, 2005) - TIMES ONLINE

※Babynest
重要事項調査議員団(第三班)報告書 - 参議院を読むと、ミュンヘンでの報告の中で「赤ちゃんポスト(ベビーネスト)」という語が出てくる。
この単語で調べると、調査先のシュヴァービング病院のBabynestの説明Babynestというページもある。ただ単純な言葉なのでベビー用品のページも引っかかったりしてしまう。


■日本での用語
「赤ちゃんポスト」という言葉はいつから使われたかをネットで調べてみたが分からなかった。文部科学省 映像作品等選定一覧(平成18年3月)によると、NPO法人円ブリオ基金センターが制作した「赤ちゃんポスト−ドイツと日本の取り組み」が2006年3月22日に文部科学省の社会教育用(教養・情操)として選定されている。少なくとも去年11月の慈恵病院の発表のときに「赤ちゃんポスト」という言葉を作ったわけではないようだ。

安倍首相がポストという言葉に抵抗を受けたのも仕方がないくらい(首相が抵抗を感じるのはその点だけではないのだろうけど)、この「赤ちゃんポスト」という言葉が、赤ちゃんを物扱いする悪い印象を与えてしまっていて、その第一印象で損をしている。先ほど引用した阪本恭子氏の論文ひとは如何にして子どもを「捨てる」か --ドイツにおける「捨て子ボックス」の現状報告-- では、「捨て子ボックス」という語を使っている。そしてその中でこの訳語が定着していると記述されている(2003年当時)。この言葉に比べれば「赤ちゃんポスト」はましなんだけど。ネット上では他にも「子捨てポスト」という言葉が使われていた。これは議員のページにも使われているので勝手な造語ではないだろう。

捨て子合法化に2000年7月の記事として毎日新聞の記事が転載として以下の内容が投稿されている。

先日の毎日新聞記事(共同電)
「ベビーポスト利用第1号」
>赤ん坊が捨てられ死亡するのを防ぐ苦肉の策として、ドイツ北部ハンブルクの託児所が
>設けた「ベビーポスト」に第1号の利用があったことが4日わかった。
>5月初旬、ポストに生後間もない女児が置かれているのを職員が見つけ保護した。
>同市近郊の夫婦に引き取られたという。


引用元が見つからないのが残念なのだが、当時は新聞用語では「ベビーポスト」が使われていたことがうかがえる。上記の阪本氏の論文以前のことであるから研究の現場と、より多くの人々の目に触れる報道では、「捨て子」や「子捨て」の使用を回避したために別々の用語が共存したのではと憶測できる。「ポスト」という訳は、原語を根拠にせず単にドイツで開設された装置の形態から勝手に名付けたように思える。そこらへんの本当の事情は分からない。

不完全だけど、とりあえずここまで。
少し修正。


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2007年04月21日

ハンガリーの赤ちゃんポスト

熊本市にある慈恵病院が設置する赤ちゃんポストは、早ければゴールデンウィーク明けにも運用が開始されるもよう。熊本での詳しい動きが知りたければ、地元紙・熊本日日新聞の特集ページ「くまにち.コム/こうのとりのゆりかご」をご覧下さい。

さて、NHKの九州沖縄金曜リポートで放送された「こうのとりのゆりかご」についての番組「小さな命をどう守るのか〜熊本・赤ちゃんポストが問いかけるもの〜」(2007.2.23)の概要メモを以前書いたけれど(「こうのとりのゆりかご」)、そのなかで現代における最初の赤ちゃんポストはハンガリーで1996年に設置されたという報告があった。番組の中ではドイツでの取り組みも報告されたが、最初の赤ちゃんポストの地であるブダペストでの取材、院長からのメッセージなどが中心に放送された。このことは先の記事でまとめている。

ネット上で海外の「赤ちゃんポスト」についての記事を探してみても、探し出せる情報はドイツのものばかりだ。今回の慈恵病院で作られているものもドイツ視察で学んできたものを参考にしている。一方、ハンガリーでの情報は日本語では僕が書いたものぐらいしか見つからないみたい。ハンガリーでの呼び方すら分からない。そういうわけで、ハンガリーの情報を調べてみた。

探し当てたページは、二つ。

Incubators in Hungarian hospital lobbies allow babies to be abandoned more safely(1999.7.24) --- 英語

Tíz éve kezdődött a Babamentő Program a Schöpf-Merei Ágost Kórházban(2005.05.02) --- ハンガリー語

最初の英語で書かれた記事は、ブダペストでの取り組みを英語でわかりやすく書いてある。この記事は1999年のものでその中で3年前に始まったと書いてある。最初に設置されたこの病院では三年目のこの時点で9人の赤ちゃんが救われたともある。

二番目の記事は2005年に書かれたもので、取り組みを初めて10年目になろうとしているこの病院を訪ねての取材らしい。ハンガリー語なので内容は分からない。ハンガリー語の分かる人が訳してくれるとありがたいな。

ハンガリー語の記事のタイトルを見ると、どうやら「赤ちゃんポスト」に当たる言葉として「Babamentő Program」という単語が使われているようだ。調べてみるとハンガリー語babaは英語のbaby、mentőはrescuerのこと。(Free Online Hungarian to English Translatorを利用)

Babamentő programというのは、上の英語の記事だと「the incubator programme」という表現に相当するのだろう。このBabamentőというのは、用意された保育器を指して使われている言葉と考えていいだろう。ハンガリーの、少なくともこの最初の病院の、いわゆる「赤ちゃんポスト」はポスト状ではない。前述のNHKのレポートの映像を見て僕は「病院の狭い廊下に保育器」と描写したが、上記の英語の記事のタイトルでは「Incubators in Hungarian hospital lobbies(病院のロビー)」、その記事内では「a portable incubator in the hallway, just inside the front door(玄関廊下にある移動式の保育器)」とあるように、例のはねぶた式のドイツの赤ちゃんポストとは違って単に保育器そのものが病院の建物内に置かれている。



参考までに、第二のページを探し当てた道順は、en.Wikipediaの「Baby hatch」の各地の情報についての項目で、NHKの放送で出てきたブダペストにある「スチョップ・メレ・アゴスト病院」の英語綴りが「Schopf-Merei Agost」だと分かる。その綴りで検索し、第一のページを見つける。この検索結果の別のページでそのハンガリー語での綴りが「Schöpf-Merei Ágost」であることを知る。そして、これと1996との複合検索でハンガリー語の第二のページをみつけ出した。そんなにすんなり来れたわけではないけれど。

そして、二番目の記事は病院の名前は確かに合っているが、ハンガリー語が分からないのに、本当にこれが赤ちゃんポストの記事だとどうやって断定したのかというと、記事の単語を眺めて見るとすぐにinkubátortという単語があって、これはおそらく保育器「incubator」に相当するハンガリー語だろうと思い、それを確かめるためその単語および、全文に対してのFree Online Hungarian to English Translatorの翻訳を実行して確認した(精度はあまり良くないが断片的に判断できる)。原文には「Garamvölgyi György」という人の名前らしい言葉が出てくる。これはNHKの番組出てきた院長先生ガラム・ヴォルジさんのことだ。


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2007年10月04日

クローズアップ現代「「相次ぐ赤ちゃん置き去り事件」

クローズアップ現代でやっていた子供の置き去り事件に関する特集を見ていた。これについての感想を書いてみる。今回はいままでの「赤ちゃんポスト」について書いたときのように内容中心には書かない。
※最初タイトルとして新聞に書いてあった案内文を書いたが、調べたら本来のタイトルは違ったので書き直した。


追い詰められている女性への配慮は分かるのだけれど、本気でそんな分析をたれ流していいのかと思った。このブログでも書いた九州のNHKで作った「赤ちゃんポスト」特集の方がよっぽどまともだ。


こんな平和で豊かな時代、「飢饉」や「天変地異」でもないのに子供が捨てられている原因について語られる。

この番組で指摘されている現代の若い女性達を襲っている問題は以下の三つの貧困:
・経済的な貧困
・人間関係の貧困
・性教育の貧困
この番組ではこれをまとめて「貧困」というキーワードで語っていく。

まずこの問題を語る場合に大切なことがある。子供を捨ててしまいそうになっている女性は、混乱し苦しんでいるという大前提がある。そしてそのどうすることもできない混乱の解決として、その原因を作っている子供を、自分を苦しめる現象としか認識ができなくなってしまい、自分の目の前から排除し無かったことにしてしまいかねない状況にあるということだ。冷静な判断ができなくなるほど追い詰められている。

この女性達を、もうこれ以上追い詰めてはいけない。追い詰められている人間に対し、むち打つような言葉を投げかけてはいけない。その言葉は、決して、その行為をとどまらせなどはしない。余計に最悪な結果を招いてしまうだろう。絶対に責めてはいけない。

番組もこの大前提で作られているのだと思う。そこで話をする先生達もみんな、そうなのだと思う。(ここで書いている私もそのつもりだ。)

だから、番組ではこの女性達の責任は不問で進んでいく。でもここがとてつもなく違和感を覚えさせる。女性自身に一切の責任を負わせないために、諸悪の根源としての「貧困」というキーワードが身代わりに提示されてくる。たしかに「貧困」がそこにある。この番組における「貧困」の定義は先に述べたように、経済的なものに限ったものではない。周りをその「貧困」が囲みこみ女性達を身動きさせなくしている現実が見えてくる。

でも、そもそも目の前の現象を描き出せばそのような困窮した現実が見えてきて当然であるが、そういう一切をひっくるめて「貧困」という一つのキーワードで語るのはおかしくないか?逆に「貧困」の一言でまとめてしまうために、問題の細部を無理に切り捨ててしまっているのではないだろうか。解決すべき問題を見えにくくさせてしまわないだろうか。

「貧困」という言葉は原因を本人から外に切り離すためのものである。安定した収入の得られない社会状況に置かれ、現代の希薄な人間関係の中にいてバカな男に出会い、そして正しい性情報を与えてもらえずにいるという不幸な現状を表すための言葉である。あなた本人は悪くないよ社会が悪いんですよという優しいメッセージだ。


この番組を何気なく見ると、格差社会が子捨てを増やしているように受け取れるように作ってあるが、実はそのことははっきりと示しては言っていない。ただそう思わせるように作っている。

(あとで続きを書くと予告していたが、実際書いたけど、厳しいことを長々書いて、最後には自分でもどうでもよくなったので、続きはなし。とにかく、この番組の主張は客観的な根拠が少なすぎる。)


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2008年01月22日

「婚外子が初めて半数超える フランス、法制度も後押し」

こんな記事を見つけた。カテゴリーの「赤ちゃんポスト」とは直接関係ないけれど、フランスにおける出生の記事。

 フランスで昨年生まれた子どものうち、婚外子の割合が50.5%と初めて半数を超えたことが、仏国立統計経済研究所が15日に公表した人口統計で分かった。結婚に縛られない自由な男女関係を望む風潮を、法制度が後押ししてきた背景がある。

 統計によると、昨年生まれた子どもは81万6500人で、83万人を超えた06年を約1.7%下回ったものの、昨年の結婚件数は26万6500件と前年より約2.8%も減少。その結果、婚姻関係にある男女間に生まれた嫡出子が半数を切った。


引用元:婚外子が初めて半数超える フランス、法制度も後押し 2008年01月16日20時14分 asahi.com

フランスがそんな制度だということは知っていたが、ここまで来てるんだ。以前赤ちゃんポストのことを調べたときは、フランスには匿名出産(Accouchement sous X - fr.wikipedia)なんていうのがあるから、赤ちゃんポスト自体必要がないということがわかって驚いてしまった。人権の進んだフランス人の考えには正直ついていけないな。

記事の引用していない部分に出てくるPACSは、日本語版Wikipdeiaでは民事連帯契約法として書かれている。フランス語版Pacte civil de solidaritéだと、具体的な数字なども紹介されている。


ブログに書くときは、記事が正しいかちょっと調べたくなる。それで元記事を探してみた。

日本語の文章の翻訳元ではないが、同じ話題を扱ったルモンドの記事を見つけた。タイトルにPACSとある。上記の日本語の部分に対応するところだけを引用すると、

Conséquence de la baisse des unions matrimoniales, les naissances hors mariage ont poursuivi leur progression et sont devenues en 2006 majoritaires pour la première fois, avec 50,5 % de l'ensemble des naissances contre 48,4 % un an plus tôt. Il y a dix ans, cette proportion ne dépassait pas 40 % et elle était de 10 % seulement en 1977, il y a une génération, rappelle l'Insee.


引用元:Le pacs progresse, les naissances hors mariage aussi

朝日の記事だと昨年ということになっていたけど、これはどうやら2006年の統計だ。人口については2007年の統計だけど。

最後の単語Inseeは、 Institut national de la statistique et des études économiquesの略称。つまりフランス国立統計経済研究所のこと。サイトのアドレスも見つけたが、開けなかった。


参考ページ:
婚外子がフランスでは過半数に (01/21) - フランス語講座(携帯対応)

フランスの婚外子出生比率、06年に50%を突破 - ロイター

仏の婚外子、初の過半数・07年出生割合 - 日経


利用した翻訳サイト:
Alta Vista - Babel Fish Translation


posted by takayan at 02:02 | Comment(0) | TrackBack(0) | 赤ちゃんポスト | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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