最初に柳沢厚労省大臣が配慮のない発言してしまったのがそもそもいけないのだけれど、それ以上におかしいのはそれに対する野党の審議拒否や、マスコミ一斉の批判のほうだ。柳沢大臣の「産む機械と言ってはなんですが発言」は、それこそ謝罪すべき言葉だと思う。機械という言葉を人を比喩するときに使っては誤解が生じてしまう。機能を表現するとき機械という言葉は便利な言葉であるが、機械という表現は侮蔑の意味にとられかねない。しかしちゃんと大臣は批判を受けると平身低頭、徹頭徹尾それを謝罪し続けた。それでいいのではないかと思った。
そして今度の「健全発言」。この発言そのものに問題を感じない。「二人以上産まない人間は不健全な人間だ」ときっぱり言い放っているならば、それこそ辞任要求もうなずける。けれど、そうとは言っていない。『・・・他方、ご当人の若い人たちというのは、結婚をしたい、それから、子どもを二人以上持ちたいという極めて健全な状況にいるわけですね。だから、本当に、そういう日本の若者の健全な、なんというか、希望というものに我々がフィットした政策を出していくということが非常に大事だというふうに思っているところです。・・・』という表現が、「二人以上産まない人間は不健全な人間だ」と言っているのも同じだと思ってしまうのは、論理の飛躍でしかない。一般人やそこらへんのコメンテータならともかく、新聞の論説委員とか、政治家が、平気でこの論理の飛躍を根拠に辞任論を展開している。僕はそれを見て笑ってしまった。もうこの人たちの頭の中では、架空の「二人以上産まない人間は不健全な人間だ」発言が事実としてあって、それを前提に議論をすすめてしまっている。この程度の言語能力の人たちが大衆の前で言葉の職業をしている。笑っている場合ではなく、ほんとうはそれはとても危険なことだと思う。
・厚生労働省・広報部による当該発言概要
・・・略・・・(記 者) 少子化対策というのは、女性だけに求めるものなのかどうか、その辺りのお考えはいかがでしょうか。
(大 臣) これはもう、元から私申し上げておりますように、要するに、若い人たちの雇用の形態というようなものが、例えば、婚姻の状況等に強い相関関係を持って、雇用が安定すれば婚姻の率も高まると、こういうような状況ですから、まず、そういうようなことにも着目して、私どもは若者に対して安定した雇用の場を与えていかなければいけないと、こういうことでありましょう。それからまた、女性、あるいは一緒の所帯に住む世帯の家計というようなものが、子どもを持つことによって厳しい条件になりますから、それらを軽減するという、いわゆる経済的な支援というようなものも必要だろうと、このように考えます。それからもう1つは、やはり家庭を営み、また子どもを育てるということには、人生の喜びというか、そういうようなものがあるんだというような、意識の面の、自己実現といった場合ももう少し広い範囲でみんなが若い人たちが捉えるように、ということが必要だろうというふうに思います。ただ、前から言っていることですが、そういうことを我々は政策として考えていかなければいけないのではないかと思うのですが、他方、ご当人の若い人たちというのは、結婚をしたい、それから、子どもを二人以上持ちたいという極めて健全な状況にいるわけですね。だから、本当に、そういう日本の若者の健全な、なんというか、希望というものに我々がフィットした政策を出していくということが非常に大事だというふうに思っているところです。具体的な事について、いろいろまた考えていかなければいけない。基本的枠組みとしては、そのようなことです。・・・略・・・
出典:http://www.mhlw.go.jp/kaiken/daijin/2007/02/k0206.html
(こういうのは政府発表よりもメディア発表をソースにすべきなのだろうが)
※「結婚をしたい」と「子供を二人以上持ちたい」という根拠は、ある最近の統計にあるのだが、メモするのを忘れたのでそれがどの統計かは分からない。とにかくそういう統計から出てきている。このことを知らないと誤解が生じるだろう。それを補うのがマスコミの仕事なのだが。
(追記)この資料については、柳沢発言・補足に詳しく書いた。
上記の引用を読んで分かるのは、大臣は個々の若者の行動に言及しているわけではないということ。語られているのは、(子供を望む若者もいて、子供を望まない若者がいて、)それを統計としてみると全体では平均で子供を二人以上望んでいるという事実である。これは若者の総意としてとらえても問題がない。統計とはそういうものだ。社会の平均化した総意として子供を望まない社会と、望む社会とがあれば、子供を望む社会を健全と表現することをどうして批判できるのだろうか。その望みを大臣としての立場で応援したいという表明にしか僕には読み取れない。
そもそも「健全な状況」という言葉がかかっているのは、「若者たちは結婚を望んでいる。」「若者たちは子供を二人以上持ちたいと望んでいる。」、この二つの情報である。しかしテレビや新聞の見出しでは「二人以上持つこと」をだけ「健全」と言っているかのような伝え方をしている。それも「二人以上」という数字を強調してもいる。そういうニュースにすれば、そりゃ誤解はうまれますよ。しかし文脈を整理して言葉を聞けば、これは統計の結果を述べているだけで、「二人以上」を特別扱いしているのではないことがわかる。
政治家は常に政敵をやっつけたがっているものだから、これらの発言を批判の材料にするのは、辞任要求は行き過ぎだが、百歩ゆずって理解できる。けれどマスコミの連中の偏向の具合は救い難い。